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22歳は若くない…川崎F原川「ここでポジションを奪えば、さらなる高みが見える」

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 下部組織から育った京都を離れ、川崎フロンターレに新天地を求めたU-23日本代表MF原川力。1月に行われたAFC U-23選手権(リオデジャネイロ五輪アジア最終予選)準決勝イラク戦の後半アディショナルタイムに決勝ゴールを奪って一躍時の人となったが、本人の視線は前だけを向く。リオ五輪本大会に出場するためにも、まずは川崎Fで“壁”を打ち破ろうと燃えている。

バチバチさせたがるけど
まずは僚太くんに聞く


――下部組織から育った京都を離れ、川崎Fに移籍を決断した理由を教えて下さい。
「U-23日本代表の石垣島キャンプ(15年12月下旬)前に移籍を決断したのですが、自分がやりたいサッカーの基盤がここにあると思いました。川崎は攻撃に特化していて、パスをつなぐイメージがあり、それをずっと貫いているという部分に魅力を感じました」

――京都では下部組織から育っただけでなく、昨季は背番号10を背負いました。京都をJ1に上げたいという思いもあったと思います。
「昨季は個人的に何もできなかったので、良い一年ではありませんでしたね。もちろん下部組織から育ててもらった京都への思いはありますが、22歳を迎えて『若い』とは言ってられない年齢となり、今年は五輪もある中で、もっと速いスピードで成長しないといけないと感じた。あと、現実的にJ2からA代表は見えてこないと思うので、先まで見据えるとJ1のクラブで成長したいと考えました」

――14年に愛媛に期限付き移籍した際は出場機会を増やすという意味もあったと思いますが、今回の移籍の意味合いは少し違うと。
「そんなに変わらないですよ。一日一日が勝負だし、それは京都でも愛媛でも、そして川崎でも変わらないと思います。ただ、他のチームと比べて川崎の中盤には良い選手が多く、毎日シビアな状況で練習ができているし、そういう状況を求めて移籍してきたので、そういった意味では練習の中でも、もっと成長できると感じています」

――ボランチで出場するにはMF中村憲剛選手やMF大島僚太選手に挑み、ポジションを勝ち取らなければいけません。
「ホンマに毎日が勝負ですが、厳しい状況でプレッシャーが掛かっているからこそ成長できるはずだし、もう少し時間が経てば自分の特長も出しやすくなると思っています。周囲は僚太くんとのポジション争いでバチバチさせたがりますが(笑)、分からないことがあればまずは僚太くんに聞くし、何かあれば話し合うというのはU-23代表のときと変わりません」

――ポジションを奪うために、どういうプレーを見せていきたいですか。
「ボランチにもパスで組み立てる選手、ドリブルで持ち運べる選手などさまざまなタイプがいます。僕はドンドン前に行ける部分やドリブル、シュートで違いを見せていかないといけないと感じています。より結果が大事になると思うので、数字の部分はこだわっていきたいですね」

――開幕戦では出場機会に恵まれませんでした。
「川崎は他のチームとテンポが違うので慣れるのにしんどい部分もありましたが、プレーしていて馴染んできた感覚はあります。焦りが生まれて不安になることもあるし、危機感もあったけど、そこまでトントンとうまくいくとも思ってないので、少しずつ前に進むだけです。出場機会を与えられたときに何ができるかが大事だと思うので、自分の特長を試合で出せるように、焦り過ぎずに自分をコントロールしながら、ホンマにやり続けるしかないと思っています」

“あのゴール”での満足感はない
90分間で何ができるかが大事


――1月に行われたAFC U-23選手権では見事に優勝を果たし、リオ五輪出場権も獲得しました。
「個人的にもアジアの大会でベスト8を越えたことがなかったので、そこを乗り越えたこと、そしてチャンピオンになれたことは、僕にとってもチームにとっても一つの自信になりました。ただアジアチャンピオンの看板を背負うことで周りの目も厳しくなるでしょうから、川崎でのプレーが重要になるし、さらに成長しないといけません」

――手倉森ジャパン発足当初から、「アジアチャンピオンになる」とずっと話していましたが、あそこまで劇的な展開で優勝できると思っていましたか。
「初戦に勝てたことで吹っ切れた部分があったので、北朝鮮戦の勝利が一番大きかった。個人的に試合に勝つイメージをしていましたが、どこかで負けたらどうしようという不安な自分もいたので。そういう中でも初戦を勝てたからこそ、トントンと行けたのかなと感じます。ただ、あの展開は予想できなかったですね」

――準決勝イラク戦では後半アディショナルタイムに原川選手が決勝ゴールを奪い、リオ五輪出場が決まりました。
「正直、点を取るイメージは試合前にあまりなかったし、何かが懸かった試合の中で点を取る経験はなかなかできないので、本当にうれしかったですね。ただ、自分のプレーが90分間良くて、あのゴールを取っていたら少しは満足感があったでしょうが、90分間何もできない中で奪った1点でした。ボランチは90分間で何ができるかだと思うし、90分間のプレーが良くなくて1点取ればいいという考えはあまり好きではありません。自分としてはボランチの仕事をパーフェクトにこなしたかった」

――日本に帰って来てからの反響もあったと思います。
「日本に帰って来て、あのゴールのことをよく言われますが、僕自身はあまり成し遂げたものの大きさが入ってきません。自分のゴールでリオ五輪が決まったという感覚もないですし。自分で決めたゴールなので、もちろんそれを五輪につなげていかないといけませんが、霜田(正浩技術委員長)さんも「成功は一瞬で忘れるのが美しい」というようなことを言っていたので、そのとおりだと思うし、次に向けてやっていかないといけないと思っています」

――準備段階で結果を残せなかったことで、周囲から厳しい評価を受けてきた代表でした。
「(手倉森誠)監督も言っていましたが、本番で結果を残せばいいというスタンスでしたし、そこは選手たちも理解しながら、皆が『絶対に勝つ』という気持ちを持てたのも大きかった」

――予選の間、「一体感」という言葉を何度も聞きました。
「ホンマに選手同士の仲が良かったですし、選手が皆、監督の信頼に応えたいという気持ちが強かったと思います。ターンオーバーを採用する中でも、監督は起用の意図を一つひとつしっかりと伝えてくれたので、たとえベンチスタートでも受け入れられたし、試合に出たときには『やってやろう』という気持ちになれた。選手と監督にそういう関係があったし、チームとスタッフも良い関係を築けたと思います」

――今履いているスパイクはリオ五輪出場を決めたゴールを奪ったハイパーヴェノムです。履き心地はいかがでしょうか。
「僕はくるぶし周りから足先まで包まれているスパイクが好きなんですが、このスパイクは足首周りがホールドされているので、すごくプレーしやすいですね。抱擁感があって履いている感じが伝わるので、トラップのときに一番良さを感じます。僕は白色が似合わないので、今履いているゴールドのような派手なものの方がありがたいですね」

――新しいチームでスタートを切り、夏にはリオ五輪が控えています。
「もっとうまくなるために川崎に来たからには、プレーの幅を広げて自分の特長を磨いていきたい。川崎でポジションを奪うことができれば、もっと高いところが見えてくると思っています。もちろん五輪には出場したいですが、まずはここでポジションを勝ち取らなければ何も始まらないし、前に進まないので、多少時間がかかろうとも必ずその壁を打ち破りたいと思います」

(取材・文 折戸岳彦)

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