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「選手たちは意図をよく理解していた」U-20日本代表は最悪のスタートから辛勝、得られた経験と“最優先”の勝ち点3

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U-20日本代表は初戦で白星スタート

 3日、AFC U20アジアカップのグループD第1節が行われ、U-20日本代表はU-20中国代表と対戦。開始早々に1点を奪われる「想定していた中での最悪」(冨樫剛一監督)の展開ながら、後半にFW熊田直紀(FC東京)の2得点で逆転勝利を飾った。

 大苦戦となったが、想定内ではあった。予選独特の「負けたら終わり」の雰囲気の中で味わう重圧も、普段と異なる環境も、日本の選手にとって簡単に対処できるものではない。

 過去の大会を振り返ってみても、そうした傾向は明らかだ。2014年大会では同じ中国相手に開始1分でPKから失点する痛恨の立ち上がり。エースFW南野拓実のゴールで追い付いたものの、結局後半にセットプレーから失点しての敗退という最悪の試合を演じている。2016年大会ではイエメン相手に3-0の勝利だったが、後半にFW小川航基が先制点を奪うまでは最悪の試合内容だった。2018年大会も北朝鮮を相手に2点を先行しながら前半のうちに追い付かれるバタバタの試合展開で、後半にMF久保建英の勝ち越し点が決まって最後は5-2の大勝となったものの、本来のチームパフォーマンスは出せなかった。

 ただ、大会前から冨樫監督が「そういうのもまた経験だから」と強調していたように、悪い内容の試合なら悪い内容なりに結果を積み上げていくのも日の丸を背負って戦う選手たちへ常に課せられるテーマである。最初のセットプレーでいきなり失点するという最悪のスタートとなったこの試合も、問われたのはそうした意味での強さであり、逞しさだった。

「リーグ戦なので勝点3が大事」と言い切ったのはMF松木玖生(FC東京)。頼れる主将は、試合前に「点を取られることもあるけど、焦る必要はない」と既に共有していたと言う。開始から圧力に押し切られる形でCKを奪われて開始6分に決められるという最悪の立ち上がりだったが、「最悪のシナリオも想定していた」と言う冨樫監督にも慌てた様子はなかった。

「0-1なら大丈夫と思っていたし、最悪でも追い付いて勝点1は取れると思っていた。ただ、0-2になってしまっては難しくなる。リスクマネジメントをしながら戦うことが重要だった」(冨樫監督)

 ビハインドになったと言っても、時間は十分に残っている。チーム力で見劣りするとも思っていない。であれば、我慢強くボールを動かしながら攻めていくのみ。意思統一はできており、コンパクトなブロックを自陣に敷いて守る中国に対し、サイド攻撃を中心に攻勢を継続した。

 その上で、ハーフタイムでの修正は全体的なスピードアップと、サイドの深い位置に入ってから戻し、斜めに入れる攻撃を使うこと。

「相手は1点のリードを守りたい意識が強くなっていた。後ろにスペースはないのでパススピードを上げて1回奥に入りながら、戻した状態から斜めのボールだったり、斜めのランニングで、空間を縦にずらすようなボールの動かし方を意識させた。DF田中隼人などCBのところからのボールを使って、(交代出場の)永長鷹虎の辺りを使う。選手たちは指示の意図をよく理解してやってくれた」(冨樫監督)

 交代出場で左サイドに入ったMF佐野航大(ファジアーノ岡山)のクロスからの2アシストで熊田の2ゴールが生まれたのも偶然ではなかった。相手の守備を出し抜くための仕掛けを使っていたからこそ生まれたゴールである。

 リードを奪ってからは無理せず試合を運ぶことを重視。どうしても気持ち良く攻め勝ちたくなる展開だったが、指揮官は試合途中で松木主将にその旨を伝えてあらためて意思統一を図ったと言う。大事な初戦でこだわるのは、あくまで「勝点3」である。

 苦しい流れを引き戻しながらの2-1の勝利。シュート数25対4、ボール支配率は77対23と圧倒的だったが、それでも苦しくなるのがプレッシャーとの戦いでもある予選の難しさ。そしてだからこそ、それを乗り越えられたのはチームにとっても大きな財産になる。

 ただ、「こういう流れだと、次の試合が危ないのもわかっている」と指揮官は勝って兜の緒を締め直す。キルギスはグループ内でも最も知名度の低いチームだが、サウジアラビアとの初戦は競り合っての0-1敗戦で、決して弱い相手ではない。冨樫監督も「次が大事になる」と強調するのを忘れなかった。

(取材・文 川端暁彦)
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