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“ビデオ判定”連発しすぎ…? アジア杯導入1日目で起きたVAR事例を考えてみた

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日本対ベトナム戦、MF堂安律が倒されたシーンをモニターで確かめる主審

 アジアカップは24日、準々決勝1日目を行い、大会史上初めて採用されたビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)が2試合で3回の介入を行った。過去には度重なるテストの末、3試合に1回の割合が適切だという結論が出ているが、その目安を大幅に超過した形。昨夏のロシアW杯と同様、導入初期の不安定な基準が浮き彫りとなった。

 今大会では準々決勝からVARの運用が開始。UAE・アブダビ首長国内のザイード・スポーツ・シティー・スタジアムに専用ルームが設置され、VAR1人、アシスタントVAR2人の計3人がモニターを通じて各会場の試合を眺め、ピッチに立つ主審のミスジャッジに助言を行う仕組みとなっている。

 VARは「明白かつ確実な誤審」にのみ介入するというルールとなっており、さらに対象となる事例は①得点②PK③一発退場④人違いの4要素だけ。なお導入1日目は日本代表対ベトナム代表、イラン代表対中国代表の2試合が開催され、1試合目は①得点と②PK判定、2試合目は①得点に関する介入があった。

【事例1】日本対ベトナム ①得点
 アジア杯史上初の介入事例となったのは日本対ベトナム戦の前半24分、日本代表MF柴崎岳の左CKにDF吉田麻也がヘディングで合わせた場面だ。シュートはネットを揺らし、日本の選手たちはベンチ脇に集まり歓喜に沸いたが、すぐに主審はプレー再開を制止。ピッチ脇モニターのもとへ向かった。

 ここで争点となったのは吉田がヘディングをした直後、ミートしなかったボールが吉田の腕に当たったこと。すなわち、ハンドリングの反則があったのではないかという介入だ。主審は映像を入念に確認した後、両手の指で長方形を描くジェスチャーを見せて判定を訂正。結局、ゴールは認められなかった。

 しかし、この判定には疑問も残った。まず吉田の行為はハンドリングだったのかという点。「意図的にボールに触れる行為」が反則だとされるが、吉田の腕はジャンプの事後動作として適切な位置にあり、不自然な意図を感じさせるものではなかった。加えて、その見逃しが「明白かつ確実な誤審」かという点でも不明確だった。

【事例2】日本対ベトナム ②PK
 2度目の介入が行われたのは後半8分、MF原口元気の縦パスを受けたMF堂安律がPA内でドリブルをしかけ、DFブイ・ティエン・ズンにスライディングで倒された場面だ。当初、主審はファウルの判定を下さず、ベトナムGKがボールをキャッチしたことで試合は続けられたが、約2分後にプレーが切れた場面でVARの介入があった。

 1回目と同様にピッチ脇モニターへと向かった主審は映像を確認し、再び長方形のジェスチャーを行って判定を修正。これにより、日本にPKが与えられた。これを堂安が決めて先制に成功すると、試合はこのままのスコアで終わって日本の4強入りが決定。1度目はVARに泣かされつつも、2度目で報われるという結果となった。

 ここで注意したいのはVAR介入の場面。プレーがいったん切れた後に再開されてしまえば、原則として介入することはできないため、プレーの切れ目の中断はギリギリのタイミングだった。その一方、両チームにとって中立な状況であればインプレー中も介入可能なため、より迅速に中断させることもできたかもしれない。

 また、ファウル見逃しが「明白かつ確実な誤審」だったかという点では議論が分かれそうだ。堂安への接触は2度起きており、2度目が決定的な反則行為となっているため、2度目の接触が主審の目から見えていないとすれば「誤審」があったといえる。一方、もし見えていたなら当初のノーファウル判定を支持するべきだったと言えそうだ。

【事例3】イラン対中国 ①得点
 2試合目の介入は前半31分、味方のフリックしたボールに反応し、PA内に抜け出したイラン代表FWサルダル・アズムンが相手GKをかわしてゴールを決めた場面。ここではシュートの直前に中国代表DFリュウ・イーミンと競り合っており、そこでファウルがあったかどうかが争点となった。

 だが、主審が映像を確認した結果、リュウの転倒は自ら足を伸ばしてバランスを崩したことによるものであることが分かり、アズムンのゴールは認められた。すなわち、映像確認を経ても判定は覆されず、そもそも「明白かつ確実な誤審」の疑いもなかったため、VARが介入する必要はないというケースであった。

 以上の3事例を整理すれば、少なくとも3例中2例はそれほど介入の必要性が見られない場面だったということができる。吉田は試合後のテレビインタビューに対して「おそらく前例をつくるために使いたがるだろうとわかっていたので仕方ない」と語っていたが、まさに『使いすぎ』と言えるだろう。

 なお、この傾向は昨夏のロシアW杯でも同様だった。全64試合で計21回の介入が行われた中、グループリーグ48試合で19回の介入があった一方、決勝トーナメント16試合ではわずか2回にとどまった。アジア杯は残すところ5試合だが、W杯でのトラブルを考えれば、適切な基準で運用されるまでは、まだまだ時間を要するかもしれない。

(取材・文 竹内達也)

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