“全く興味がない世界”で起きた転機…J史上初の女性レフェリー山下良美氏「常に日々成長していきたい」
Jリーグ史上初の女性主審として、16日のJ3第8節・YS横浜対宮崎を担当した山下良美主審が17日、日本サッカー協会(JFA)主催のオンライン会見に出席した。Jデビューから一夜明け、「今後もこの機会が続いていき、女性審判員が男性の試合を担当するということが当たり前になっていくことが私が目標としていくべきところ」と強く決意を語った。
今季からJリーグの審判員として登録されている山下氏は16日、ニッパツ三ツ沢球技場で行われたYS横浜対宮崎を担当。これまでも昨季のJFLや、ACLの下部大会にあたるAFCカップなど男子の国際試合も裁いてきたが、Jリーグでは史上初の快挙となった。
試合前は「大きな責任を感じていた」という山下氏。それでも「試合が始まってからはそんなことを考える暇もなかった」といい、素早い判断とコミュニケーションを駆使し、イエローカード1枚にとどまるクリーンな試合を支えた。
山下氏は会見で両チームの振る舞いを問われて「両チームの選手ともプレーに集中していて、私自身がストレスが溜まるシーンもなかったし、とてもフェアにプレーしてくれていた」と選手たちに感謝。そのうえで「とくにこれが難しいというシーンはなかった。いつもこれが難しかったというシーンはないので、昨日の試合も同じように感じていましたが、一番難しかったのはコイントスですね(笑)」と笑顔で振り返った。
幼稚園の時に兄の影響でサッカーを始め、選手としてプレーを続けていた山下氏が審判活動を始めたのは東京学芸大の在学時。大学の先輩で、現在は国際審判員を務める坊薗真琴副審からの誘いでトライしたという。
「審判員として活動していなかったときは審判が目に入っておらず、言ってみれば全く興味がない世界でした。一緒に試合をしているのに全然見えていない存在で、最初は無理矢理やらされたといいますか、最初の試合に関しては全然気が進まなかったんですが、まず1試合やればいいやという気持ちでした」。
当初は乗り気ではなかったという山下氏。しかし「最初の笛を吹いて、時間を測って、最後の笛を吹くだけ」という心持ちで臨んだ初戦が転機となった。次第に「1試合ごとに『もっとこうしないといけない』というのが出てきて、それがここまで積み重なってきた」と向上心をかき立てられたのだという。
その後も選手と並行して活動を続けていたが、なでしこリーグ副審を担当できる女子2級を取得した際に「女子トップリーグに関係することができるという責任の重さを感じ、2級になるのであれば審判に向き合わないといけないという気持ちが芽生えた」。そこから本格的にトップ審判の道に進む決意を固め、2012年に女子1級の資格を取得した。
そんな山下氏にとって、審判生活で印象に残っている試合は2015年12月27日の第37回皇后杯決勝だという。アルビレックス新潟レディース対INAC神戸レオネッサが対戦し、I神戸が現役ラストマッチとなったMF澤穂希の決勝ゴールで5度目の頂点に立った記憶に残る一戦。等々力陸上競技場に20,379人を集めたビッグマッチで笛を吹いた山下氏は次のように振り返った。
「とてもたくさんの観客の方が見にきてくださり、その後も反響があり、女子サッカーの力を感じた。フィールドに立って周りを見回すときに女子サッカーってこれだけの注目を集められるんだな、人の心を集められるんだなということを感じたのでとても印象に残っている」。
同年には国際審判員としても登録された山下氏はその後、16年に初の世界大会としてU-17女子ワールドカップを担当。18年にAFC女子アジアカップ(ヨルダン)とU-17女子ワールドカップ(ウルグアイ)のピッチに立つと、19年にはフランス女子W杯にも参加し、決勝トーナメント1回戦でも笛を吹いた。
また19年にはAFCカップ(ACLの下部大会)のグループステージで笛を吹き、アジアで初めて女性主審が男子の国際大会を担当。そして同年末、男子社会人の試合を担当することができる1級審判員に認定された。
もっとも山下氏は「男性の試合をやっていこう、女性の試合をやっていこうと考えたことは今までなかった」という。
試合に向けたトレーニングも、男子のフィジカルレベルに合わせるためではなく、自身のレベル向上のため。「フィジカル面でも技術面でも、座学の面でも全ての面で向上しようと臨んでいた。選択肢として男性の試合を担当することができるというのはその先にあった感じで、男性の試合に向けてやっていたというより、結果的にそういった機会があったということ」と冷静に語る。
その一方で、Jリーグ初の女性審判という肩書きには前向きに捉えているようだ。「女性でも男性でも審判員という存在に少しでも注目していただいて、いままで審判員に目が向かなかった方々の目が向いてくれれば」と期待の大きさを受け止めた山下氏は「女性審判員が目を向けていただく機会はなかなかないが、こういう場で認知されて、仕事や育児の両立という環境面もあるので整っていったらいいなと思う」と環境整備への思いも口にした。
また「こうやって認知されていくことで環境が整えられていき、スタートになると思うので、少しでも多くの人に目を向けていただきたい。今回こういった機会をいただいて、Jリーグという選択肢が増えたことはとても意義のあることだと思っている。4級、3級、2級と進んでいく際に可能性が狭まらないような形に社会全体でなったらいいなと思う」と力を込めた。
そんな山下氏の目標は、女性審判員の存在を「当たり前に」していくことだ。
「そのために私ができることは、目の前の試合に全力で取り組むこと。それを目指して1試合1試合しっかり担当していきたいなと思います」。そう決意を語った山下氏は今夏に控える東京五輪に向けても「オリンピックがゴールというわけではないが、常に日々成長していきたい気持ちは持っている。とはいえまずは目の前の試合に全力で取り組むことがその試合につながっていく。次の試合に向けて全力で取り組むというのが目指すところ」と冷静に意気込んだ。
(取材・文 竹内達也)
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今季からJリーグの審判員として登録されている山下氏は16日、ニッパツ三ツ沢球技場で行われたYS横浜対宮崎を担当。これまでも昨季のJFLや、ACLの下部大会にあたるAFCカップなど男子の国際試合も裁いてきたが、Jリーグでは史上初の快挙となった。
試合前は「大きな責任を感じていた」という山下氏。それでも「試合が始まってからはそんなことを考える暇もなかった」といい、素早い判断とコミュニケーションを駆使し、イエローカード1枚にとどまるクリーンな試合を支えた。
山下氏は会見で両チームの振る舞いを問われて「両チームの選手ともプレーに集中していて、私自身がストレスが溜まるシーンもなかったし、とてもフェアにプレーしてくれていた」と選手たちに感謝。そのうえで「とくにこれが難しいというシーンはなかった。いつもこれが難しかったというシーンはないので、昨日の試合も同じように感じていましたが、一番難しかったのはコイントスですね(笑)」と笑顔で振り返った。
幼稚園の時に兄の影響でサッカーを始め、選手としてプレーを続けていた山下氏が審判活動を始めたのは東京学芸大の在学時。大学の先輩で、現在は国際審判員を務める坊薗真琴副審からの誘いでトライしたという。
「審判員として活動していなかったときは審判が目に入っておらず、言ってみれば全く興味がない世界でした。一緒に試合をしているのに全然見えていない存在で、最初は無理矢理やらされたといいますか、最初の試合に関しては全然気が進まなかったんですが、まず1試合やればいいやという気持ちでした」。
当初は乗り気ではなかったという山下氏。しかし「最初の笛を吹いて、時間を測って、最後の笛を吹くだけ」という心持ちで臨んだ初戦が転機となった。次第に「1試合ごとに『もっとこうしないといけない』というのが出てきて、それがここまで積み重なってきた」と向上心をかき立てられたのだという。
その後も選手と並行して活動を続けていたが、なでしこリーグ副審を担当できる女子2級を取得した際に「女子トップリーグに関係することができるという責任の重さを感じ、2級になるのであれば審判に向き合わないといけないという気持ちが芽生えた」。そこから本格的にトップ審判の道に進む決意を固め、2012年に女子1級の資格を取得した。
そんな山下氏にとって、審判生活で印象に残っている試合は2015年12月27日の第37回皇后杯決勝だという。アルビレックス新潟レディース対INAC神戸レオネッサが対戦し、I神戸が現役ラストマッチとなったMF澤穂希の決勝ゴールで5度目の頂点に立った記憶に残る一戦。等々力陸上競技場に20,379人を集めたビッグマッチで笛を吹いた山下氏は次のように振り返った。
「とてもたくさんの観客の方が見にきてくださり、その後も反響があり、女子サッカーの力を感じた。フィールドに立って周りを見回すときに女子サッカーってこれだけの注目を集められるんだな、人の心を集められるんだなということを感じたのでとても印象に残っている」。
同年には国際審判員としても登録された山下氏はその後、16年に初の世界大会としてU-17女子ワールドカップを担当。18年にAFC女子アジアカップ(ヨルダン)とU-17女子ワールドカップ(ウルグアイ)のピッチに立つと、19年にはフランス女子W杯にも参加し、決勝トーナメント1回戦でも笛を吹いた。
また19年にはAFCカップ(ACLの下部大会)のグループステージで笛を吹き、アジアで初めて女性主審が男子の国際大会を担当。そして同年末、男子社会人の試合を担当することができる1級審判員に認定された。
もっとも山下氏は「男性の試合をやっていこう、女性の試合をやっていこうと考えたことは今までなかった」という。
試合に向けたトレーニングも、男子のフィジカルレベルに合わせるためではなく、自身のレベル向上のため。「フィジカル面でも技術面でも、座学の面でも全ての面で向上しようと臨んでいた。選択肢として男性の試合を担当することができるというのはその先にあった感じで、男性の試合に向けてやっていたというより、結果的にそういった機会があったということ」と冷静に語る。
その一方で、Jリーグ初の女性審判という肩書きには前向きに捉えているようだ。「女性でも男性でも審判員という存在に少しでも注目していただいて、いままで審判員に目が向かなかった方々の目が向いてくれれば」と期待の大きさを受け止めた山下氏は「女性審判員が目を向けていただく機会はなかなかないが、こういう場で認知されて、仕事や育児の両立という環境面もあるので整っていったらいいなと思う」と環境整備への思いも口にした。
また「こうやって認知されていくことで環境が整えられていき、スタートになると思うので、少しでも多くの人に目を向けていただきたい。今回こういった機会をいただいて、Jリーグという選択肢が増えたことはとても意義のあることだと思っている。4級、3級、2級と進んでいく際に可能性が狭まらないような形に社会全体でなったらいいなと思う」と力を込めた。
そんな山下氏の目標は、女性審判員の存在を「当たり前に」していくことだ。
「そのために私ができることは、目の前の試合に全力で取り組むこと。それを目指して1試合1試合しっかり担当していきたいなと思います」。そう決意を語った山下氏は今夏に控える東京五輪に向けても「オリンピックがゴールというわけではないが、常に日々成長していきたい気持ちは持っている。とはいえまずは目の前の試合に全力で取り組むことがその試合につながっていく。次の試合に向けて全力で取り組むというのが目指すところ」と冷静に意気込んだ。
(取材・文 竹内達也)
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