beacon

「スポーツライター平野貴也の『千字一景』」第41回:水陸両用、左右兼用(会津雄生、筑波大)

このエントリーをはてなブックマークに追加

“ホットな”「サッカー人」をクローズアップ。写真1枚と1000字のストーリーで紹介するコラム、「千字一景」

 ポジションが変わっても、プレースタイルは変わらない。第65回全日本大学選手権の決勝戦、優勝した筑波大のDF会津雄生は、両サイドで躍動した。

 最終的に8-0の大勝となったが、まだ勝負の行方が分からなかった前半、右サイドを突破して「マークが中野(誠也)選手に釣られるのが分かっていたので、超えたところが空くと思っていたので、完ぺきだった」と鮮やかなクロスで2点目をアシストした。優位性を確立させる大きな追加点だった。後半は左DFに移ったが「自分で点を取ってやろうと思った」と変わらず積極的に攻撃参加を繰り返した。

 会津がDFを任されるようになったのは、今季の序盤。それまでは、突破を仕掛けるサイドMFだったため、右利きだが左でもカットインと縦への突破を使い分けて攻めることができる。その上、柏レイソルの育成組織で仕込まれたパスサッカーを体得したことで、どのポジションでも味方と連動できる強みも持っている。

 会津の特徴は、スピードとスタミナを兼備した走力だ。高いアスリート能力の背景は、血筋にある。父の伸さんは、アテネ五輪トライアスロン日本代表に帯同したコーチ。兄の大地さんは、小中高と全国大会に出場し続けた元競泳選手。会津も小学4年生まではサッカーよりも競泳の練習に重きを置いた日々を送り、高い期待を受けていた。孤独や自分との戦いに打ち克つ姿勢と、肺活量は競泳時代に築かれた土台だ。

 サッカーに専念した後も柏レイソルの育成組織で好成績を挙げたが、全日本少年サッカー大会3位、高円宮杯U-15で準優勝。高円宮杯U-18プレミアリーグEASTは優勝したが、チャンピオンシップで勝てずに日本一を逃した。「これまで銀メダルしか取って来なかったから嬉しい」と喜んだ大学日本一は、自身にとっても大きなタイトルだ。

 優勝に貢献して運動量豊富な左右兼用の攻撃的SBとしての価値を証明したが、満足はできないという。年代別日本代表の常連だった会津は、U-17ワールドカップで世界と戦う経験をしている。プロになってもう一度という思いを持ち続けている。柏でトップ昇格が見送られた際は「頭の中が真っ白になった」と言うが、両親の母校である筑波大で課題と向き合う道を選んだ。負けず嫌いで何をやっても自分の特徴を前面に出せる。泳いでも走っても、中盤でも最終ラインでも、右でも左でも……どこでもやれる。もちろん、プロの世界でも……という思いだ。だから、会津はさらに走り続ける。

■執筆者紹介:
平野貴也
「1979年生まれ。東京都出身。専修大卒業後、スポーツナビで編集記者。当初は1か月のアルバイト契約だったが、最終的には社員となり計6年半居座った。2008年に独立し、フリーライターとして育成年代のサッカーを中心に取材。ゲキサカでは、2012年から全国自衛隊サッカーのレポートも始めた。「熱い試合」以外は興味なし」


▼関連リンク
スポーツライター平野貴也の『千字一景』-by-平野貴也

TOP