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鈴木武蔵と荒野拓馬がピッチ外で取り組む社会問題、広がるレスキューの輪

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Zoomで取材に応じた荒野拓馬鈴木武蔵

 新型コロナウイルスの影響による中断からJリーグが再開して1か月が経った。選手たちはピッチで本来の姿を見せてサポーターやファンを喜ばせているが、外出自粛を余儀なくされていた今春、サッカー選手はSNSを活用してトレーニング動画を公開したり、音声サービスで思いを伝えたりするなど、これまで以上に発信の機会を増やしていた。

 北海道コンサドーレ札幌の荒野拓馬が中心となって活動しているのが「RESCURE HERO」だ。サイトに行ってみると、北海道から九州まで各地の特産食品が販売されている。サッカー選手がなぜ食品の販売をしているのか? そこに込められた思いとは――?


続々賛同する食品ロスへの取り組み


 コロナ禍より以前から食品ロスは深刻な問題となっている。消費者庁のホームページよると、食品ロス=まだ食べられるのに廃棄される食品の量は、なんと年間612万トン(平成29年度)。国民一人当たり、お茶腕1杯分の食品が毎日捨てられている計算になるという。

 しかし、食は身近な話題ではあるが食品ロスは遠い存在で、食品ロスをはっきりと意識している人は決して多くない。荒野もその一人だったというが、あることがきっかけでその問題と向き合いはじめた。

「コロナの影響でJリーグが中断になったときに、自分たちは試合がないとあまりすることがないんだなと率直に感じました。(鈴木)武蔵が代表を務めるNPO法人の活動として児童養護施設を訪問したり、菅野(孝憲)選手が高齢者施設を訪問したりしている中で、自分は何ができるのかと考えたときに、農業に興味があったので、農家の方を訪ねました」

 いざ農場に足を運んだ荒野は、生産者の悩みに驚きを隠せなかった。

「最初は人手不足の役に立ちたいと思っていたのですが、『人手不足より食品ロスの問題のほうが深刻だ』と農家の方たちから話を聞き、そこから自分なりに調べるようになりました」

 こうして4月25日、「FOOD RESCURE HERO」を起ち上げた。最初に発売したのが北海道産の素材でつくられた幸せのアップルパイは、数日で完売となり生産者からの言葉は荒野にささった。「廃棄するはずだった商品がいろいろな人の手に届けることができて感謝しています」。そのときを回想し、「困っている人をレスキューできたことは嬉しかったですし、自分の中で大きな出来事でした」と表情を緩ませた。

 翌5月には北海道の商品だけでなく、範囲を全国に広げて「RESCURE HERO」と名前を改めた。「北海道に限らず、全国にも同じように困っている生産者の方はいる。僕たちの活動に賛同してくれた選手も参加を表明してくれています」。ホームページを見ると、北海道、東北、中部、関東、九州・沖縄と各地域のクラブに所属するJリーガーが名を連ねている。そして各地域にはコールリーダーが存在し、北海道の荒野を筆頭に、蜂須賀孝治(仙台)、鈴木雄斗(松本)、宇賀神友弥(浦和)、福田晃斗(湘南)、高丘陽平(鳥栖)、上里一将(琉球)がそれぞれ務めている。

「RESCURE HERO」では、出品価格の10%を社会貢献活動費に充てていくことを明言。必要経費を引いた残りの金額は生産者に支払われる。一方で、選手たちは無償でこの活動に取り組んでいて、「フードだけでなく、震災などに対する人道的なレスキューも含めてやっていきたいと思っています」とさらに活動の場を広げていくことを荒野は力強く語った。

25名のJリーガーが参加している「RESCUE HERO」


地域貢献と弱者救済のために


「RESCURE HERO」の活動は、昨年鈴木武蔵が起ち上げたNPO法人「Hokkaido Dream」のひとつの活動として行われており、メンバーには、鈴木、荒野、菅野、石川直樹、菅大輝、深井一希と札幌所属の選手が名を連ねている。児童養護施設や高齢者施設を訪問したり、コロナ禍以前の昨年12月28日には、サッカー教室「MUSASHI CUP」を開催。児童養護施設の子どもたちを招待するなど、北海道を中心に精力的に社会貢献活動を行っている団体だ。

「普段多くの応援をいただいている中で、現役選手のうちに世の中の役に立つ活動をしたいと思いました。いまは現役のうちにサッカー以外の活動をしている選手が増えてきています。『現役選手としてどうあるべきか?』ということについて、昨年考える時間が多くて、いましかできないことをやらないと後悔すると思いました」

 鈴木にNPO法人設立を決意させたのは、北海道への貢献と、社会的弱者の救済という強い思いだ。

「応援していただいている地域の方に恩返しをしたいという思いがひとつあります。イジメや差別、虐待を受けている子どもたちが大勢いる中で、発信力のある僕らのような人たちが、『1人じゃないんだよ』と伝えていきたいという思いもあります。若い世代の自殺率が高い日本で、1人でも減らしていきたい。つらい思いは、みんなで共有することが必要だと思っています」

 U-19日本代表時代からともにプレーしていた同級生の鈴木と荒野。「世代別代表のときから拓馬とは顔なじみでしたし、札幌に移籍してきたらロッカーもとなりで(笑)」と鈴木は笑みをこぼす。2019シーズンに鈴木が札幌に移籍したことで、はじめて同クラブに籍を置くことになった。そんな旧友の鈴木がはじめた活動に、荒野の抱いていた思いが合致する。

「僕も片親ですし、プロになって北海道に恩返しできるような活動をしたいと考えていました。武蔵がNPOを起ち上げて、自分の思いや経験を一緒に形にしていきたいと思うまでに時間はかかりませんでした。本当は僕たちがレスキューをしなくてもいい世の中が望ましいですけど、いま困っている人たちをレスキューできる団体になればいいなと思っています」

「Hokkaido Dream」の活動は、確実に大きな広がりを見せている。

(取材・文 奥山典幸)
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