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PK論争は「ナンセンス」 浅野拓磨がW杯で痛感した本当の“壁”「これをあと6試合やるのか…」

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インタビューに応じる日本代表FW浅野拓磨

 日本代表はカタールW杯のグループリーグでドイツ、スペインという優勝経験国を逆転で破り、2大会連続の決勝トーナメント進出を果たした。しかし、史上初の8強入りを懸けたクロアチア戦はPK戦の末、惜敗。明暗を分けたPKをめぐってはさまざまな意見が飛び交い、メディアやファンの間でも議論を呼んだ。

 ドイツ戦で決勝ゴールを決め、クロアチア戦のPK戦でも日本で唯一、PKを成功させたFW浅野拓磨(ボーフム)は自身初のW杯で何を感じ、今、何を考えているのか。ゲキサカが直撃インタビューした。

―クロアチア戦の3日後にはボーフムの練習に合流していましたが、一度ドイツに戻るのは予定どおりだったんですか?
「そうですね。W杯に行く前から監督には『どのタイミングで終わるかは分からないけど、早めに終わった場合はチームに合流するように』と言われていました。ケガをしていたため、新しい監督の下でまだ試合に出たことがなかったので、この期間に練習試合があるから、そこで2試合ぐらいプレーしてからオフに入ってほしいと言われていました」

―実際に練習試合も2試合出場したんですか?
「結局、1試合だけでしたね。僕の疲労や体調の面を加味してくれて、1週間ぐらいチームとトレーニングして、練習試合も1試合だけ出て、日本に戻ってきました」

―W杯ではドイツ戦でゴールを決め、チームも勝ったわけですが、現地での反応というのはいかがでしたか?
「ドイツの一般の方と触れ合う機会はあまりなかったので、そこは分からないですけど、チームメイトや監督、スタッフからは祝福の言葉をいただきました。『俺らからしたら残念だけど』という声もかけられましたが、みんな喜んでくれましたね」

―「ドイツキラー」と呼ばれたというのは本当ですか?
「そうですね。チームメイトからも『ジャーマンキラー』『ジャーマンキラー』と言われました。練習中、僕が何かをするたびに『ジャーマンキラー』と言われるので、ちょっと鬱陶しかったですね(笑)」


―その後、日本に帰国して、日本での反響はいかがでしたか?
「会う人、会う人から『感動をありがとう』という言葉をたくさんいただきました。僕からしたら『みなさんにありがとう』という気持ちなんですが、やっぱりW杯ってすごいんだなと感じますし、僕たちはだれ一人満足していないですけど、日本代表がやってきたことで何か証明できたものもあったのかなと思います。僕自身、W杯が終わって悔しさしか残っていなかったので、少し複雑な気持ちにもなりますけど、みんなにそうやって声をかけていただくことはうれしいですし、ここからもっともっと頑張りたいなと思います」

―浅野選手を含め、いろんな選手が積極的にテレビ出演していましたが、どんな思いがあったのですか?
「選手がだれか言っていましたが、キャプテン(吉田麻也)から『どんどんメディアに出よう』という声がけはチーム内でもありました。もちろん、僕自身もW杯に出た僕たちだからこそ、今やるべきこと、やれることはたくさんあると感じていました。メディアに出て、自分の名前やサッカーを知ってもらうというのは大切なことですし、W杯でみんなに応援してもらって、サッカーを応援してくださるみなさんの前に自分が立ってやれることがあるならしっかりやっていこうと思っています」

―クロアチア戦のPK戦に関して、選手による挙手制は良かったのか、あるいはもっとPKの練習をしたほうがいいのではないかなど、さまざまな意見がありました。こうしたPK論争について、一人の選手としてどう思いますか?
「周りの方が何を言うかは自由だと思いますし、それに対していちいち反応していたら、僕たちは何のためにプレーしているのか分からなくなってしまうと思います。そうした声に対して何か言えることがあるとすれば、PKの練習はみんなしていましたし、PK戦になることもシミュレーションして毎日、練習していましたし、練習ではみんな決めていたということだけですね。ですので、そういうことを言うのは選手からしたらナンセンスだなと思います。ただ、そうやって声をあげてくださることが、サッカーを注目してもらうことにもつながると思うので、どんどんそういう意見を言ってもらって、そういう意見を交わしたうえでサッカーを見てもらえたらいいなと思いますね。僕たちが結果を残せば、いろんな声をかけてくださると思いますし、僕たちは僕たちがやるべきことに集中するだけかなと思います。逆に僕はPKの練習をしていなかったので(笑)」

―クロアチア戦の前日も蹴っていなかったんですか?
「前日はチーム全員でPK練習をやろうと言っていたので蹴りましたけど、その練習がつながったかと言われると、そうは思っていないですね。僕はPKの練習は意味がないと思っているタイプなので(笑)」

―チームとしてPK練習をやったときは蹴ったけど、個人ではやらなかったということですね。
「チームとしては前日しか(PK練習を)やらなかったと思いますが、他の選手は前日だけでなく、毎日、PKの練習をしていました。だからそういう声に対して言えるのは、僕はしてなかったですが、PKを決めましたよということぐらいですね」

―挙手制でキッカーを決めたということでしたが、浅野選手は3番手でしたね。
「あの試合、自分のパフォーマンスは散々だったなと思っていて、正直、PKは蹴りたくなかったんですが、挙手制でなかなかみんなが手を挙げない中、1番目、2番目が決まって、3番目にだれが蹴るかというときに、ここで手を挙げなかったら、今すでに失うものがない自分なのにさらに何かを失う気がすると思って、覚悟を決めて手を挙げました。ここで蹴ることに何か意味があると自分の中で感じて、手を挙げました」


―ロシアW杯は最後の最後で落選し、バックアップメンバーとして帯同した浅野選手のドイツ戦に懸ける思いは並々ならぬものがあったと思います。
「自分の感覚の話になってしまいますが、(ロシアW杯以降の)4年半かけて準備してきたものをドイツ戦、W杯の初戦という1試合にすべてを出し切る覚悟でやっていました。それを終えたあとに、今度はコスタリカ戦までの中3日でできることをやるという準備の感覚は、ドイツ戦とはちょっと違っていたのかもしれません。W杯に出る、その1試合目でプレーするということをこの4年半どれだけ想像してきたか。本当にそれだけを考えて、それしか考えていなかったんだなと。今、思い返すと、そういう感覚だったのかもしれないですね」

―それだけの決意、準備がドイツ戦の結果にもつながったんだと思います。今後はあの試合のような準備とパフォーマンスをどれだけコンスタントに継続的に出していけるかが次のステップになるのでしょうか。
「絶対にそこはマストになってくると思います。僕もそれを肌で感じられたのは今回が初めてでした。前回のW杯はバックアップメンバーとして帯同しましたが、W杯というものを経験していないという自覚はあって、ピッチに立ったときに何を感じるかでW杯というものが分かると思うし、それが今大会で分かった気がしました。ドイツ戦が終わったあとに、本当に『これをあと6試合続けないといけないのか』と感じて、もちろん優勝を本気で目指していたし、それができると思っていたけど、『これを6試合、7試合やらないと優勝できないのか』という感覚は初めての経験でした。その心の準備というのはW杯に出ないと分からないことですし、次の世代がどうとか言っている場合ではなく、W杯を目指している全員がその覚悟を持たないといけないんだと思います」

―そうした経験も踏まえ、3年半後のW杯に向けて、今はどのように考えていますか。
「言葉だけではなかなか伝わらないかもしれませんが、本当に僕はカタールW杯に懸けられるものはすべて懸けて、準備して、やれることをやったうえで、あのパフォーマンスでした。でも、あれが自分の実力なんだと分かって、このW杯が終わったら自分はどう感じるんだろうと始まる前から思っていたんですが、実際に終えた今、悔しさしか残っていないというのがすべてかなと思います。僕の性格上、悔しさが残っていればやめることはないので、この悔しさを力にと言うと、ありきたりな言葉になりますが、次のW杯に向かっていきたいなと思っています。よく悔しさを晴らすと言いますが、悔しさは晴れないので。W杯に出たからといってロシアW杯に行けなかった悔しさは晴れていないですが、そうした悔しさが全部積み重なって今があるんだと思っています。次のW杯は約3年半後ですけど、そのとき自分がどうなっているかを想像しながら、ここからまた1日1日、準備していきたいなと思います」


(取材・文 西山紘平)

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