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朋輩がいま明かす、日本代表監督・西野朗の最も優れている能力とは…?

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前園、中田英、城…西野監督のもと“マイアミの奇跡”を演じたイレブン

 ついにロシアW杯を戦う日本代表23選手が発表された。国内最後の強化試合であるガーナ戦はいい形で終えることができなかったが、スイス、パラグアイとの強化試合を経て、19日には初戦のコロンビア戦を迎える。
選手時代から日本サッカー協会スタッフ時代まで、西野朗現日本代表監督と苦楽をともにしてきた山本昌邦氏が、“西野朗像”を明かす。


1996年、アトランタ五輪。西野朗監督、山本昌邦コーチ体制で28年ぶりにアジア予選を突破したU-23日本代表は、ブラジル、ナイジェリア、ハンガリーが並ぶグループに入った。初戦は、優勝候補大本命のブラジル。日本サッカー界最大の番狂わせ、“マイアミの奇跡”はどのようなプランで起こすことができたのか――?

 西野さんとの出会いは私が19歳で現役のころで、日本代表に初めて入ったとき。西野さんは早稲田大4年生で、すでに何回も日本代表に呼ばれているような存在でした。

 日本リーグ時代は、西野さんが日立で、私はヤマハでプレーし、その後お互い指導者になって、1993年のワールドユース(現U-20W杯)を目指すチームで一緒に仕事をすることに。メンバーでいうと、服部年宏や前園真聖といったアトランタ五輪の上のほうの世代がいたチームです。そのチームはアジア予選で韓国に負けてしまい、ワールドユースへの出場はかなわなかったのですが、強化部長だった川淵三郎さんが「五輪はまかせた」と監督・西野、コーチ・山本の体制を継続して、1996年のアトランタ五輪を目指すことになったんです。

 本大会初戦のブラジル戦は3-4-2-1の布陣で臨みました。奇しくも先日のガーナ戦で日本代表が敷いた布陣と同じですね。GKに川口能活、最終ラインは左から松田直樹田中誠鈴木秀人。ウイングバックは左に路木龍次、右が遠藤彰弘で、ボランチに服部と伊東輝悦がいて、その前に前園と中田英寿がいて、一番前に城彰二。事前の分析で、ブラジルは個々の役割がはっきりしていること、システムを変えてこないことはわかっていたので、後は相手を自由にさせないために日本の選手をどうハメていくかを考えました。

 ゲームプランは「失点を0に抑えて、1点を取って勝つ」。シュートは7倍(日本4本、ブラジル28本)打たれましたけど(苦笑)、無失点だったというのが大事なところで、結果的にプラン通りブラジルから1-0の勝ち星をあげたわけですから。
(※編集部注:勝ち点6で3チームが並んだが、得失点差の末に日本はグループ3位で敗退。その後グループ2位通過のナイジェリアが金メダル、首位通過のブラジルが銅メダルを獲得した)

アトランタ五輪の2年後、西野朗は柏レイソルの監督に就任、チームを上位に導きクラブ初のタイトルであるナビスコ杯(現ルヴァン杯)も獲得した。その後に指揮を執ったガンバ大阪では、リーグ王者、ACL王者をはじめ多くのタイトルをもたらし、黄金時代を築く。神戸、名古屋を合わせた4チームで重ねた勝利は「270」におよぶ――。

 西野監督はアトランタ五輪のブラジル戦では守って耐えて1-0で勝ち切る現実的なサッカーを展開した一方、その後に指揮をとったガンバ大阪や柏レイソルでは攻撃的なサッカーで魅せました。

 J1での勝利数は、前人未到の270勝です。2位のネルシーニョ監督が173勝ですから、ダントツの数字ですよね。この270勝の一つひとつに成功体験があります。

 サッカーの試合は生き物のようなもので、相手だけでなく、自分たちもメンバーやコンディションが同じ試合はひとつとしてありません。気候も毎試合違います。そんな中で、ゲームを読んでチームを勝利に導いていく経験値を培ってきた人です。西野監督の頭の中には、“勝利の方程式”のページが270勝分あるということです。

 いろいろな監督に話を聞くと「西野さんは采配のミスをしないんだよね」と口をそろえて言います。「だから嫌だし怖い」と。あとは「自分たちがされたら嫌だなと思うことを西野さんはやってくる」ということもよく聞きます。これらは、実際に対戦したことのある人だからこそ、感じることができるんでしょうね。

 西野監督が試合中に怒鳴っているのを見たことがないかもしれません。感情的にならず、常に冷静に状況判断ができる方ですね。そこが一番の強みではないでしょうか。

 選手だけでなく、監督の世界も感情に左右されたら自分の良さを出せません。どんな状況においても、うまく分析して、的確な手を打つ。サッカーは感情的になるスポーツではありますけど、感情をコントロールしないといけないんです。

 監督業は批判が当たり前の世界ですから、精神的にもきついです。監督業を何十年もやっている西野監督は任せられるところは人に任せるタイプなので、バランス感覚も良いんだと思います。監督の中には全部自分でやろうとする人もいるんですが、そうすると長くは保ちません。私は自分でやろうとしちゃうタイプです(笑)。

ロシアW杯を2か月前にして、日本代表監督に就いた西野朗。“コミュニケーション不足”が解任の原因とされる前任者から引き継いだ日本人指折りの名将は、どんなチームづくりをしていくのだろうか――?

 西野監督はみんなの意見をよく聞く印象ですね。キャラクター的には「オレはこうやるぞ」というのを選手たちに押し付けるタイプではありません。選手からも話を聞くし、コーチングスタッフの話も聞くし、周りからも情報を聞く。結局、選手がピッチに立つわけですから、選手がその気にならないといけないということを、深く理解されているのだと思います。

 人の話を聞くからと言って、決してこだわりがないわけではありません。自分の哲学に対するこだわりはものすごく強い。それをあまり口には出さないんですけど、曲げない人ですね。

 キャラクターということで言えば、“会話が上手い人”になりますかね。選手の気持ちをうまく察してくれると思います。「○○はどうしたいの?」「□□の良いところはこういうところじゃないか?」という具合に。選手の感情を掴むのがうまいんですよね。伝わる言葉を持っている。これは日本人監督であるメリットのひとつでしょうね。

 クラブで長年指揮を執っていれば、フロントと衝突することもあるとは思いますが、選手と揉めたという話はほとんど耳に入ってこないです。

 選手だけでなく、コーチングスタッフも含めてみんなの良いところを生かしてくると思います。フォーメーションもひとつにしぼらないだろうと予想していたのですが、実際、5月30日のガーナ戦では3バックでスタートし、終盤には4バックもテストしました。西野監督のとなりには、3バックが得意な森保一コーチがいれば、4バックが得意な手倉森誠コーチもいるわけですから。良いところをうまく引き出す力は図抜けていますよ。

 開幕まで2週間を切ったロシアW杯。日本が底力を見せてくれることを期待したいですね。

(取材・文 奥山典幸)

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