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ドン底から踏み出した一歩。前夜合流のU-19日本代表FW千葉寛汰が「自分の価値」示すダブルハットトリック!

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後半45分、U-19日本代表FW千葉寛汰(今治)が頭で6点目のゴール

[9.14 U20アジアカップ予選 U-19日本代表 9-0 U-19グアム代表 ラオス]

「この世代でNo.1のストライカーは自分だと思っている。最近はずっと代表に入ってなかったので、自分の価値をこの試合で見せるんだという強い意気込みで挑みました」

 U-19日本代表FW千葉寛汰(今治)は、並々ならぬ思いを胸に、「AFC U20アジアカップウズベキスタン2023予選」(ラオス)のU-19グアム代表戦のピッチに立っていた。日本を出発し、わずか2日後のことである。

 大会開幕直前にFW内藤大和(甲府)が負傷離脱することが決まり、急きょの招集だった。連絡を受けたのは日本にとっての第1戦が行われた12日のこと。「連絡が来て3時間後くらいには移動を開始していた」という強行日程で飛行機に飛び乗り、13日夜に宿舎へと到着した。

 この時点では「正直、スタメンとは思っていなかった」のも無理はない。ただ、冨樫剛一監督は「寛汰に聞いても『半分くらいの選手とはやったことがない』という話だった。寛汰を知ってもらう、寛汰を活かしていくというところで、ある程度(長く)使おうかなと思っていた」と振り返る。グアムとの力量差の大きさを思えば、攻守が激しく切り替わるような強度の高いゲームにならないことは明らかで、試運転の場としては十分という判断だった。

 実際に先発出場を告げられたのは当日のことで、驚きの思いは当然あったが、「チャンスはそういう難しい場面で来ることが多いと思うし、そういうところでやれなければ意味がない。チャンスを活かす準備も常にしてきていた」という思いを胸に試合に入った。

 さすがに立ち上がりこそスムーズにいかなかったが、「前半の飲水タイムに船越優蔵コーチから『動き過ぎるな。点を取ることにもっとフォーカスしていいぞ』と言われて、そこでゴール前のプレーに集中できた」ことがポジティブに作用する。

 まず30分にこぼれ球に反応する形で最初のゴール。「あそこに反応できるFWって、なんか泥臭い感じでかっこいいと思うし、そういうのが好き」と語る“千葉らしさ”を体現するような先制点で勢いに乗っていく。45分にはファーサイドへのクロスボールに対して中央のおいしいポジションを確保して折り返しをねじ込む、これまた点取り屋らしい一発を決めると、後半に入った11分には自ら奪ったPKを蹴り込んでハットトリックを完成させる。

 さらに終盤に入ってからも、交代出場してきた選手たちと巧みに絡んで41分、43分、45分と連続ゴールを沈めて、ダブルハットトリック。相手のレベルも当然あるが、ほかの選手が決定機を外す中でも研ぎ澄まされた集中力でゴールネットを揺らし続けたのは紛れもなく千葉の実力だった。

「本当にドン底だった」

 今季、ユースから昇格した清水では出場機会を得られず、ならば「代表でやってやろうと思っていた」という考えは、モーリスレベロトーナメントに臨むチームで選外になるという知らせで打ち砕かれた。そして「メンタル的に落ち込んでいた」という中で舞い込んだ今治からのオファーへ即座に飛び付いた。

「直感で『ここに行って人生を変えるんだ』と感じたので。他のチームからのオファーを待つとかはなく、すぐに決断しました」

 こうして今治へ移籍し、出場機会を得るようになった千葉のプレーを観るため、冨樫監督も「何度か足を運んだ」中で大枠のリスト入り。今回追加招集という形ながら代表復帰を果たすこととなった。

「今治に行って良かったという感覚はめちゃくちゃあります。試合にしっかり出て、毎試合、良いところと悪いところの振り返りをするのが成長する上で試合に出ることは必要なことだな、と。移籍は難しいなと感じたところもあるけれど、本当に色々なところで学ぶことが多かった」

 もちろん、今治でのプレーも、U-19日本代表復帰戦でのプレーも、まだまだ「ドン底」だった千葉の心を満たすほどではない。俺はもっとやれる。そういう思いも隠さない。

「こういうゲームでしたが、6点取れて自分の存在を大きく示せたと思うし、今日の結果によって、次のチャンスを得られたと思う。第一歩としては良かったし、ドン底から一歩だけ上がった感じもするので、ここから一番上まで駆け抜けたいと思っています」

 この世代で最も多くの点を取ってきた眠れるストライカーが目覚めを告げるダブルハットトリック。遅れてきた主役の檜舞台は、まだこの先に待っていそうだ。


(取材・文 川端暁彦)
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