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「本当に夢のような時間でした」。神村学園DF中江小次郎が聖地でも貫いた選手権を楽しむ気持ち

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チーム3点目を叩き出した神村学園高DF中江小次郎(20番)(写真協力『高校サッカー年鑑』)

[1.7 全国高校選手権準決勝 神村学園高 3-3(PK1-4)岡山学芸館高 国立]

 夢の国立競技場でのプレーは、楽しかった。毎日のように一緒にボールを蹴ってきた仲間と同じピッチに立ち、ゴールまで決められた。それはもちろんもっとみんなとサッカーしたかったけれど、全国ベスト4という結果だって立派な成績だ。

「選手権は楽しかったですね。贅沢を言えば優勝したかったですけど、ここまで来られたことは良かったです。決して悪くない終わり方だったんじゃないかなって、今は思っています」。

 神村学園高(鹿児島)の最終ラインを支えた闘魂系センターバック。DF中江小次郎(3年=神村学園中出身)は、さわやかな笑顔とともに選手権の舞台から去っていった。

 1年間に渡って、神村学園のレギュラーを張り続けてきた。どうしてもFW福田師王(3年)とMF大迫塁(3年)を筆頭に、抜群の破壊力を有する攻撃陣に注目が集まるが、DF大川翔(3年)と中江で組んだCBコンビは不動。左のDF吉永夢希(2年)、右のDF有馬康汰(2年)と攻撃的なサイドバックを擁するチームの守備を、堅実に、逞しく支えてきた。

 初戦となった2回戦の山梨学院高(山梨)戦では、2失点こそ喫したものの、3-2とリードした後半のアディショナルタイムに、GKを破られる決定的なシュートを放たれたが、ゴールカバーに入った中江のスーパークリアが勝利を手繰り寄せる。

 さらに3回戦の日大藤沢高(神奈川)戦では、もつれ込んだPK戦の4人目のキッカーとして登場すると、選択したコースはど真ん中。「真ん中に蹴れば入るかなと思ったので、地面は蹴ったんですけど(笑)、入って良かったです」と振り返るキックは、バウンドしながらゴールネットを揺らす。面構えからもわかる強心臓ぶりが、とにかく頼もしかった。

 日本サッカー界の聖地・国立競技場を舞台にした、岡山学芸館高(岡山)との準決勝。開始早々に中江へ絶好の先制機が巡ってくる。前半2分。左から大迫が蹴ったCKに、ニアで合わせたヘディングはドンピシャ。だが、ボールは枠の左へ逸れてしまう。「やらかしましたね。アレを決めておけばもっと良い流れになったと思います」とは本人。その4分後に失点を食らい、試合はお互いにゴールを奪い合う展開に突入していく。

 後半24分。2-2と同点の状況で、汚名返上の機会が回ってきた。今度は右サイドで獲得した神村学園のCK。インスイングで入ってきた大迫のキックに、再びニアを舞った中江のヘディングは、鮮やかにゴールネットへ突き刺さる。「良いボールが来たので、アレは決めないといけないですから。でも、今から思えば、『自分が決めたのかな?』っていう感じですよね」。夢舞台でのゴールは、嬉し過ぎて実感が伴わなかった。

 それでも、岡山学芸館も粘る。中江の勝ち越しゴールから、4分後には同点弾を叩き込まれる。「みんな個人としては『絶対にやられないぞ』と思ってやっているんですけど、国立というステージで、自分も含めてみんなフワフワしていて、それがちょっとずつミスに繋がってやられたのかなと思います」と口にした中江は、「全部失点には自分が絡んでいたので、3失点とも自分がどうにかできたんじゃないかなと思いますし、そこは悔いが残りますね」とも続ける。

 試合は3-3でPK戦へ。2人目と3人目が外した後攻の神村学園に対し、先行の岡山学芸館は4人全員が成功。4人目で準備していたが、PKを蹴る機会が回ってこなかった中江は、キックを失敗した後輩の元にすぐさま駆け寄る。「泣くのは我慢しました。負けて泣きたくないので」。ピッチの上では最後まで毅然とした態度を貫いた。

 中学時代から通っている神村学園でボールを追い続けた6年間は、全国の準決勝で幕を閉じた。目指していたのは日本一。苦楽をともにしてきた仲間とその目標を成し遂げることはできなかったけれど、最後に中江が少し笑顔を浮かべながら口にした言葉が印象深い。「本当に夢のような時間でした」。

 やっぱりみんなで戦った最後の選手権は、最高に楽しかったのだ。

(取材・文 土屋雅史)
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