beacon

[選手権]インハイ王者・市船橋撃破!流経大柏が全国最激戦区制す!!

このエントリーをはてなブックマークに追加

[11.21 全国高校選手権千葉県大会決勝 流通経済大柏 1-0 市立船橋 市原臨海]

 流経大柏が全国最激戦区制す――。第89回全国高校サッカー選手権千葉県大会は21日、市原市緑地運動公園臨海競技場で決勝を行い、今夏の全国高校総体で優勝した市立船橋と高円宮杯全日本ユース(U-18)選手権8強の流通経済大柏が激突。今年の高校サッカー界を代表する実力派同士の一戦は、MF吉田眞紀人(3年)の決勝ゴールにより、流経大柏が1-0で勝ち、FW大前元紀(現清水)を擁して日本一となった07年度以来3年ぶり3回目の全国大会出場を決めた。全国大会の組み合わせ抽選会は22日に東京都内で開催される。

 今年4回目となったライバル対決。勝ったのは過去3回の対戦同様、流経大柏だった。今大会決してパフォーマンスがよかった訳ではない。準々決勝で公立の船橋北に延長戦まで持ち込まれ、柏日体との準決勝も1-0の辛勝。これまで圧倒的な戦力とその選手一人ひとりがハードワークすることで相手の脅威となり続けてきた流経大柏だったが、低調な戦いの連続に本田裕一郎監督も準決勝終了後、「気持ちが伝わってこない」と選手たちに厳しい言葉で指摘していた。

 これでイレブンたちの目が覚めた。ライバルとの実力は互角。今季、流経大柏に3連敗している市立船橋だったが、全日本ユース選手権での対戦では延長戦110分間の死闘を演じるなど、シーズン当初見られた差を戦うたびに詰めてきていた。「今度こそ」という気持ちは間違いなく強かった。
 それでも試合開始から勝利への魂をより感じさせていたのは流経大柏だった。球際での鋭さ、セカンドボールへの反応、全てわずかではあったが常に優位立っていたのは流経大柏。J注目の189cmCB増田繁人主将(3年)が「これまで気持ちが入ってなかった訳ではなかったんですけど、足りなかった。あと一歩のところで足が出るかどうかも気持ち。きょうは市船より声も出ていた。この一週間は『人生かけて勝とうぜ』と言ってきた。市船には絶対に負けられない。大前さんたちのように『全国へ出たい』という気持ちだった」と振り返ったように、流経大柏の闘志と集中力は並々ならぬものがあった。

 加えてイレブンの「対市船」へ向けたイメージも統一されていた。流経大柏は前日20日にミーティングを行い、メンバー全員が「市船橋がどう攻めてくるか」の考えを他のメンバーの前で発表したという。このイメージがひとつになっていた。「市船はDFラインからのフィードをFW水谷達也が競り、こぼれ球を10番MF藤橋優樹が左MF石原幸治(全て3年)へはたく――」。そしてチームが取った策は藤橋にMF古波津辰希(2年)、石原に右SB中西孝太(3年)をマンツーマンでつける“市船封じ”。これがはまった。キーマンに執拗なマークをつけられた市船橋は、前半シュートわずか1本。ボールをつなぐこともできず、苦しまぎれのロングボールを圧倒的な高さを誇る増田主将ら流経大柏DFに跳ね返されてしまった。

 「守備は完璧だった。90点あげられると思う」と指揮官も絶賛した流経大柏は、攻撃陣も市船橋に襲い掛かった。2分に吉田の右足シュートがゴールマウスを叩くと、その後もMF杉山賢史とのワンツーからFW田宮諒(ともに3年)がPAへ侵入し、左MF進藤誠司(3年)がそのスピードで相手を苦しめた。37分にもPA内右サイドを切れ込んだ田宮の右足シュートがポストを弾いた。

 それでも後半開始から全国総体得点王の2年生FW和泉竜司を投入した市船橋は劣勢から持ち直す。相手の背後を狙ってボールを受ける和泉がポイントとなり、アタッキングゾーンから仕掛ける回数が増えだした。16分には左サイドを突いた石原の折り返しを藤橋が左足シュート。この試合初めて決定機もつくりだした。ただ石渡靖之監督が「リズムがよくなったところでの失点。後手を踏んでしまった」と振り返ったように、流れのよい時間帯に大きすぎる1点を奪われてしまった。

 17分、流経大柏は進藤からのパスを受けた田宮が左サイドを突くと見せかけて中央へ切り返し。DFのマークを外してすぐさまボールをつなぐと、PAへ大きく出したファーストタッチでDF2人の前に出た吉田が、左サイド角度のほとんど無い位置から強烈な左足シュートを逆サイドのゴールネットへとねじ込んだ。「ディフェンスが2人来ている予感がしていた。理想どおりのファーストタッチができて、シュートはファーを狙ったけど。あんなに上手くいくとは思わなかった」と吉田。全日本ユース選手権でも市船橋を沈める2ゴールを決めているエースが、再びライバルのゴールをこじ開けた。

 市船橋は33分に途中出場のFW正岡望世(3年)が決定的な左足シュート。そしてCB山野辺大樹(3年)を前線へ押し出すパワープレーに望みをかけたが、ロスタイムの山野辺のヘディングシュートもGK緒方大樹(3年)の正面で、ラストプレーで得た右FKが流経大柏DFに跳ね返された瞬間、試合終了を告げる笛が鳴り響いた。
 ピッチに倒れこみ、なかなか立ち上がることのできない市船橋イレブンの横で、流経大柏が笑顔と涙で表情をくしゃくしゃにしながら喜びを爆発させる。観衆6,500人を集めたライバル対決は、全国王者を完璧な守備と中西が「気持ちの面で勝てた差」と胸を張った闘志で上回った流経大柏の勝利で終わった。

 青森山田や大津、作陽、星稜と全国大会でライバルとなりそうな強豪の指揮官たちも駆けつけた注目の一戦を制した流経大柏。今シーズンは圧倒的な戦力に「エース級が30人いる」「高校チーム最強」とも言われ続けてきた。ただ「優勝候補? その言葉には乗らないですよ」と本田監督は苦笑。優勝候補筆頭に挙げられた全国総体は3回戦で、全日本ユース選手権でも8強で姿を消しているだけに増田主将も「自分たちは優勝候補じゃないです」と首を振った。ただメンタル面が課題とされてきたチームが全国王者との一発勝負で実力を最大限に発揮。増田主将は「きょうの気持ちときょうのゲーム運びが出来れば全国でもやっていける」。前評判ナンバー1の強さは12月30日から約2週間続く全国舞台で、今度こそ発揮されるか。

(取材・文 吉田太郎)
【特設】高校選手権2010

TOP