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三笘薫はなぜ“ターニングポイント”に強くなったのか「今日で人生が決まると思って毎回臨むようにしています」【単独インタビュー】

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MF三笘薫単独インタビュー

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 MF三笘薫は2021年夏、生まれ育った川崎フロンターレを旅立ち、プレミアリーグ・ブライトンへの完全移籍で欧州挑戦をスタートさせた。1年目はベルギーのロイヤル・ユニオン・サンジロワーズに期限付き移籍すると、鮮烈なハットトリックを機に先発に定着し、クラブの歴史に残る快進撃を牽引した。

 また昨年11月にはカタールW杯最終予選を戦う日本代表に初招集され、初陣のオマーン戦でさっそく初アシスト。2試合目となった今年3月のオーストラリア戦では終盤起用で圧巻の2ゴールを挙げ、森保ジャパンをカタールW杯に導いた。課題と収穫を手にした東京五輪を経て、あらゆる「ターニングポイント」で結果を残した印象が強いこの1年間。5月下旬、帰国直後の25歳にその思いを聞いた。

——東京五輪からの1年を振り返っていかがですか。
「流れるように過ぎていきましたけど、いろんなところでプレーできましたし、代表にも入れて、いろんな立ち位置の中でプレーできたことがすごく面白かったです。ステップアップとしてもそうですし、悪くはない1年だったかなと思っています」

——よく「サッカー選手としての価値を上げる」という表現がありますが、今季はまさにそういった1年になったのではないでしょうか。
「そうですね。海外に出ることによって学ぶことも多くありましたし、代表に入って体験できることも多かったです。海外に行ってよかったなというのをすごく思いますし、自分が成長している実感も日本の時より増しています」

——サッカー選手のステップアップは「ターニングポイントを活かせるかどうかが大事」とよく言われます。そういった意味では、ハットトリックを記録した10月のスラン戦が大きなきっかけとなったのではないでしょうか。
「それが一番大きかったですね。チームの信頼もそうですし、監督の信頼もそうです。それまではなかなか結果が出ず、スタメンでも出られていなかったので、ベルギーに行ってからは一番大きな試合だったと思います」


——あの試合に向けての気持ちの作り方、準備に何か変化があったのですか。
「あの試合は(味方選手の退場でチームが)10人になって、0-2で負けていたので、来るだろうなと思って準備していました。実際に出番が来たので、ここで逆転できたり存在感を出せれば、持っていけるなというのは思っていました。そういうタイミングで活躍できないと逆にスタメンももらいづらいと思っていたので、ある意味わかりやすい試合だったかなと」

——あの試合での逆転劇によって、チームとしてもやれるんだという自信をつけられた試合だったのではないでしょうか。
「そうですね。あそこから1位を死守していたので、ビハインドでも逆転できるということがチームとしても自信になりました。メンタリティのところは監督も常に言っていましたけど、そこで自信になっていったかなと思います」

——チームとしては、シーズンが始まる前に掲げていた目標よりも高いところを走っていたと思います。どのような雰囲気の中で戦っていましたか。
「チームの最初の目標は残留だったので、その上でチャンピオンシップ(上位勢のみが参加するプレーオフ)まで戦えたというのはチームとして一つ歴史を作れたと思います。選手としても多国籍で、僕自身もアジア人として受け入れてもらって、みんなすごく良い選手でしたし、素晴らしいチームに移籍できたなと思っています」


——これまでプレーしてきたチームに比べて、特色を感じた部分はありますか。
「まだ日本のチームしか体験していないので(笑)。ただ日本ではコミュニケーションは確実に取れるんですけど、海外になるとそうはいかないので。僕も英語は全然喋れないですけど、(チームメートも)英語だったりフランス語だったり言語がたくさんあって、わかるところもあればわからないところもありました。コミュニケーション一つとってもやっぱり日本のようにはうまくいかないので、できるだけピッチの中で感情を出すことは意識していましたし、そういう環境だったので、よりサッカーに対して真剣になれたというか、結果を求めるようになりました」

——ウイングバックでプレーしていたため守備の役割も多かった中、コミュニケーションもより大事になると思います。どのように伝達し合っていたんですか。
「後ろの近い選手とはよく意識的にコミュニケーションを取るようにしていました。たとえば後ろの選手が悪いプレーをしても褒めるようにしたり、そういったところは意識していました」

——ユニオンはレギュラーシーズンを首位で終えました。プロ入り後はJリーグでも2連覇していましたが、こうしてタイトルに導ける存在になっていることについてどう捉えていますか。
「(チャンピオンシップで2位に終わったため)ユニオンではタイトルは取れていないですけど、途中出場でも流れを変えられるタイプだと思うので、そこでうまく引き分けに持ち込めたりしていることで、勝ち点をうまく拾えているところにつながっているのではないかと思います」

——先日、旗手怜央選手にもインタビューしたのですが、フロンターレ勢が欧州に出てチームを勝たせる活躍をしているのはすごいことだなと思います。
「もちろん、もともとチームのポテンシャルがあっての相乗効果もあるので、チーム選びと、自分の能力が合致できたということで、それはたまたまだと思います(笑)」

——日本代表についても聞かせてください。海外に移籍してからA代表に呼ばれ始め、とくに三笘選手の場合、アウェーゲームでの招集が多かったので移動などが大変だったと思います。両立する難しさは感じていましたか。
「とくにオーストラリアは本当に遠くて……(笑)。僕は(ユニオンでの試合からオーストラリア戦までに)間があったんですけど、代表選手のコンディションの難しさというのはすごく肌で感じました。代表に入っていない時は文字だけで見てわかっていましたけど、体感しないとわからない難しさもありました。それは自分で体感できてよかったなと思いますし、その上で活躍している選手へのリスペクトが増しました」


——移動は何か工夫して乗り越えたんですか。
「試合のあとすぐに移動なので、疲労もある中、やれることは限られています。回復だったり食事に目を向けることしかできないので、そういった基礎的なところをやるしかないかなと思っています」

——これまでさまざまな場所での発言を聞いていると、三笘選手はそういったノウハウを持っているプレーヤーだと思います。
「大学時代も通して、いろんなことの知識も増えましたし、それがサッカーに通ずるのは実感しているタイプだと思います。それをやらないよりやるほうがいいというのは意識しています」

——具体的に何か取り組んでいることはありますか。
「具体的にというより基本的なことですけど、試合後や練習後にすぐに食事をとったり、一つの睡眠をおろそかにしないことです。時差調整もそうですし、いろんなところに気を配ったりしていました」

——A代表では1試合1試合の重要性がさらに高まる中、三笘選手はわずかな出場機会を誰よりも活かし、「ターニングポイント」に強かった印象があります。そのあたりをどう捉えていますか。
「ワールドカップまで時間がない中で限られたチャンスではありましたし、最終予選でプレッシャーはありましたけど、そういう場面は結構いろんな場面でやってきたので得意だと思っていました。そういう日は『今日で人生が決まる』と思って毎回臨むようにしています」

——そうした「ターニングポイント」になる試合、人生をかけて臨むべき試合への向き合い方でこだわっていることはありますか。
「自分のルーティーンをなるべく崩さないことと、メンタル的に他のところに気を配り過ぎないことですね。試合のための過ごし方だったり、そういったところも小さいことが関係してくるので、なるべくストレスにならないようにしていました」

——これまで人生の「ターニングポイント」になった試合はどのようなものを思い出しますか。
「たくさんありましたね。何事もそうですけど、プロデビューの試合だったり、オリンピックのメキシコ戦だったり、この前のオマーン戦やオーストラリア戦もそうです。また初めと終わりは大事かなと思っています」


——逆に育成年代の「ターニングポイント」となる試合で、活躍できた思い出はありますか。
「あんまり覚えていないです。なかなかそれがないので、(当時の反省からいま)そういうふうに過ごしているんじゃないかなと思いますし、それだけいまは懸けてやっているということだと思います」

——インカレなどの試合後の取材では、どちらかというと悔しそうにしている姿が印象的でした。プロに入ってから「ターニングポイント」に強くなった理由はどう捉えていますか。
「プロになってしまえば仕事なので。責任感であったり、生活がかかっているということで、大学の時よりは真剣さが増しましたし、そういうところのオンとオフの切り替えは大学の時よりもするようになりました。もちろんその時もベストを尽くしていたつもりでしたけど、いま思えばいろんなところに気を配れていなかったなと思いますし、いろんな知識も足りなかったです。トレーニングもそうですし、課題もたくさんあったかなと思います」

——そのあたりで育成年代の選手に対してのアドバイスをいただきたいです。日本はトーナメント戦が盛んなこともあり、そうした人生をかけて臨むような「ターニングポイント」に向き合う選手も多くいます。どのようなことが大切だと伝えたいですか。
「(クラブユース出身の)僕はトーナメント戦はそんなに多く戦っていないですし、負けてきたほうなので、そんなに上から言えることはないですが、コンディションをうまくそこに持っていけるかが大事かなと思います。その1試合で最後に終わってしまうということを考えると、100%の状態で持っていってほしい。そのための生活を1週間前だけじゃなく、近づいてきている段階からやってほしいし、チームとしてもこれをやっておけば良かったなと思うことをできるだけなくしていってほしいと思います」

——ありがとうございます。その一方、大学時代からこの一戦で燃え尽きるという姿勢ではなく、この一戦を将来のキャリアにつなげていくという意識の高さを感じていました。そこへのこだわりはありましたか。
「大学の時はもちろん『大学でタイトルをたくさん取りたい』と思っていましたけど、何よりプロになるためにやっていました。その上でいろんなチャレンジをしていましたし、トーナメントはその過程の一つだったので。(その経験を)プロになって活かさないとバカだなと思っていたので、そういったところでの失敗をいまは上手く活かせているんじゃないかなと思います」


——プロに入ってからは一戦一戦がキャリアを切り開くための「ターニングポイント」になっていると思います。そうした取り組みがいまに活きているんですね。
「いまはもうその(過程としての)1試合が来ることはないので、そういう意識づけでやっています。90分で人生が変わるのがプロのサッカー選手なので。そこを見てオファーが来るかもしれないし、とくに強い相手の時はより自分の力を出せば上に上がれるステップになるので、そういうところの意識は全然違います」

——大学時代はプロ基準、プロに入ってからは海外基準と、常に先を見据える姿勢を感じていましたが、いまはどこに自身の求める基準を置いていますか。
「いまはプレミアリーグのチームと契約しているので、ベルギーリーグで通用しても満足はできなかったです。そういうところの基準を自分の中で作っていかないと、満足して衰退してしまうと思うので、そういったところは自分の中で基準を作っていかないといけないなと思っています」

——ベルギーの基準よりも、さらに上の基準を持ちながらプレーするようなイメージですか。
「プレミアリーグのチームと契約している以上は、そこでプレーしないといけないと思っているので、いい意味で高い基準を自分で作って、そのための負荷をかけながらやっていくほうがいいと思います。自分がただユニオンに所属してプレーしているのと、ブライトンに所属してユニオンでプレーしているのとでは、成績だったり、プレーも変わってくるのかなと思うので、そこはなるべく上に基準を設けることで、自分の実力はその下ですけど、実力が追いついてくるようにしたいと思います」

——いま「下」という言葉がありましたが、まだまだ差があると思いますか。
「それはプレミアリーグの試合を見れば確実に分かります」

——たとえばブライトンの選手と比較しても、持ち味を発揮すれば十分やれるんじゃないかと思うのですが。
「いやいや、全然違います。ベルギーリーグで苦労しているようでは、すぐに適応できるようなレベルではないと思います」

——その差はどのようなところにあると感じますか。
「強度と、技術と、一番は能力の違いですね。全世界からトップレベルの身体能力がある選手が来るので、その身体能力を持って戦わないといけないです。そこをまず近づけていかないといけないかなと思っています」

——フィジカル的な能力を積み上げなければならないと。
「そうですね。身体を大きくしながらキレを維持するというのは常に思っていますし、それをやっていけばおのずと攻撃面では通用してくると思います。またいろんな状況でのプレーがあるので、そのプレーの幅を広げないといけないと思いますし、そういった意味でウイングバックを経験したというのはすごく良かったと思っています」

——身体の大きさの話が出ましたが、代表合宿の時の取材対応で「身体がゴツくなったのでは?」という質問がありましたよね。それに対して「ユニフォームが小さいだけ」と答えていましたが、あれは本音ですか?
「ユニオンのユニフォームはキツキツです(笑)。小さいです、あれは」


——身体的にサイズアップしたわけではないですか。
「いえ、少しはしていますね。ただ、その時に筋トレし過ぎていたら自然と大きくなりますし、ちょっと動かないなと思ってやめたらすぐに細くなるようなタイプなので、平均的には少し大きくなっていますけど、いまよりもっとゴツい時期もあったと思います。大学の時も結構やっていましたし、プロ1年目で怪我をしている時もやっていたので。なので、大きさはいろいろと比較しないと分からないですね」

——「やめたら細くなるようなタイプ」とのことですが、その点で海外の選手とは違いを感じますか。
「そうですね。何を食っても筋力が落ちてない人を見ていると、ヤベェなと思いますね。筋力トレーニングをしていなくてもついているような選手も多いです。ただ僕は定期的にやっていかないと維持できないようなタイプなので。いまはそれも逆に良かったのかなと思っています」

——そういった身体的特徴も踏まえて、育成年代からやっておいて良かったと思う取り組み、もっとやっておけばよかった取り組みはそれぞれありますか。
「やっておいてよかったのは、小さい頃にボールタッチの感覚を身につけることと、相手を見てプレーするという癖をつけることです。サッカーはそういうスポーツなので、考える力だったり、いつも同じ技術を発揮できる能力が求められるので、それは必要だと思います。やっておけばよかったのは、僕の場合はやはりフィジカル能力をもっと向上させればよかったなと思います。食事であったり基本的なところをもっとおろそかにしないほうがよかったなと思いますし、筋トレももっとすべきだったなと思っています」

——そういえば高校時代の記事で「見る能力」の高さが指摘されていましたが、そこは意識的に取り組まれていたんですか。
「遊びのあるプレーとか1対1とか、面白いプレーを見るのが好きだったので、相手の逆を突いたり、股抜きシュートだったり、そういう“あざ笑うプレー”はしていましたね。そのほうが結構好きで、遊び心を大事にしていたので、そういったところを楽しむ気持ちでやっていたかなと思います」

——そろそろ時間なので最後の質問をさせてください。いままで話していただいたような取り組みの先にいまの活躍があり、日本代表でもさらに「ターニングポイント」になるであろう戦いが控えています。まずはワールドカップが直近の目標になると思いますが、その大舞台をどのように見据えていますか。
「ワールドカップに出た時のイメージは全然イメージし切れていないです。雰囲気や緊張感も全然違うと思うし、いままで体験した中の緊張感ではないと思うので、いまはワールドカップのような緊張感を(普段から)もっと味わいたいなと思っています。それは高いレベルのプレーだと思うので、厳しい相手にもどんどんチャレンジしていって、自分の能力をどこが足りないのかを判断しながら成長していくことが大事だと思います。そういう材料が今後の試合で増えていくと思うので、1試合1試合を大事にしていきたいと思っています」

(インタビュー・文 竹内達也)





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