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日本サッカー協会が55ページの力作『Japan's Way』を公開!! 制作丸1年で“バイブル”完成、「賛同も批判も」議論の活性化期待

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『Japan's Way』の表紙

 日本サッカー協会(JFA)は15日、世界一を目指すためのナショナル・フットボール・ビジョンを記したデジタル冊子『Japan's Way』を公開した。日本代表やなでしこジャパンの強化、育成年代の普及・強化、指導者養成の拡充、サッカーファミリーの拡大など、さまざまな施策の根幹となる日本サッカーの“バイブル”。海外での研修・指導が豊富な影山雅永JFAユースダイレクターを中心としたプロジェクトチームが、イラストや映像リンクも交えた全55ページの力作を完成させた。

 オシムジャパンが発足した2006年から使われ始めた言葉『Japan's Way』をタイトルに掲げ、ドイツやベルギー、イングランドなど海外の同様施策も参考にしつつ策定したナショナル・フットボール・ビジョン。これまで「日本らしさ」「日本人に合ったサッカー」と曖昧に表されていた日本サッカーの方向性が55ページにわたる資料で示されている。その中には「我々の『日本サッカー』そのものは多様性に満ちており、可変的なものである」「日本サッカーが陥りやすいガラパゴス化へのチャレンジ」などと、これまでの“日本人像”“日本人らしさ”に限定しない志向も盛り込まれた。

 JFAは影山ダイレクターを中心に昨年夏、プロジェクトチームを発足。さまざまな関係者と議論を重ねながら丸1年かけて制作した。15日に行ったメディアブリーフィングで影山ダイレクターは「サッカーはそれぞれの指導者、ファン、サポーター、さまざまな方が“日本サッカーこうあるべきだ”というのを持っている。これを出すことによってある人は賛同してくれるかもしれないし、こんなのは違うじゃないかとなるかもしれない」としつつも、「批判を恐れていては次に進めない」と強調。「まずは技術委員会で考えていることをしっかり提示して、そこから議論が生まれることをポジティブに捉えたい」と議論の活性化に期待した。

 『Japan's Way』は全8章構成。日本サッカーの基盤を担う「代表強化」「ユース育成」「指導者養成」「普及」の4つの柱をさらに強固なものとすべく、以下の項目に分けて記されている。完全版はJFA公式サイト(https://www.jfa.jp/news/00030069/)で公開されている。

①プロローグ〜なぜJapan`s Wayなのか〜
②フットボールカルチャーの創造
③望まれる選手像とは
④プレービジョン
⑤将来に向けた日本のユース育成
1.成長のキーステージ
2.エリートユースのあるべき姿
⑥フィジカルフィットネスの未来
⑦将来のサッカーコーチとは?
⑧フットボール・ファミリーの拡大

①プロローグ
 プロローグではJFAによる“2005年宣言”に記された「2050年までにW杯を日本で開催し、その大会で優勝チームとなる」という目標に向け、ナショナル・フットボール・ビジョンの必要性を指摘。サッカー先進国のプロファイリングに基づき、「W杯に手の届く国々に共通して言えることは、その国独自のスタイル、コピー&ペーストに頼らない独自のサッカー、および発展のプランを有しており、それに誇りを持っているという点です」と強調する。

 その中では「高い競争力を持つ国内コンペティション」「独自の育成フィロソフィーとユース代表チーム強化」「誰もが『サッカーの楽しさ』を教えてくれる指導者と出逢えるシステム」「多様性の受け入れと一体感の共存」「『あの人たちのやっている』から『みんなの』サッカーへ」といった細かい指針も示されている。

 また『Japan's Way』とはしながらも「日本サッカーはこれまで日本人だけでなく、海外の選手、指導者、帰化した方々などたくさんの先人の方々の努力によって発展してきました。今後はさらに様々なルーツを持った多様な方々によって発展をしていくことでしょう」と“日本人”にこだわらないあり方を展望。「そういう意味では『日本人』『日本人のサッカー』ではなく、“日本サッカー”を我々の主語にして語っていきたい」と示しつつ、「我々の『日本サッカー』そのものは多様性に満ちており、可変的なものであることを踏まえた上で、我々なりの夢への道筋(Japan's Way)を構築していくことが大切と考えています」と多様性への志向も記している。


②フットボールカルチャーの創造
 この章では「誰もがサッカーで幸せになれる」という普及面にも配慮したピラミッド図が示された。ピラミッドは単純な三角形ではなく、“強化”と“普及”が同居するグラスルーツやユースサッカーを土台としながらも、その後は生涯スポーツを追求するアマチュア方面と、勝利を追求しながら選ばれた場所でプレーするプロフェッショナル方面の2方向に分化する“ダブルピラミッド”構造。少年団から大学まで日本特有のパスウェイが存在することを踏まえ、この「日本型ダブルピラミッドを高めていくこと、一方が高まればその影響でもう一方も高まる」というシナジーを通じて「世界一サッカーで幸せな国を目指していく」としている。

 また「リーグと連盟のカップ戦とのリンクによる年間カレンダーの再構築」「カップ戦分散化による効率的カレンダーの構築」といった具体的なユース育成ゲーム環境プランも示され、「『家族を犠牲にして……』が美談だった時代にピリオドを打つためにも、これまでなかなか手をつけることのできなかった『オフも含めた最適なサッカーカレンダー』をみんなで再構築していく、まさにその時期に差し掛かっていると考えられます」とスケジュール改革の必要性も訴えている。


③望まれる選手像
 この章では未来のプレーヤーに必要な要素を「強度&質」とし、育成年代で育てるべき選手像を「自分の武器(個性:individuality)を持ち、様々な状況でチームのために生かすことが出来る選手」と提示。その上で「どこに行っても、いかなる監督、システム、戦術の中においても自身の強み、個性をチームのために発揮できる選手」「大人になっても使える能力を身につけている選手。特に個人戦術を大事にし、成長とともにグループ、チーム戦術を学んで欲しい」などといった要素を求めている。

 またゴールキーパー、サイドバック、センターバック、セントラルMF、攻撃的MF、ウイング、ストライカーに分けて、具体的な理想像を定義した点も注目ポイント。攻撃・攻→守・守備・守→攻の4局面における戦術、攻撃と守備での技術、メンタル、フィジカルに関し、求められる能力が詳細に記されている。その一方で「個々に示した選手像に関わらず多様なスタイルを認めてあげる」とし、多様性への配慮も盛り込まれた。


④プレービジョン
 JFAにおけるプレービジョンとは「現代日本サッカーの特徴、国際サッカーにおけるトレンド、そして未来を予測し、それぞれを融合させたプレー概念」のこと。「我々の『日本サッカー』そのものは近年益々多様性に満ちており、可変的なものであることを踏まえた上で我々のやり方を構築していくことが大切」だとし、「みんなが同じようなサッカーに傾倒するのではなく、あくまでも基準とされるべきものが“プレービジョン”であり、そこからそれぞれが多様性を持って発展していくべき」だと指摘する。

 プレービジョンに関しては「成功へと導いてくれるだけではなく魅力的で感動を伴うプレーの方向性」「日本サッカーが陥りやすいガラパゴス化へのチャレンジ」「『世界基準』から『世界トップクラス』への目標の転換」という3つのテーマを提示。攻撃、守備それぞれにおいてエリア別に求められる動きが具体的に記されている。その上で「世界に負けない個の強さを、ハードワークをベースにした組織力と重ね合わせ、世界のトップを目指すこと」と定義している。

 またサッカーの基本的な構造を記した「プレー原則」も明記され、攻撃においては「突破→サポート→幅&深さ→モビリティ→創造性」、守備においては「プレス→遅らせる→コンパクト→バランス→コントロール」という優先順位をそれぞれ設定。その二つをつなぐ切り替えの重要性も強調した。JFAは原則の策定にあたって「これまでとの違いは日本サッカーにおいて弱い部分と言われてきた守備における優先順位において、ボールを奪う事を目的とした『プレス』が一番上にきた事です」と説明している。


⑤将来に向けた日本のユース育成
 「1.成長のキーステージ」のページでは、始動期(5〜8歳)、成長期(9〜12歳)、挑戦期(13〜17歳)に分けて、その年代の特徴やフォーカスすべき点を指摘。「単純で挑戦してみたくなるような課題を与えて、達成感を味わわせる」(始動期)、「失敗を恐れず、ミスしてもまたチャレンジできる積極的な姿勢を促す」(成長期)、「自分の意見も言えて、相手の意見を聞ける能力をつけさせる」(挑戦期)などといった成果目標も詳細に記されている。

 「2.エリートユースのあるべき姿」のページでは、「真の意味でエリートとなる人材を育てていくことは、サッカー界として果たすべき使命」とした上で「2050年までに日本がW杯を掲げるために、さらなる競技力の向上が必要です。競技力の向上には数多くのエリート選手を意図的に育成するエリートユースの存在が極めて重要になります」と指摘。個別性、計画性、包括性、専門性、独自性という5つの特徴に配慮し、セーフガーディング、指導者育成プログラム、ゲームプログラムの3つの環境づくりをしていく必要性が示されている。


⑥フィジカルフィットネスの未来
 この章では「日本サッカーのフィジカルフィットネスは弱いのか?」という命題に対して「答えは[NO]です」という提示から始められている。

「『日本人はフィジカルが…』と耳にすることもよくあるが、体格やパワーといった一面だけを捉えていないでしょうか」とした上で、フィジカルフィットネスの構成要素として力強さ、持久力、体幹、瞬発力、すばしっこさ、身のこなし、バランス、スピード、粘り強さをそれぞれ提示。「足りないものは引き上げつつも、自分の武器となる要素にさらに磨きをかけることで、総合的に上回ることができるのです。そして、それぞれの身体的武器を持った選手がチームを形成し、多様な個性がチームに特長と変化をもたらしていくことになります」と記されている。

 そこでは「トップアスリートを目指す」ためだけでなく、「生涯サッカーを楽しむ」ためのフィジカルフィットネスプログラムの重要性も指摘。選手にはフィジカルリテラシーを高めること、指導者にはサイエンスリテラシーを高めることが求められ、「力強さを発揮し、繰り返すための動きづくり」と「当たり負けしないための体づくり」の両面が必要だとされている。


⑦将来のサッカーコーチとは?
 この章のテーマは「アジアを牽引し、さらにワールドクラスな指導者育成へ」がミッション。冒頭で「子どもたちは指導者を選ぶことは出来ません。最初に出会った指導者がライセンスを持って適切に指導してくれるかどうかは、選手の将来にとって非常に重要です。我々がW杯を掲げている時には、すべての子どもがライセンスを持った指導者のもとでサッカーの楽しさに触れられるようにしたい」とライセンス制度の重要性が指摘されている。

 一方、それぞれの指導者は「多様なパスウェイ」が必要だとされ、「日本全国どこでサッカーを始めたとしても、サッカーを楽しませてくれる素晴らしい指導者と出逢えるシステム」の構築を目指す。また「指導者のありたき姿」として「勝利だけを追い求める勝利至上主義には断固として反対します」「ダブルピラミッド(※上記②)におけるコーチングでは勝利を追い求めながら、人生を豊かに生きるために必要なことを高める事こそが真の勝利であると考えます」と記されている。

 加えてコーチの仕事やコーチングについての記述も。コーチングは「場の設定(オーガナイズ)」「投げ掛けの言葉、問い掛け」「働き掛け」で行われ、「これらに工夫を加えることによって、選手が自らの力で課題の解決法を見いだせるよう導く、引き出す」のが狙い。コーチングにあたっては「ゲーム→ゲーム分析・プレー分析→プランニング→トレーニング&コーチング」というサイクルを通じ、「選手にはまずプレーをたくさんしてもらい、トライ&エラーによってチャレンジングな姿勢を出してもらう。出てきた良いプレーは褒め、さらに励まし、ミスから学ぶ大切さを伝えよう」と記されている。


⑧フットボール・ファミリーの拡大
 最終章は「多様性をいだきこむ」がテーマ。サッカーは「多様なグループが真に楽しめるものであること」「多様な価値観、楽しみ方を、寛容に受け入れること」「能力に応じて楽しめるものであること」「安心・安全であること」「皆から応援されるものであること」と提示し、「『W杯を掲げる』そのためには『サッカーで世界一幸せな国』になり、サッカーが『日常』になっていることが不可欠です」と強調された。

 そこでは「『いままでしてきた人』『真剣にやる人』のためのものになりがちだったことはなかったか、それが知らず知らず排他的な雰囲気を生み出していなかったか、あらためて振り返る必要があります」という問題提起も明記。「夢の実現に向けては、私達自身から積極的によりオープンになっていき、多様性を受け入れ、これまでサッカーに触れてこなかった人も含め『する』『観る』『関わる』全ての人たちが気軽に入って来ることができるインクルーシブなサッカーファミリーになっていくことが望まれます」とした上で「『あの人たちがやっているサッカー』から『みんなのサッカー』になったとき、W杯を掲げるという夢も大きく近づいて来るはずです」と結論づけている。



(取材・文 竹内達也)

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