beacon

[MOM369]関西学院大FW呉屋大翔(4年)_決勝出停も…意地の2発決めたFWと“目覚めさせた”主将の友情

このエントリーをはてなブックマークに追加

[大学サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[12.16 全日本大学選手権準決勝 明治大2-4関西学院大 NACK]

 決勝戦は出場停止。辛い現実を飲み込んだ関西学院大FW呉屋大翔(4年=流通経済大柏高)は「陸に始まり、陸に終わりました」と4年間を振り返って微笑み、主将であるDF井筒陸也(4年=初芝橋本高)への感謝を口にした。呉屋の大学サッカー4年間は井筒との“誓い”に始まり、井筒による“励まし”で幕を閉じた。

 呉屋は決勝進出へ向けて、並々ならぬ思いを抱いていた。準々決勝では、昨シーズン苦杯をなめた流通経済大を相手に1-1の同点弾を決めると、延長戦の末に2-1で勝利。流通経済大柏高出身のFWにとっては、思い入れもある“因縁の一戦”。「プレッシャーが半端なかった」と振り返るが、そんな相手を前にしっかりと点を取り、関西学院大を準決勝へ導いた。

 試合直後には流通経済大柏高の同級生であり、当時は同じストライカーとして切磋琢磨していたDF田上大地(4年=流通経済大柏高)から涙ながらに「優勝しろよ!」と声もかけられ、準決勝前日の15日には電話でも「必ず勝てよ」と激励された。「流経に勝ったということもあって、優勝にかける思いというのは人一倍強かった」と決勝進出へ思いは募った。

 そして迎えた準決勝の明治大戦。関西学院大は前半6分に先制すると、同22分には呉屋が3戦連続となるゴールを決め、2-0に突き放す。「中で呼ぶ声も聞こえましたけど、気づいたら打っていました」というPA左角度の無い位置から狙い済まされた一撃はネットを揺らした。しかし、同27分と37分に失点。2-2に追いつかれてしまう。

 さらに前半42分には追い討ちをかけるような出来事が起こった。呉屋が明治大DF山越康平(4年=矢板中央高)との競り合いで肘を張るとイエローカード。大会通算2枚目となり、決勝は出場停止となることが決まった。

 この瞬間、呉屋の頭は真っ白になったという。「リーチとはわかっていた。正直言って、あの時間からハーフタイムまで集中できる状況じゃなかった」。勝っても負けても、この試合が大学ラストゲーム。前半の残り約3分は呆然とただただボールを追いかけて終わった。決勝進出しても、エースが出場停止になるという事実は、ピッチ上の全員が認識していたという。

 前半の45分を終えて、2-2で迎えたハーフタイム。顔面蒼白の呉屋へ檄を飛ばしたのは主将の井筒だった。頭を叩き、首根っこをつかまえると「勝ちきるぞ!お前が決めて勝て!」と力強く声をかけた。

 この言葉で呉屋は目を覚ます。長い時間を共にしてきた関西学院大の攻守の要でもある2人。「初めて面と向かって、ああいう風に言われて。陸の期待に絶対に応えないとという気持ちがあんなに強くなったのは初めて」。魂を揺さぶられたFWはその衝撃からロッカールームで思わず涙した。

 井筒と呉屋は「俺たちで関学を変えよう」「優勝させよう」と大学1年の時に誓い合った。それから3年の月日が流れ、2人は最上級生に。主将となった井筒は副将に呉屋を指名する。「最初は副将をやりたくなくて、断ろうと思っていた。サッカーのことだけを考えてやりたかった」という呉屋だが、「お前みたいな奴が副将をやるからチームは強くなる」と盟友に説得され、引き受けた。

 これまではエゴイスティックな面が目立っていた呉屋だが、副将となり一層チームを牽引する立場となった今季は、献身的なプレーをみせるようになる。実際に関西のFWでは「献身性が足りない」という理由で、呉屋よりも大阪体育大FW澤上竜二(4年=飛龍高)を評価するJクラブスカウトが多かったが、試合を重ねるごとに、そんな評価を跳ね除けた。

「副将になって、やっとチームのことを考えるように。色々なことができるようになった。サッカーの面でもそうだし、人間性の面でもそう」と振り返るFWは「副将になってチームのためにプレーすることで、見えてくるものが変わった気がする」と話すとおりだ。井筒の“アシスト”もあり、呉屋はストライカーとしての素質をさらに開花させた。

 2-2で迎えた明治大戦のハーフタイム。自分を高みに導いてくれた盟友・井筒の檄で目覚めた呉屋は、チームのためにも点を獲ると改めて強く誓った。後半のピッチへ足を踏み入れる際は涙もにじんだが、すぐに表情を引き締め、3点目を奪うべく奮闘した。

 すると後半7分、MF小林成豪(4年=神戸U-18)の左クロスに身体を張って競り勝った呉屋が落としたボール。最後はMF小野晃弘(4年=藤枝明誠高)が決め、3-2と2度目のリードに成功。

 その後は耐える時間が続いたが終了間際に呉屋にチャンスはやってきた。相手GKがハーフウェーライン付近まで上がっているところで、バックパスをミス。かっさらったMF福冨孝也(4年=宝塚北高)がドリブル突破から前線へパスを送ると、抜け出た呉屋が冷静に右足シュートを決めた。

 「(決勝は)出場停止になったのに。最後にボールをくれるあたりは、サッカーの神様は優しいなと」。背番号13のストライカーは笑った。チームは4-2で勝利。2年連続の決勝進出を果たし、関西選手権、総理大臣杯、関西学生リーグに続いての4冠に王手をかけた。

 試合後、関西学院大の選手たちはスタンドの仲間の元へ挨拶にいった。そのとき選手たちが歌ったのは呉屋の応援歌。決勝が出場停止となるものの、ここまでゴールを量産してきたFWを称えるものだった。

「スタンドに行ったら自分の応援歌を歌ってくれて。『絶対優勝するから』と周りのみんなが言ってくれて。普段はそう言われるキャラじゃないんですけど、さすがにこういう時は言ってくれるのかと」と冗談交じりに振り返ったが、実際には涙が止まらなかった。仲間の優しさにより、無念さでいっぱいだったはずの胸が温かくなった。

 来季のガンバ大阪入団を内定させている呉屋は、大学4年間について、「成山監督に出会って、たくさん試合に使ってもらって怒られて成長して。陸(井筒)に人間的に伸ばしてもらって。小林成豪にサッカーの面で鍛えられた」と言う。阪南大と戦う決勝戦はスタンド観戦となるが、「仲間を100%信頼している。勝ってくれると信じてます」と真っ直ぐに前を向いた。

(取材・文 片岡涼)
●第64回全日本大学選手権特集

TOP