beacon

[MOM756]京都産業大FW今岡陽太(4年)_「ここで決めないとキャプテン失格」努力で生んだ“延長ドラマチック弾”

このエントリーをはてなブックマークに追加

京都産業大のFW今岡陽太(4年=大阪桐蔭高)

[大学サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[12.8 全日本大学選手権1回戦 京都産業大 2-1(延長) IPU・環太平洋大 浦安市]

 延長戦にもつれ込んだ死闘に終止符を打ったのは、誰もが認める大黒柱の劇的な一発だった。「こうしたドラマチックな得点が生まれるだけの努力をしてきたつもりなので、形として表現できたことがすごくうれしい」。試合後、京都産業大のFW今岡陽太(4年=大阪桐蔭高)は自身がこの4年間で積み上げてきたものを誇った。

 30年ぶりに全日本大学選手権(インカレ)の舞台にやってきたものの、全国大会の緊張や難しいコンディションの影響により、前半7分の失点で苦しい立場に立たされた京都産業大。それでも後半19分にMF中野歩(2年=G大阪ユース)の積極的なカットインシュートで同点に追いつくと、同32分には逆転への期待を込めてベンチに控えていた背番号10が送り込まれた。

「自分たちのポゼッションサッカーがこの天候や初戦の硬さでできていなかったので、自分が入るところでチームのテンションを上げたり、強度を上げたりしつつ、そこで得点を取るということを狙って入った」(今岡)。

 主将と背番号10という二つの大役を任されながらも、今季はなかなか先発に定着することはできなかった4年生。それでもチームメートと指揮官からの信頼は絶大だった。

「今年はなかなか試合に絡めず、すごく苦労していた。ただゼロからイチを作るというテーマをチームで掲げていて、その中心を担うのは今岡だった。今岡が出てくると、周りの力が湧いて出てくるようなそういうチームになっていた」(白井淳監督)

 そんなストライカーに延長後半11分、歓喜の時が訪れた。オープンな一進一退の攻防が繰り広げられる中、京都産業大は攻撃の軸を担うMF食野壮磨(2年=G大阪ユース)が中盤でボールを受け、スルーパスを供給。今岡が絶妙なタイミングで抜け出すと、GKとの駆け引きを制してゴールネットを揺らした。

「正直めちゃくちゃ緊張したけど、ここで終わりたくは絶対になかった。試合に出られていない人、応援してくれる人がいるので、ここで決めないとキャプテン失格だし、サッカー選手として失格。自分自身にプレッシャーをかけて蹴り込んだ」。

 試合前から降り続いた大雨の影響でピッチには水たまりがあり、依然として強い強風が吹き付けていたが、今岡のシュートは乱れなかった。それは「田中颯を筆頭にGKがすごく優秀なので、そういう人たちと練習後にシュート練習をすることでどちらのレベルも上がった」という居残りトレーニングの成果。日々の努力が実り、30年ぶりのインカレで初戦突破に導く貴重な決勝ゴールをもたらした。

 白井監督によると、今岡は「自分のことよりも人のことを優先し、本人も試合に出たいでしょうけど、チームを第一に考えて我慢強くやる選手」。そんなパーソナリティは試合後の取材でも言葉の端端からから感じ取れた。

 まずは主将としての立場と、控えストライカーとしての立場について。今岡は「試合に出てチームを勝たせられればベストだけど、試合に出るには実力が足りていない」と自らの能力を客観視しつつも、「キャプテンという役割を与えてもらったので、絶対に(キャプテンであることと、試合に出る役割を)両立しないといけない」という厳しい基準を自らに突きつけてきたと語る。

 その結果として「キャプテンの仕事をしていれば試合に出なくてもいいという思いには絶対にならないでおこうと思って、試合に出るための努力を続けてきた」。そして、その努力こそが「今日の得点にもつながっている」という成功体験を得たようだ。

 また今岡は大学限りでサッカー競技の第一線から身を引く予定。すでに人材系企業への就職が決まっており、「就職して社会人としてサッカーで学んだことを次のステージで活かしていこうと思っている」と意気込んでいるが、そうした人生の岐路にあってもサッカーをおろそかにすることは一度もなかったという。

 今岡は「練習は一度休んでしまったんですけど……」と謙遜気味に話したが、逆に言えば欠席はたった一度“だけ”。「キャプテンををやると決めた時からサッカーと就職活動の両立をしないといけないし、する必要があると思っていたので、自分を追い込んで両立した」。学業面でも大半の単位を3年次までに取り切り、サッカーと就職活動の「どちらにも100%向き合えた」と話した。

 そこまでして突き詰めてきた競技生活も、残すところ数試合。その数字がどこまで増えるかは、チームがどこまで勝ち上がることができるかにかかっている。

 それでも今岡は、サッカーとの別れの感慨よりも成長意欲を語る。「今日は出来過ぎな試合だと思う。もっともっと満足せずに上を目指していかないといけない」。30年ぶりの関西学生リーグ上位躍進を導き、「1年生の頃からこのチームを変えたいと思っていた」という姿勢を体現し続けてきた主将は、全国舞台でもまだまだ上を見据えている。

(取材・文 竹内達也)
●第70回全日本大学選手権(インカレ)特集

TOP