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久保建英を襲っていた“3年間ノーゴール”の重み「周りがどんどん簡単なゴールを決めるたびに…」

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MF久保建英(マジョルカ)

[6.10 キリン杯 日本 4-1 ガーナ ノエスタ]

 18歳でのA代表デビューから苦節3年——。MF久保建英(マジョルカ)が待ちに待ったA代表初ゴールを決めた。後半28分、MF三笘薫(ロイヤル・ユニオン・サンジロワーズ)のラストパスに真っ先に飛び込むと、自慢の左足をダイレクトで一閃。ようやく訪れた歓喜に「もうゼロだと言われることはなくなった」とほっとした様子で振り返った。

 久保は2019年6月9日のキリンチャレンジカップ・エルサルバドル戦でA代表デビュー。18歳5日の早さで初陣を迎えたことで、当初は金田喜稔氏が保持する19歳119日のA代表最年少ゴール記録の樹立は確実視されていた。ところがその後、東京五輪代表の活動でA代表から離れる時期が続くと、19歳を迎えた2020年は新型コロナウイルスの影響で国際試合が停止。そのまま記録樹立の可能性が消滅し、昨年はプロ入り後初の長期離脱で代表活動からも遠ざかった。

 その間には「このまま一生入らないんじゃないかと思うこともあった」という久保。他の選手が次々にゴールを決める中では「周りの選手がどんどん簡単なゴールを決めていくたびに、『ああ、俺があそこにいたらよかったな』とか、僕のシュートが弾かれたりするたびに、『何で僕のはブロックされるんだろう』とか思っていた」と嫉妬のような感情を覚えることもあった。

 そうした葛藤は想像以上に大きかったようだ。今年3月、カタールW杯出場権を獲得したオーストラリア戦でも出番はなく、ベトナム戦でも途中出場。「今ごろ(W杯の半年前)は代表のスタメンで出ていないといけないなというのは去年のいまくらいにあった。このまま行くかなと思った矢先、ゼロからのスタートになってしまって、計算と合わないと思っている僕もどこかいる」とカタールW杯に向けた道のりが霞みかけるほどだった。

 またその現状認識は大きな焦りも生んでいた。6月シリーズ初戦のパラグアイ戦では後半26分から出場機会を与えられたが、「代表に帰ってきて一旦フラットな状態からの1試合目で、立ち位置が嫌でも見えてきたので焦りが生まれた」と精彩を欠いたプレーに終始。今回の活動期間中には「一回掴んだものを手放すのはこんなに苦しいのか」と悲痛な心境も吐露していた。

 ところが、そんな久保の心のモヤが晴れたのは、6月4日に迎えた21歳の誕生日だったという。「21になった時に自分の中でいろいろと考えて、その結果いろいろと吹っ切れて、見違えるようにプレー自体も軽くなった。自分の中で21になって何かがいい方向に変わった」。その思索の内容は「企業秘密です」とかわしていたが、その節目がのしかかっていた重圧をかき消していたようだ。

 そんな久保だが、21歳になった4日後に迎えたブラジル戦でもベンチ入りしたが、出番なし。所属先レアル・マドリーのMFカゼミーロ、FWビニシウス・ジュニオールがピッチに立っており、自身の絶好のアピールチャンスを意識しないはずはなかったが、最後までタッチラインをまたぐことはできなかった。

「正直めちゃくちゃキツかったですね。何で出してくれないんだよって思ったし、僕だけじゃないと思うけど、俺が出たらもっとやれていたと思っていた」。当時の心境を振り返った久保は、直接的な悔しさも表現した。

 だが、そこは吹っ切れたあとの久保建英。やるべきことは決まっていた。「だけどそれは試合に出ていない僕が言ったところで負け惜しみでしかない。練習からやれることをやっていこう」と思っていた。そうして迎えたこの日のガーナ戦。「途中で足を痛めたので交代も悩んだけど、ここで代わったらもうないなと思った」。痛みに耐えてピッチに立ち続け、3年越しの初ゴールを掴んだ。

 ゴールの直後にはアシストした三笘を始め、次々にチームメートが祝福に訪れた。「何をしようか迷ったけど、逆に余裕がありすぎて、逆に喜ぶタイミングを見失った。とりあえずパスをくれた三笘選手に絶対に最初に行こうと決めていて、その後に何かしようと思ったけど、みんな来てくれたので、それがうれしくてもう満足しました」。歓喜を爆発させるわけでもなく、どこか落ち着いた表情はそうした幸福感によって表現されたものだったようだ。

 そんな久保にはもはや、20歳で抱えていたような葛藤ははない。試合後にはMF南野拓実、MF原口元気らに現在の通算ゴール数を尋ねたといい、「近いようで遠いというか、代表の試合はすごいことだなと思いつつ、もっと得点に絡んでいきたい」と決意をアピール。「他の人からしたらもっと早く決めるチャンスあっただろってみんな思ってたと思うし、結果的に17試合目で1ゴールだけど、終わった時にいっぱい点を取っていればいい。追いつけ追い越せでやっていきたい」と軽やかに先を見据えていた。

(取材・文 竹内達也)
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