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「一人だけ落ちこぼれ」からの逆転人生…岡山学芸館2年生GK平塚仁が攻守で日本一貢献「何が何でもプロになりたい」

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岡山学芸館高GK平塚仁(写真協力『高校サッカー年鑑』)

[1.9 選手権決勝 岡山学芸館高 3-1 東山高 国立]

 大きな注目が集まる冬の選手権で岡山学芸館高の2年生守護神が大きく名を挙げた。GK平塚仁(2年=MIOびわこ滋賀U-15)は今大会、PK戦に持ち込まれた3回戦の國學院久我山戦、準決勝の神村学園戦で見事なPKストップを披露し、一躍注目の的に。日本一をかけた決勝戦では安定したキャッチングと鮮やかなキックで5万人超の観衆を魅了し、県勢初の全国制覇に導いた。

 京都代表の東山と激突した選手権決勝戦。滋賀県出身の平塚は、特別な思いに燃えていた。相手のストライカーFW豊嶋蓮央(3年)は同じ小学校の先輩で、右SBのDF石井亜錬は中学時代の先輩。ベンチにはDF保坂崇人(2年)、DF濱瀬楽維(2年)と中学時代の同級生も座っており、負けられない理由があった。

「試合前の握手を交わす時とかは懐かしい思いがあったし、絶対にやらせたくない思いがあった。知っている人がたくさんいたので、絶対に知り合いの前で泣きたくなかった」。そんな守護神は序盤から息もつけない接戦が展開された中、ゴール前で存在感を発揮。今大会で猛威を振るってきた相手のプレースキックやロングスローを、ことごとく手中に収めていった。

 身長は184cm。ハイボール処理は得意としてきたプレーだった。「学芸館の平均身長は低くて、自分が一番高いので上のボールは戦っていかないといけない。ハイボールは自分の武器でもあったので、絶対にやらせないという気持ちで初戦からやってきた」(平塚)

 小学校4年生で「チームの一人しかいないGKがやめてしまってどうしようもなくなって、飛び抜けた選手がいなかったので自分がやろうと思った」とたまたま始めたGKのポジション。安定したキャッチングの背景には中学時代に取り組んでいた努力があったという。

 平塚によると、転機を与えてくれたのは中学時代にプレーしていたMIOびわこ滋賀U-15のGKコーチ。「クロスボールはすごく練習から鍛えられた」と振り返りつつ、いまの姿からは考えられないような自身の過去を明かした。

「最初はキャッチもできなくて、一人だけ手投げで練習してもらっていて、一人だけ落ちこぼれみたいな感じだった。それが悔しくて、同じ学年にキーパーがあと2人いたけど絶対に抜かしてやろうと思っていた。みんなと練習していた以外の時間を大切にしてたくさん練習してきた」

 そうして懸命に積み重ねてきた努力は、もう一つの武器にも表れていた。

 決勝戦ではハイボールをキャッチした後、自慢のパントキックをことごとく前線に通し、カウンターの起点を担った。さらに後半7分に決まった勝ち越しゴールの場面では、果敢な持ち上がりから見事なロングフィードからこぼれ球を誘発。このキックは「楽しさ」をモチベーションに磨き抜いてきたものだ。

「サッカーが楽しくて、蹴りまくっていたから(上手くなったの)かもしれない」。キックの理想はGKエデルソン・モラエス(マンチェスター・C)。「小学校の時は前線をやっていたこともあって、いまは攻撃が好きなキーパーなので、自分も攻撃の起点になれるプレーをしたいと思っている」という言葉どおりのパフォーマンスを決勝戦でも披露した。

 またこれまでのストロングポイントだけでなく、地道にスキルアップを続けてきたシュートストップでも輝きを放った。

 後半29分、東山のエースMF阪田澪哉(3年)の強烈なヘディングシュートが飛んできたが、平塚の指にかすめたボールはクロスバーにヒット。見事な反応でピンチを防いでいた。試合後にはチームメートから「あれ触ったの?」と聞かれたといい、「手に当たったけど当たっていないように見られているのが悔しい」と冗談めかしたが、ハイライトを見たテレビ視聴者からはSNSを通じて驚きの投稿があふれた。

 そうして着実に持ち味を発揮し、手にした日本一。大会の開幕当初こそ「ゴルフ日本シリーズJTカップをはじめ国内ツアーで6度の優勝経験を誇る平塚哲二氏の息子」という形で紹介されることも多かった背番号12だったが、数々の活躍を経て、平塚仁という名前も日本中に知れ渡っていった。

「自分の中でもこういうみんなが見てくれる大会で名を挙げて活躍したいと思っていた。小さい頃から選手権を見てきたけど、自分が出ていろんな人から知られたいと思っていた」

 ロールモデルにしていたのは前々回大会で活躍した山梨学院高GK熊倉匠(現・立正大)の姿。「熊倉選手はすごく止めていて注目されていたので、自分も注目されたいと思っていた。チームで勝ちたいと一番に思っていたけど、個でも目立ちたいと思っていた」と野心をたぎらせ、理想どおりの活躍でチームを日本の頂点に導いた。

 今大会では知名度だけでなく、強力なストライカーと対峙した大きな経験も手にした。「今日は阪田選手、一昨日(の準決勝)は福田(師王)選手や大迫(塁)選手のようなプロも決まっている選手と対等に戦えたことが自信になった。自分のステップアップのためにもいい大会になった」。手応えを噛み締めた平塚は「高校選抜に入ってプロにも目を向けられたいし、大学を通じてでも何が何でもプロになりたい」と大きな野望を語った。

 そのためには“選手権王者”として迎える来シーズンの活躍も大事になるだろう。「選手権で国立を経験させていただいて、日本一にさせていただいた。試合に出ていないとわからないこともあるので、自分が引っ張っていかないといけない。日本一の景色をもう一度見るために自分が中心となって伝えていきたい」。全国でただ1校だけに与えられた連覇の権利。大きな目標を掲げた平塚仁の戦いはすでに始まっている。

(取材・文 竹内達也)
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