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「苦しかった…」 めげない大宮FW富山の約2年5か月ぶり弾が決勝点

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[9.23 J2第33節 東京V0-1大宮 味スタ]

 「苦しかった」。決勝点を決めた大宮アルディージャのFW富山貴光はそう繰り返した。矢板中央高、そして早稲田大でエースとして君臨し続けてきたストライカー。2013年に期待を背負って大宮へ入団するも、思うような活躍はできず。初年度は26戦3発に終わり、2年目の2014年は15戦0得点。背番号9となった今季は、ここまで6戦0得点だった。

 しかし、この日の東京V戦。途中出場で12試合ぶりにピッチへ立つと、2013年5月6日のJリーグ第10節・広島戦(2-1)以来、実に870日ぶりのゴール。富山の一撃が決勝点となり、チームは5戦ぶりの白星を手に入れた。

 0-0で迎えた後半12分、富山は途中出場でピッチへ立った。大宮の渋谷洋樹監督は「トミが入った時間帯は連戦の影響もあったと思うし、相手もラインをアップできていない状況だった。そこで1.5列目でスペースも空いていたので、ボールを収めるのと背後を狙って裏へ飛び出す動きを彼に対して求めた」という。

 すると、値千金のゴールは後半41分に生まれる。「ここでパスがくればというところでいつも出てこなくて、クソっと思っていたので。ちょっとドリブルしてみようと」とSB片岡洋介がPA右で突破。相手2人の間を割るパスを送った。

「洋介さんが粘って粘って、最後にやさしいパスをくれて。相手が食いついていたので、切り返して打とうと。コースは気にせずに思い切り打ちました」

 富山は冷静にDF井林章をかわすと、切り返しから豪快に左足を一閃。シュートはゴールネットを揺らした。これが決勝点となり、大宮は1-0の勝利を飾った。

 試合後、富山は安堵の表情を浮かべ、「いろいろあった3年間でした」とプロ入りから今日に至るまでに思いを馳せた。「(大宮に)入ったときは首位で、その後には8連敗が2回続いて、J2にも落ちて……本当にサッカー以外にもいろいろ学ぶことに多い時間だった。苦しい時間が続きましたけど、今日こうやって点が取れて、それが勝利につながって、本当に良かったと思います」と微笑んだ。

 出番のない日々に打ちのめされそうだった。今季は第21節の長崎戦(1-0)で9戦ぶりに途中出場するも、その後は出場機会は与えられなかった。直近の3試合ではメンバー外。つぶれそうな思いを何度も味わいながら、シュート練習だけは欠かさずに続けていたという。

 そして、0-0で迎えたこの日の後半12分にようやくチャンスは巡ってくる。「なかなか出番がない中で自分に出番が来たら、絶対に決めてやろうと思っていた」という24歳のストライカーは仕事を果たした。「ずっとシュート練習だけは欠かさずやっていたので。結果が出て本当に良かった」。

 指揮官は殊勲のFWを「久しぶりのゲームだったがしっかりとプレーできて得点まで取ってくれているというのは、普段のトレーニングの成果が出たんじゃないか」と労った。

 ようやく手にした今季初ゴール。しかし富山は浮かれることなく冷静に先を見つめた。今季も残るは9試合。試合数の半分以上は得点が取りたいと意気込む。「途中から出ようが、どんなに時間が短かろうが、1点1点を積み重ねていきたい」。静かに、力強く、富山は誓った。

(取材・文 片岡涼)

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