勝てば決勝トーナメント進出が決まる大一番。相手は1年前の東京五輪で敗れたスペイン。力関係を考えれば難しい状況であるのは言うまでもないが、日本代表DF板倉滉(ボルシアMG)はあふれ出るモチベーションを熱く言葉にした。

「ネガティブになる要素がない。コスタリカに負けて敗退したわけではない。対スペインが残っていて、この最高の相手と1試合戦って予選突破できたら最高。もちろんコスタリカに勝って突破できたらベストだったかもしれないけど、この状況を招いたのは自分たち。逆にここでスペインを倒して上がればさらに盛り上がると思う。そういった意味でポジティブに捉えている」

　コスタリカ戦のショッキングな敗戦後にも、あえて「国民のみんなは下を向いているかもしれないけど、選手は次のスペイン戦に向かっている。心配しないでほしい」と日本の人々に呼びかけていた板倉。その思いはいまも変わらない。

「みんな前を向いてるし、雰囲気も全然悪くない。コスタリカに負けてみんな落ち込んでそうだけど、選手は落ち込んでいない。チャンスがあるわけなのでそこに向かうだけ」。そう力を込めた板倉は「この状況でスペインを倒していけたらさらに盛り上がるし、日本としても勢いがつくので、最高の状態でスペイン戦ができる」と言い切った。

　昨年夏の東京五輪準決勝を経験しているからこそ、スペインの強さは分かっている。それでも「ゼロで抑えたい思いがあるし、ドイツ戦では1失点してしまったけど、ちゃんと守っていれば間違いなくチャンスはある。チャンスが来たときにゼロで推移できている状況を作りたい」と自らが立ちはだかることにより、勝機をうかがうビジョンはできている。

　その胸中には1年前にメダルを逃した現実。「いまでも五輪で負けた時の悔しさは残っているし、その悔しさを忘れずにやってきた。素晴らしい舞台でスペインと対戦できるのはいいストーリー。まさかここで当たるかという感じだけど、ここで借りを返したい思いがある」とリベンジへの闘志を燃やす。

　ここまでドイツ戦、コスタリカ戦にフル出場。初のW杯で堂々のパフォーマンスを見せている。

「W杯は素晴らしい舞台だと感じるし、緊張感とか雰囲気は初めてだったけど、ものすごくパワーがある。カタールにいて日本の状況はわからないけど、盛り上がっていると聞いている。僕自身も4年前はファンとして見ていたので盛り上がりは覚えているし、ピッチに立てているのは嬉しいけど、すごく責任がわいている。僕たちの力でみんなを喜ばせたい思いがあるし、日本を背負ってここに来ているので、次の1試合で帰るわけにはいかないなという思いがある」

　言葉の端々に熱気が宿るが、プレー中は冷静さも光る。「意識しているのはいつも通りやること。W杯だからと新しく何かができるわけではないので、今までやってきたものをいつもどおりのメンタリティーで出すことを意識してやっている」。自身のパフォーマンスにも満足せず、「もっともっとやらないといけないし、できるなという自信もある」とさらに上を見据えている。

　そんな思いを持って挑んでいるこの大会、次の試合はこれまでの2試合以上に重要な意味を持つ。ある選手は「次が最後の試合になるかもしれない」と覚悟を語っていたが、板倉は「いやいやいや、最後にできないですよ」と報道陣の質問を制し、その先を見据えて言葉を続けた。

「思い切ってやるだけ。勝てば(決勝トーナメントに)行けるので、その状況がラスト1試合残して整っていることをポジティブに捉えていい。そのタイミングでスペイン相手にできるというのは、勝ち上がることを想定するとすごくいい勢いになる」。大会の生死を分ける強敵スペイン戦。板倉滉は誰よりも熱い思いをたぎらせ、堂々と勝ちに行くつもりだ。

(取材・文　竹内達也)

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