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追加登録の“31番”が引き寄せた貴重な経験。中京大MF武藤寛が先輩の涙を見て感じた「超えたい壁」

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中京大の中盤で躍動した31番、MF武藤寛(1年)

[12.18 インカレ3回戦 新潟医療福祉大 1-1 PK5-4 中京大 相模原ギオンスタジアム]

 試合に出たからこそ、気付いたことがある。試合に出たからこそ、湧いてきた感情がある。このチームで勝つために、できることを、もっともっと全力でやり切ること。それは自分の成長のためでもあるし、いろいろなことを教えてくれた先輩たちへの感謝を、形として現わすためでもある。

「1年生からこういう舞台に出してもらえるなんて、かなり貴重な機会だと思いますし、4年生の最後の大会ということで、チームのために走って、プレーしたいとずっと思っていました。来年以降は自分がチームを引っ張っていくぐらいの気持ちで頑張っていきたいです」。

 中京大(東海3)の中盤を懸命に走り回ったハードワーカー。MF武藤寛(1年=市立船橋高)はこの日の悔しい負けを経験して、さらなる飛躍を誓っている。

 メンバー表を見ても、一際大きな数字が目を引く。30番までの選手が並んでいる大会の公式パンフレットには掲載されていない“31番”。それが武藤の背負う番号だ。

 いかに名門の市立船橋出身と言っても、大学サッカーのレベルはもちろん生半可なものではない。「最初の方は1年生のカテゴリーでやっていて、そこでもあまり試合には出られていなかったので、やっぱりツラかったですし、『試合に関わりたいな』と思っていたんですけど、そこで腐らずにIリーグで結果を出して、トップチームの練習に関われるようになっていったんです」。苦しんだシーズン前半戦を経て、徐々に自分の個性を打ち出せるようになっていく、

 シーズン最後の全国大会。インカレへ臨む中京大の30人の登録メンバーの中に、当初武藤は入っていなかったが、その後に発表された追加登録選手の3人の中に何とか滑り込む。その事実を示す“31番”の選手は、それでも福岡大と戦う1回戦のピッチに、スタメンとして解き放たれる。

 肝は据わっている方だ。「大学の公式戦にスタメンで出たのはインカレが初めてでした。緊張していたんじゃないかとみんなに思われるでしょうけど、高校の頃からプレミアリーグでやらせてもらっていて、大きな舞台には結構慣れているので、緊張というのはなかったですね」。結果的に延長も含めて120分間フル出場。もつれ込んだPK戦こそ、決めれば勝利という6人目のキッカーとして登場して失敗してしまったものの、武藤は上々の“スタメンデビュー”を飾ってみせる。

 2回戦の筑波大戦も先発出場を果たして87分までピッチを駆け回ると、チームも再びPK戦で勝利。ベスト4進出を懸けた大事な3回戦でも、31番は当然のように試合開始から決戦のステージへ送り込まれる。

 前半17分。左サイドでルーズボールに反応すると、すかさず右サイドへダイレクトパス。これを受けたMF藤井皓也(3年)が華麗な切り返しでゴールを奪う。「ベスト8の舞台で得点に関われたのは嬉しかったですね」。武藤のアシストで中京大は先制してみせる。

 ほとんど試合は終わりかけていた後半45+1分、与えたCKから相手に執念の同点弾を食らう。「失点後はコート内で全員鼓舞し合って、『大丈夫だから』と話していましたし、自分たちは延長を戦って勝ち上がってきたので、『延長に行っても勝てるぞ』というマインドではやっていました」(武藤)。

 延長でも決着は付かず、最後はPK戦までもつれ込んだが、「今日こそは決めてやるぞという感じだった」6番目まで順番は回ってこなかった。5人全員が決めた新潟医療福祉大に対し、1人が相手のGKに止められた中京大の冒険は、ベスト8で終焉を迎える結果となった。

「もったいない試合だったと思います。勝てたからこそ余計に悔しいですね。もっともっと得点のような結果に自分が関われればなって。4年生も最後までやり切ってくれたので、言葉にはうまくできない気持ちがあります……」(武藤)。

 1年生の自分がこの試合に出る意味は、十分に理解していた。「高校3年生の時も出られていない選手の分までという気持ちもあって、背負うものは結構大きかったんですけど、大学4年生の最後の試合となると、背負うものもより大きかったと思います」。泣いている4年生の姿が、目に焼き付いて離れない。遅れてきた31番はシーズンの最後の最後で、ようやく大学サッカーの魅力と非情さを同時に痛感したのかもしれない。

 だからこそ、これからの自分が、このチームで為すべきことも明確だ。「1年生でインカレのこの舞台に立って、ベスト8まで経験させてもらったので、今後の3年間で戦うインカレでは、このベスト8の壁を超えられるように、今日出ていた数少ない1年生として、頑張っていきたいです」。

 超えたいものがあるからこそ、超えるための努力は積み上げられる。未来はいつだって自分次第。この悔しさを経験した武藤のこれからも、自分次第でいくらでも変えられることは言うまでもない。

(取材・文 土屋雅史)
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