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3戦全敗…「勇気」なきザック采配

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[6.22 コンフェデレーションズ杯A組 日本1-2メキシコ ベロオリゾンテ]

 ベンチの意図は、どこまでピッチ上の選手に伝わっていたのだろうか。

 最初の交代カードは、先制点を許した5分後の後半14分。DF酒井宏樹に代えてDF内田篤人という右SB同士の交代だった。2枚目は、その6分後。FW前田遼一が下がり、DF吉田麻也がピッチに入る。3-4-3にシステムを変更し、攻撃的に打って出るというアルベルト・ザッケローニ監督の合図だった。

 負けているチームがDF登録の選手を2人、交代カードで切る。1枚はシステム変更のためとはいえ、消極的に映るのは否めない。内田は「DFが2人も交代で入ったのだから失点したのは良くない」と言ったが、失点しないことよりも得点することを選手に意識付けしなければならなかったはずだ。「負けている状況でDFラインの選手が試合に出るのは難しかった」(内田)という言葉も、選手の率直な思いを表している。

 過去の試合で機能したことがなく、前日会見で発した「フォーメーションを変える意図はない」というコメントを覆す3-4-3に、あえてこの舞台でトライした理由も分からない。勝負にこだわり、本気で勝ちを狙いにいくのであれば、違うやり方があったはず。消化試合とはいえ、コンフェデレーションズ杯という公式戦の貴重な1試合が、この時点で一気に「テスト」の意味合いを濃くしたように感じた。

 ザッケローニ監督の采配を疑問視する声は、今大会に始まったことではない。先発をほぼ固定し、交代策もパターン化している。選手マネジメントといったモチベータ―としての指揮能力は高いが、試合中の臨機応変な対応という点で硬直化するのは、このイタリア人監督の最大の欠点でもある。

 結果的に采配が当たった試合もある。昨年11月14日、敵地で行われたW杯アジア最終予選・オマーン戦では、1-0の後半19分に前田に代えてDF酒井高徳を投入。やはりFWを削ってSBを投入し、長友を左サイドハーフに上げた。1-1の後半39分にはMF清武弘嗣に代わってMF細貝萌がピッチに入り、MF遠藤保仁がトップ下へ。いずれも攻撃的な選手から守備的な選手への交代だったが、試合終了間際の後半44分、酒井高のクロスをニアで遠藤がそらし、FW岡崎慎司が決勝点を決めた。

 守備重視にも見えた指揮官の采配が結果的に功を奏した形だったが、リードした状況から一度は同点に追いつかれている。最終的に途中出場の選手が決勝点に絡んだから大きな批判にはつながらなかったが、もしも勝ち点を落としていれば、今大会と同じように「采配ミス」と叩かれていただろう。しかも、ザッケローニ監督はこの試合を機に、後半途中から長友を左サイドハーフに上げる交代策をたびたび見せるようになっている。

 監督の采配は結果論で語られがちで、“勝てば官軍、負ければ賊軍”だ。とはいうものの、ザッケローニ監督の交代策が的中した試合というのは、あまり記憶にない。現在のチームのベースとなった11年1月のアジア杯決勝で、途中出場のFW李忠成が延長戦に決勝点を決めたことぐらいしか、すぐには思い出せない。

 調べてみると、ザッケローニ監督の初陣となった10年10月8日のアルゼンチン戦から今回のメキシコ戦まで、国際Aマッチ38試合を戦い、計66ゴールを記録しているが、そのうち途中出場の選手が得点したゴールというのはわずかに5ゴールしかない。

 11年1月25日のアジア杯準決勝・韓国戦(2-2、PK3-0)で延長前半7分に細貝が決めたゴール。前述したアジア杯決勝・オーストラリア戦(1-0)の李の決勝点。11年11月11日に敵地で行われたW杯アジア3次予選・タジキスタン戦(4-0)で前田が決めたゴール。昨年6月8日に埼玉スタジアムで行われたW杯アジア最終予選・ヨルダン戦(6-0)のDF栗原勇蔵のダメ押しゴール。そして今年3月22日のカナダ戦(2-1)でFWハーフナー・マイクが決めた決勝点。残り61ゴールはすべて先発の選手が決めている。

 途中交代で起用する選手がすべてゴールを決める役割を求められているわけではないが、この数字はあまりにもさみしい。スーパーサブとなり得る選手が台頭してきていないとも言えるが、指揮官がそうした切り札的な存在を発掘できていないとも言える。

 選手交代が監督の仕事のすべてではないにせよ、重要な役割の一つであるのは確かだ。特に日本人選手が、劣勢の時間帯に自分たちの力で流れを引き寄せることが不得手なのであれば、ベンチがその手助けをしなければならない。

 例えば、今大会のブラジル戦で0-2の後半33分に切った遠藤→細貝という2枚目のカード。ドーハでのイラク戦から中3日で迎えたこの試合、明らかに遠藤のコンディションは悪く、ミスも多かった。圧倒的な力量差のある相手に対し、守備力の高い細貝を入れることで中盤のバランスを整えたい。その狙いは理解できる。メキシコ戦の酒井宏も守備に不安定さを見せ、サイドから危険なシーンをつくられていた。そこに内田を入れる。狙いは分かる。

 バランスを考え、守備を整え、そこからゴールを目指す。現実的と言えば現実的で、手堅いと言えば聞こえはいいが、消極的とも言える。

 ザッケローニ監督は選手に「勇気とバランス」を求め、報道陣の前でもその言葉を何度となく繰り返してきた。ブラジル戦では「控えめ」で消極的だった選手たちが「勇気」を持って戦ったからこそ、イタリア戦で見違えるようなプレーにつながった。それならば、監督も「バランス」だけでなく、采配に「勇気」を持つべきではないか。

「勇気とバランス」。その言葉をザッケローニ監督自身に投げかけたい。

(取材・文 西山紘平)

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