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「スポーツライター平野貴也の『千字一景』」第34回:苦悩を知る者(日本体育大:鈴木政一監督)

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日本体育大の鈴木政一監督(左)は2年前、U-19日本代表を率い、世界切符を懸けて戦った指揮官だ

“ホットな”「サッカー人」をクローズアップ。写真1枚と1000字のストーリーで紹介するコラム、「千字一景」

「代表は、難しいからね」

 90分の練習試合を終えて、そう言ったのはU-19日本代表と対峙した日本体育大鈴木政一監督だ。前回のU-19日本代表で監督を務めて4大会ぶりのU-20W杯出場を目指したが、目標を達成することはできなかった。現在のU-19日本代表を率いるのは、当時コーチだった内山篤監督。相手の立場と状況を察した一言だった。

 練習試合は、実戦と同じ90分で行われ、U-19日本代表が3-2で勝利した。しかし、U-19日本代表は2点を先取した後、日体大に押され続けて追いつかれた。3点目のセットプレーは相手のミスから得たCKが起点で、いわば相手の自滅。相手の大学生は年上だが、すでにプロとなった選手が主力のチームとしては、良い内容とは言い難い。5大会ぶりのU-20W杯の出場権獲得がかかるAFC U-19選手権(10月13~30日、バーレーン)に出場するメンバー発表を間近に控えた段階でのゲームとしては、不安がよぎる内容だった。先発した選手の多くは後半途中あるいは試合終了までプレーしたが、時間の経過とともにパフォーマンスは明らかに落ちていった。

 U-19日本代表の内山監督は「ほとんど90分の試合をやっていない選手たち。今日、90分プレーした選手を見てもらえば(状況が)分かると思う。本番では3人しか交代できない。こういう機会をもらってありがたかった」とこの試合を行うためだけに1泊2日の短期合宿を組んだ理由を話した。U-19世代は、公式戦の出場機会が少ないプロ1年目が主力で実戦感覚が鈍る傾向にある。その上、招集に拘束力がなく、プロで試合に出ている選手は合宿に参加できない場合も多い。だから、対峙した鈴木監督は「こういう状況は(今回も)変わらない。日体大は毎日同じメンバーで練習できるからまだ機能しているけど、代表は事情が違う。僕も経験して難しいのは分かっているから、できるだけ協力しなければいけないという気持ちはある」と相手のパフォーマンスが低調だったことに理解を示し、協力姿勢を強調した。

 U-19日本代表の戦いは、難しい。しかし、世界大会を4度逃した経験を生かして流れを変えなくてはならない。今度こそ、頼む。これまでの悔しさを知る誰もが同じ思いでいるはずだ。日体大の鈴木監督は「自信を持ってプレーすれば、絶対に行けるはず。僕は期待している」とU-19日本代表にエールを送った。決戦開始まで残り1か月弱。メンバー発表後のチーム力向上を皆が願い、信じている。


■執筆者紹介:
平野貴也
「1979年生まれ。東京都出身。専修大卒業後、スポーツナビで編集記者。当初は1か月のアルバイト契約だったが、最終的には社員となり計6年半居座った。2008年に独立し、フリーライターとして育成年代のサッカーを中心に取材。ゲキサカでは、2012年から全国自衛隊サッカーのレポートも始めた。「熱い試合」以外は興味なし」


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