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平日昼間でも「見にきてくださった方がこんなに…」地元で支持広がるクリアソン新宿、JFL昇格レース白星発進!

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 関東王者vs関西王者——。全国地域チャンピオンズリーグ(地域CL)決勝ラウンドの初戦にして天王山とも目された一戦は、怒涛の11連勝フィニッシュで関東1部リーグを逆転優勝したCriacao Shinjuku(クリアソン新宿)に軍配が上がった。味の素フィールド西が丘には大勢のサポーターが詰めかけており、ホームアドバンテージにも大きく後押しされての白星だった。

 横浜F・マリノス、柏レイソル、サガン鳥栖でJリーグ公式戦通算500試合以上の出場経験を持つDF小林祐三をリベロに置いた守備陣が関西王者おこしやす京都ACの攻撃陣を阻み続け、0-0で迎えた後半40分に元栃木SCのDF瀬川和樹がキッカーを務めるセットプレーを起点に決勝弾。厳しい関東リーグを勝ち抜いたCriacao Shinjukuが、JFL挑戦権への最終関門でもさすがの勝負強さを発揮した。

 それでも試合後、選手・スタッフが口を揃えて誇ったのは仕事と並行しながら必死で積み上げてきたであろうピッチ上の鍛錬ではなく、地元東京で後押ししてくれた人々の存在だった。かつて水戸ホーリーホックや浦和レッズなどに所属していた元JリーガーのGK岩舘直は感慨深げに語った。

「関東リーグは開幕戦を最後に無観客で、久々に皆さんの前でプレーできたことを本当に嬉しく思っていて。平日水曜日の真昼間ということで残念ながら来られなかった方もいた中、会社を休んででも来てくれた方がすごくたくさんいらした。そういった皆さんの前でプレーできることが改めてありがたいことだなと感じました。今日の試合を見て、金曜日も休んじゃおうかなってことを言ってくれる人もいたりして、僕たちの試合を見てそう思ってもらえたことが本当に嬉しい。また次に来ても、その次に来ても、そう思ってもらえるような試合をしたいと思います」。

 午後1時30分キックオフの一戦で、公式入場者数は730人。奇しくもパープルをチームカラーに掲げる同士の一戦となったため、一見しただけでどちらのサポーターかは区別しづらかったが、ときおり起きる拍手や歓声から“ホームアドバンテージ”は明らかだった。

 東京開催の優位性については、成山一郎監督も「物理的なものはある」と率直に認める。「移動に負担がかからないとか、普段の生活リズムをそんなに崩さなくていいとか、また仕事をしているメンバーなので、一日休みを取らずに半日休みを取ったりしているので、アドバンテージはあると思う」。全国各地から遠征してきたチームに比べれば、負担が軽いのは言うまでもない。

 もっとも、サポーターによるアドバンテージに関しては、単に「東京開催だったから」にとどまらない理由があるようにも思われた。岩舘が述べたように、試合時間は平日の真昼間。ただホームタウン近郊で重要な試合があるからといって、それだけで多くの人々が集まるほどアマチュアサッカーの集客は甘くない。新宿区を中心に地道な活動を続け、着実に関係性を築いてきたからこそ、こうしたホームの雰囲気が形成されたのであろう。

 実際、Criacao Shinjukuのサポーターは日々の活動で選手・スタッフと知り合った人々が中心。太鼓などのコールリードは行われておらず、いわゆる「サッカーのサポーター」のイメージとは一線を画している。それでもチャンスの場面では大きな拍手が送られ、十分にホームの空気感をつくり出していた。

 成山監督は、前述の“物理的なアドバンテージ”に加えて「それよりも東京で、新宿で活動しているチームなので、見にきていただきたいし、『見にきてくださった方がこんなにいるんだ』というのが試合が始まる直前に気付かされた。それが本当にありがたく、アドバンテージになったと思っています」と指摘。サポーターによる後押しに感謝していた。

 そうした感謝の思いは、選手たちの振る舞いからも存分に見て取れた。主将を務めるDF井筒陸也(元徳島ヴォルティス)は試合後、他の選手とともにサポーターのもとを訪れるやいなや、勝利の報告よりも先に「ようやく皆さんの前でプレーすることができて幸せです」といったストレートなメッセージを口にしていた。

「地域で、新宿で、たくさんの方に知っていただいていて、地域だけでなくずっと応援してくれた家族やOBにもピッチでプレーを見せることができないのが残念だった。ピッチに来ることができれば、自分たちの声や空気感を伝えることができる。そうして伝えることで喜んでもらえる」。

 そう語った井筒は加入3年目。「僕が入った3年前は東京都リーグで、そこから関東2部に上がって、関東1部に上がって、関東1部で優勝して、今度は全国のJリーグを目指すクラブと試合ができるという、社会人サッカーからJリーグのクラブに移っていく過渡期みたいなところにある。サッカーも進化していると思うし、それは上手いとかだけでなく強度もそう。そういうのは見ている人も気づくと思うし、(有観客で)そういうのを伝えられてよかったなと思う」とここまでの躍進とサポーターとの関係性に手応えも述べた。

 Criacao Shinjukuはこの日の勝利により、最終ラウンド2位以内に与えられるJFLとの入れ替え戦出場権に大きく前進。全国リーグ挑戦がいよいよ現実的な目標となった。もっとも、目指す姿はあくまでも「世の中に感動を想像し続ける存在」という理念。JFL昇格に向けても、これまでの姿勢を貫きながら戦っていく姿勢は崩すつもりはないようだ。

 決勝ラウンドは残すところ26日のFC.ISE-SHIMA戦、28日のFC徳島戦の2試合。井筒は「東京でたくさんの方の前で試合をさせてもらえるのが本当にありがたいです。勝つことも大事なんですけど、クリアソンらしく人に感動を届けられるような試合をやっていきたい。残り2試合、悔いなく戦っていきます」と力強く意気込みを語った。

(取材・文 竹内達也)

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