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『SEVENDAYS FOOTBALLDAY』:伝統の轍(八戸学院野辺地西高)

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八戸学院野辺地西高はもう1つの新たな歴史をみんなで切り拓く

東京のユースサッカーの魅力、注目ポイントや国内外サッカーのトピックなどを紹介するコラム、「SEVENDAYS FOOTBALLDAY」

 さらなる歴史を動かすことは、叶わなかった。それでも、今までに見たことのない景色にたどり着いたからこそ、見えてきたものがある。味わったことのないレベルを突き付けられたからこそ、感じたものがある。それをきちんと受け継ぎ、引き継ぎ、刻み込むことで、きっと伝統と呼ばれるものは生まれていく。

「青森山田さんはずっと優勝の歴史を創ってきていたので、インターハイでそこを破ったということ自体は、青森の高校サッカーに凄く大きな影響を与えたと思うんですけど、今度はやっぱり野辺地西が『もっともっと優勝の常連になっていかないといけないんだ』という想いを持たないと、また今日のような負けが続いていってしまうと思いますし、やっぱりこういう試合に勝って、もっともっと“本物”になるんだと、そういう意識を持っていきたいですね」(八戸学院野辺地西高・藤田律)

 6月のインターハイ予選で、打倒・青森山田を実現させて日本中を驚かせてみせた、真摯にサッカーと向き合うオレンジ軍団。新たなフェーズに突入しつつある八戸学院野辺地西高(青森)は、勝利と敗北の経験を、幾重にも、幾重にも積み重ね、みんなで確かな伝統を築き上げていく。


 チームを率いる三上晃監督は、笑顔で“あの日”の試合後を思い出す。「全部は電話も取れなかったですし、もう鳴りっぱなしで、メールも、SNSも含めて、もう通知が止まらなくて、あんなに凄いのは人生で初めてじゃないですかね。LINEも未読数が500件ぐらい行ったんじゃないですか。いやあ、凄かったですね」。

 “あの日”とは今年の6月2日のこと。インターハイ青森県予選決勝。県内の公式戦は418連勝中。同予選も県24連覇中という青森山田に対し、持てる力をフルに出し切った八戸学院野辺地西は、PK戦の末にとうとう絶対王者を撃破し、初の全国大会出場を手繰り寄せる。




 福島でのインターハイ本大会を目前に控えた7月。指揮官はこの快挙が街自体に与えた影響を実感する出来事があったという。「郵便局に行ったら、受付の女性の方に『三上先生、見に行きますよ』と声を掛けられましたし、銀行に行っても『がんばってください』と言われますし、反響は大きいですよね。理事長や町長に表敬訪問に行ったりしながら、いろいろとあいさつ回りをしても、みんな喜んでくれているので、その期待に応えないといけないなと思いますね」。

 初めての全国出場ということに加え、「青森山田を倒した」というトピックスがフィーチャーされたことで、メディアからの取材も一気に増加。明らかに今までとは自分たちを取り巻く環境が変化した中、八戸学院野辺地西は同校初の晴れ舞台へと歩みを進めていく。

 7月27日。Jヴィレッジ。彼らにとっての初戦となったインターハイ2回戦で対峙したのは、「普段やれないので、九州の強いところとやりたいなと思っていました」という三上監督の願いが通じたのか、昨年度のプレミアリーグ王者であり、全国大会上位進出の常連でもある熊本県代表の大津高。明確に日本一を目指す強豪と、いきなり肌を合わせることになる。

 70分間が終わった直後。藤田が話していた言葉が印象深い。「自分たちはまだまだ県レベルというか、いざプレミアリーグのチームを相手にすると、ここまで差があるのかと、『全国というのはものすごくレベルの高い場所だな』とは率直に思いました」。

 試合は前半10分に先制を許すと、32分と35+2分にも追加点を献上。八戸学院野辺地西はシュートすら1本も打つことができず、0-3というスコアで最初の35分間が経過する。

「三上監督から喝を入れられて、みんなでもう1回戦おうという共通認識を持ってやれたと思います」と10番を背負うMF阿部莞太(3年)が口にした通り、後半は守備陣もDF中野渡琉希(3年)やDF山下海藍(3年)を中心に粘り強く対抗し、無失点に抑え切ったものの、結果的にシュート数は1対18。全国トップレベルの実力をまざまざと見せ付けられる格好で、初戦敗退を突き付けられた。

「県レベルだと、あんなに質の高いチームはありませんし、サッカーIQの高さも含めて、初めて対戦するような相手でした」。中盤で奮闘した阿部は、今までに戦ったことのないような相手に衝撃を受けつつ、このレベルでプレーすることの喜びも同時に感じていたという。

「この試合、凄く楽しかったです。試合前から凄く楽しみでしたし、試合が始まってからも、『おお!上手いな!』っていう感じで、『自分もこうなりたいな』と思いましたし、凄くやっていても学べることがいっぱいあって、メチャクチャ楽しかったです」。

 前半だけの出場となった藤田も、この日の35分間を通じて、大きな学びがあったそうだ。「自分たちは初出場でしたけど、『基準は自分たちでしか上げられない』ということが今回わかったのは、本当に大きな収穫ではあったので、ここからは全国を基準にしたうえで、自分たちの力を発揮できるかということをやっていくべきなのかなと思います」。

 それは三上監督も同様。初めての全国大会を体感したことで、改めてこれからの指導に生かすべきポイントをはっきりと見出していた。「(青森)山田さんは山田さんで、日本トップクラスの強度、スピード、強さがあると思いますし、今度は大津さんみたいなプレミアWESTらしい、クオリティの高いサッカーに対しても、我々は対応できるようになっていかないといけないなと。全国の舞台で大津さんと真剣勝負ができたというのは、我々にとっても凄くポジティブな要素かなと思います」。

「全国基準を子どもたちが実際に肌で感じたというのが一番大事ですし、今後の彼らがそれを選手権に向けて、どう自分たちの成長につなげていくかというところが一番のポイントで、今日の経験が子どもたちにとっては一番の財産だと思うので、これをしっかりと次に生かしていけるように、我々指導者もさらなる成長を促しながら、チーム作りをしていければと思います」。

 大津と激突した70分間は、彼らにさらなる成長へのモチベーションと、もう一度全国の舞台に帰るんだというモチベーションを、同時に与えてくれた。『青森山田のその先へ』。八戸学院野辺地西にとってインターハイの全国出場が、新しいフェーズへと足を踏み入れるきっかけになったことは、あえて言うまでもないだろう。




「間違いなく夏のチャンピオンとして見られることは感じていましたけど、相手も5バックで引いてきてというのが、準々決勝でも準決勝でもありました」。藤田は難しい展開となった“2試合”について、そう言及する。初めて第1シードとして臨んだ高校選手権青森県予選。準々決勝から登場した八戸学院野辺地西は、いきなり大苦戦を強いられる。

 東奥義塾高とのゲームは1-1で決着がつかず、もつれ込んだPK戦で何とか勝利。続く準決勝でも八戸西高の堅守に苦しめられ、後半にMF関下煌己(2年)のゴールで1-0と辛勝。際どい橋をギリギリで渡り切り、決勝へと進出する。

 11月2日。第104回全国高校サッカー選手権青森県予選決勝。八戸学院野辺地西が対戦するのは、もちろん青森山田。リベンジに燃える相手が、並々ならぬ決意で向かってくることは百も承知だ。「夏に全国に行ったので、冬も全国にもう1回行って、本物になろうと言いながらチームとしてやってきました」とはセンターバックの山下。9年連続で同じカードとなったファイナル。もう1つの歴史の扉をこじ開けるべく、オレンジの戦士たちは決戦のピッチへ飛び出していく。


「一番理想的な形で先制できたのは大きかったですね。先制したバージョン、0-0で推移していくバージョン、獲られて0-1から行くというさまざまなゲームプランを想定した中で、一番いい理想の入り方でした」。

 三上監督がそう振り返ったように、試合は八戸学院野辺地西にとって最高に近い形で立ち上がる。前半10分。右サイドで山下が投げ込んだロングスローから、関下が残したボールをMF小向蓮翔(2年)が右足一閃。軌道は一直線にゴールネットへ突き刺さる。




 インターハイ予選決勝に続いての先制点。以降もチームは好リズムをキープ。とりわけ際立ったのは、阿部と関下のドイスボランチを筆頭としたセカンドボールの回収率。さらに右からDF橋本楓琉(3年)、中野渡、山下、DF越後來琉(2年)が並んだ4バックも簡単にクリアに逃げず、きっちりビルドアップを試みる姿勢を前面に打ち出す。

「内容的にも自分たちが1つ2つボールを大事にするところで、パスで動かす部分にもチャレンジできましたし、自分たちでやろうと言っていた展開の部分も出せたと思います」と藤田が話せば、「山田のプレッシャーに対して、1つ2つ繋いでいくというところは練習でやってきましたので、それが出ましたし、そういう時間を作って、サイドに展開して、サイドで仕掛けたりもできていましたね」と三上監督。リードを後ろ盾に、オレンジのイレブンがピッチ上で躍動する。

 23分には右サイドをMF野城怜(2年)が完全にえぐり切り、中への折り返しは跳ね返されたものの、素晴らしいチャンスメイク。24分にもMF木村隆太(2年)がドリブルで運び、藤田のシュートは枠の右へ逸れるも好トライ。26分にも野城のクロスがファーに流れると、拾った小向のシュートはGKのファインセーブに遭うも、あわや2点目というシーンまで。上々の前半は1点をリードしたまま、40分間が終了した。

 後半に入り、当然青森山田がギアを上げる中で、際立ったのは山下のパフォーマンスだ。プレミアリーグでも結果を残してきた相手の2トップに対し、スピードでも空中戦でも十分に対抗。「自信を持ってピッチに入りましたし、9番(深瀬幹太)も11番(桑原唯斗)も、身長もスピードもあって、プレミアでもやっているような選手でしたけど、『絶対やらせない』と思っていたので、気持ちでしっかり勝てたなと思います」ときっぱり。守備の集中力も、試合が進むにつれて一層高まっていく。

 10分に訪れた決定的なピンチは、守護神のGK喜村孝太朗(3年)がファインセーブで回避。15分にCKから決定機を作られるも、至近距離からのシュートはクロスバー直撃。21分にサイドアタックから、枠内へ打ち込まれたヘディングは、ゴールカバーに入った山下がスーパークリア。間違いなく試合の流れは、八戸学院野辺地西に味方していたと言っていいだろう。

 だが、2人の交代がチームに影を落とす。サイドハーフの小向と野城が相次いでベンチに下がると、三上監督も「ウチの生命線の両ワイドが交代で代わって、そこからチーム力が上がったかと言うと、なかなかうまくゲームが進まなかったので、そういったところも含めれば、総合力でチーム全体としての力のなさはあるのかなと感じました」と話したように、攻撃のパワーを押し出し切れなくなっていく。

 26分にCKから同点弾を奪われると、34分には中央から相手ストライカーにファインショットを打ち込まれ、一気に逆転を許してしまう。「同点になった時に、1回みんなで集まって、『0-0になっただけだから、切り替えていこう』と言っていたんですけど、追加点を獲れなくて、山田さんのゲームになってしまったなと思います」とは山下。八戸学院野辺地西も何とか反撃を試みるが、なかなかエリア内までボールを運べない。

「先制はできたので、そこまでは良かったですけど、最後の20分をしのぎ切るのは、戦術やプランというよりも、そこでの我慢比べに負けないようなパワーを持っていかないといけないのかなと思います」(三上監督)。タイムアップのホイッスルがオレンジの選手たちの耳に届く。スコアは1-2。冬の全国切符へ手は掛かっていたが、そこを奪い切るまでは惜しくも至らなかった。

「いろいろな人に応援されて3年間やってきたので、申し訳ないという気持ちもありましたし、一番は勝ちたい気持ちがあったので、悔しくて涙が出てきました。全国に行けなくて本当に悔しいですね」。そう話した山下は試合終了の瞬間、緑の芝生に突っ伏して、涙を流していた。

「2点目は間を行かれてしまったんですけど、あそこでブロックに入れるか、100パーセントでプレスバックできるかというところは、“自分との戦い”という部分ですし、そこでもっともっと自分に勝てるように、もっともっと気持ちを見せていかないと、プレミアでやっている相手には厳しいのかなと思いました」と語った藤田は、表彰式の間も唇を噛み締めていた。

 知ってしまった優勝の意味を実感したからこそ、もう一度体験することで、自分たちのさらなる成長が促されるとわかっていたからこそ、どうしても勝ちたかった。「ようやく1個壁は超えられた部分はありますけど、また今日は残念な結果だったので、もう1回全国に出て、山田さんにとっても『青森県の決勝は難しいな』という印象をもっと付けていかないといけないですし、我々も力を付けていかないといけないと思いました」と三上監督も悔しげな表情を浮かべる。八戸学院野辺地西の選手権は、今年も県のファイナルでその行方を阻まれる結果となった。





 だが、3年生にはまだもう1つ、歴史を切り拓くためのチャンスが残されている。青森県リーグ1部で2位に入った八戸学院野辺地西は、12月19日から開催される『プリンスリーグ東北プレーオフ』への出場が決定。2018年から毎年のように挑戦しているものの、ことごとく跳ね返され続けてきた、超えるべき高い壁だ。

 青森山田に負けた直後のミーティングで、三上監督はもうプレーオフに向けてのメッセージを選手たちへ送ったという。「当然この悔しい結果をしっかり受け止めて、受け止めたうえでパワーに変えていくことが重要だよと。思い通りに行かない結果、受け入れがたい結果をどうするかというのが重要だと思うので、2年生と3年生みんなで、このチームでプリンスを獲りに行くパワーに変えていこうという話はしました」。

「3年生は最後まで残ってやってくれるということなので、彼らがもう一度2年生からポジションを奪うというところの競争と、2年生は自分たちが戦うプリンスリーグへの挑戦になるわけで、是が非でも勝ち獲りたい気持ちがあると思うので、もう一度チーム内で競争させながら、レベルアップを図りたいと思います」。

 ディフェンスラインを束ねる山下も、既に最後のチャレンジへと気持ちを入れ直している。「自分としても最高な形で終わりたいと思っているので、プリンスリーグに絶対参入するという気持ちで、これからの残された時間を頑張っていきたいですし、自分はディフェンダーなので、無失点にこだわりながら、失点しないで勝ちたいなって。今のこのチームなら絶対に勝てると思っています」。

 強烈なリーダーシップでチームを牽引する藤田も、後輩たちに残すべきものに対して、それまでより少しだけ言葉に力を込める。「自分はキャプテンとしてやるべきことをやるだけですし、3年生がいろいろな責任感を背負いつつ、1,2年生はのびのびやりながらも、3年生をサポートするという関係性が一番チームとしては良い状態だと思うので、そういう空気をプリンス参入戦までにもっともっと作っていけたらなと思っていますね」。

「今日の負けは悔しいですけど、下を向いている暇はないですし、もう自分は前を向いています。プリンス参入戦が本当に高校最後の試合ですし、とにかくやれるだけのことをやって、野西に最高のものを残して終われたらなと思っています」。

 この20年近い時間で紡いできたものは、確実に後進へと受け継がれている。この夏の記憶に残る勝利を、記録に残る青森制覇を、伝説で終わらせないために、前へと進み続けていくべきは、伝統という名の真っすぐな轍。2025年の八戸学院野辺地西は師走の歓喜を手繰り寄せるため、みんなの心をひとつに合わせ、もう1つの新たな歴史を、必ずこの代で打ち立てる。



■執筆者紹介:
土屋雅史
「群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に『蹴球ヒストリア: 「サッカーに魅入られた同志たち」の幸せな来歴』『高校サッカー 新時代を戦う監督たち』

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土屋雅史
Text by 土屋雅史

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