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厳しい警戒網の中で狙い続けた「一瞬の隙」。神村学園DF荒木仁翔が意地のクロスで記録した同点アシストの価値

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後半28分。神村学園高DF荒木仁翔(3年=ソレッソ熊本出身)は完璧なクロスで起死回生の同点アシスト!

[1.10 選手権準決勝 尚志高 1-1(PK8-9) 神村学園高 国立]

 自分がうまく消されていることは、自分が一番よくわかっている。国立競技場。全国大会の準決勝。1点のビハインド。このままでは終われない。磨き続けてきた左足のキックをどのタイミングで、どうやって繰り出すか。ずっと、ずっと、その時が来るのを待ち続けていた。

「相手も自分のことを警戒してきていたと思うので、ちょっとやりにくかった中で、対面の相手が変わった時に隙が生まれて、そこを突けて点が入ったのは良かったですけど、今日はあまり個人的には良くなかったので、次の決勝に向けて改善していきたいなと思っています」。

 左足のひと振りに魂を宿せる、神村学園高(鹿児島)の高性能左サイドバック。DF荒木仁翔(3年=ソレッソ熊本出身)はようやく巡ってきたチャンスに、完璧な軌道で送り込んだクロスで、苦しむチームを鮮やかに救ってみせた。


「ちょっと相手のやり方は想定外でしたし、準備してきたものが思い通りに行かなかったので、やりにくい部分がありました」。荒木はそんな言葉で試合を思い出す。ファイナル進出を懸けた選手権準決勝。神村学園と対峙した尚志高(福島)は、試合開始からそれまでの4試合では見せてこなかった新たな策を講じる。

 それは本来センターフォワードが持ち場だった根木翔大を右ウイングに移し、真ん中に岡大輝を据えるというもの。尚志の仲村浩二監督も「相手の左サイドの攻撃力が高いというのもあったので、根木をそこでピン止めすることによって、1つ相手のバランスを崩せるんじゃないかというのがありました」とその狙いを明かしている。

 これには神村学園の有村圭一郎監督も「3トップで来るだろうということは想定していましたが、根木くんがサイドに行くことはまったく考えていなかったですけど、1つ考えられるのは荒木のところとぶつけているのかもしれないなというところでした」と言及。背番号8が位置する左サイドは、相手からも十分に警戒されていたようだ。

「最初に自分の寄せが甘くて失点に繋がってしまいました」と荒木が振り返ったシーンは、開始わずかに5分。相手のシンプルなフィードが背後に出ると、ラインを割りそうなボールだったが、快足を飛ばした根木は荒木を追い越し、正確な右クロス。これを岡がヘディングで流し込み、神村学園はいきなりビハインドを背負ってしまう。

 自分のサイドからの失点に、責任を感じていなかったはずがない。「『リスクも冒しながら攻撃しないといけない』というのが有村先生の話としてあったので、ちょっとリスクはあったんですけど、攻めも守りもどっちもできる立ち位置でやっていました」とは荒木だが、攻撃時はややマンマーク気味に根木に見張られ、良いポジションでボールを受けられないまま、チームもチャンスらしいチャンスを作り切れず、最初の45分間は終了する。

荒木は尚志・根木翔大(左)とマッチアップを繰り返した


 後半もなかなか打開策を見出せない中で、68分に動いたのは尚志ベンチ。岡に代えて、田上真大を左ウイングへ投入。左ウイングにいた臼井蒼悟が右に移り、根木は中央にスライドする。相手の細かいポジションチェンジ。そこに荒木はわずかな隙を感じ取っていた。

 73分。神村学園の中盤でのビルドアップ。自分にマークは付いていない。チャンスを嗅ぎ取るレーダーが反応する。ここしかない。ぽっかり空いた左サイドを駆け上がると、フリーになった荒木はMF佐々木悠太(3年)からのパスをダイレクトでクロス。ドンピシャの軌道に合わせたFW日高元(3年)のヘディングが、ゴールネットを揺らす。





「あのシーンは日高がいつも走ってくれていて、そこは信じていたので、そのポイントに合わせてクロスを蹴りました」。それまでの鬱憤をぶつけるかのような、得意の左足から繰り出した100点満点のアシスト。荒木と日高のホットラインで、神村学園がスコアを振り出しに引き戻す。

 もつれ込んだPK戦。4人目が終わって3-3。先行の神村学園は、勝負の5人目として8番のレフティがスポットに歩みを進めていく。「5番目は一番外したら終わりという順番ですけど、チームのみんなが託してくれたので、自分を信じて練習通りに蹴りました」。短い助走からGKの逆を突いて、左スミのゴールネットへボールを突き刺すと、ガッツポーズにも力が入る。

白熱のPK戦。荒木は5人目のキッカーとして冷静にキックを沈める


 10人目。後攻の尚志のキッカーが蹴ったボールがクロスバーを叩き、白いユニフォームの選手たちの歓喜がピッチ上で弾ける。「PK戦は何回も練習を繰り返してきたので、みんな自信を持って蹴れたと思います」と口にした荒木が、一瞬の隙を見逃さずに記録した起死回生のアシストには、3年間の努力とサイドバックとしての意地が過不足なく詰まっていた。


 今大会はここまで1ゴール5アシストと、明確な数字も残してきた。自身も「トータルで結果だけ見れば悪くはないと思っています」と話しながら、それでも「改善するところが多くて、満足は全然できていないので、明日でコンディションを整えて、次に向けて頑張っていきたいと思います」とこの日の出来も踏まえて、改めて気を引き締め直す。

 もともと宮崎県の延岡出身の荒木は、中学時代に強豪のソレッソ熊本でプレーしていたため、家族が2時間半近い時間を掛けて、練習の送り迎えをしてくれていたという。「親のサポートがあって、ここまでサッカーをやってこれたので、結果として恩返しできればなと思っています」。夏冬二冠という“最高の恩返し”まではあと1勝。高校ラストゲームに力強い言葉で、想いを馳せる。

「ベースのところの『走る、ハードワーク、球際』というところはしっかりやらないといけないことなので、決勝の舞台でもそこはしっかりやりつつ、チームを勝たせるクロスを上げられればなと思っています。二冠を取れば6校目という話を聞いているので、6校目に名前を載せたいですね」。

 鹿児島の地で研鑽を積み、プレーヤーとしても、人間としても、確かな成長を遂げてきた高校生活の集大成。オレの左足を止められるものなら、止めてみればいい。神村学園の左サイドで輝きを放つ、アグレッシブな背番号8のレフティ。荒木仁翔は決勝のピッチでも、ひと振りで試合を決める瞬間を、虎視眈々と狙い続ける。



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(取材・文 土屋雅史)

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土屋雅史
Text by 土屋雅史

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