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プロ25年目の開幕戦。42歳の守護神、大宮GK南雄太が燃やし続ける“悔しさ”のエネルギー

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42歳で開幕スタメンを飾った大宮アルディージャGK南雄太(後列一番左)

[2.19 J2第1節 横浜FC 3-2 大宮 ニッパツ]

 自然体の男は、いつでも変わらない。それがプロサッカー選手になって25回目を数える開幕戦であっても、去年まで所属していたチームとの古巣対決であっても。

「もちろん『横浜FCが相手だから勝ちたい』という想いは凄く強かったんですけど、なんか思ったよりも冷静でいる自分がいて。もっと『緊張したりするかな』と思ったんですけど、いつも通りやれたのかなとは思います」。

 大宮アルディージャの正守護神。GK南雄太の2022年シーズンは、少しの懐かしさと、大きな悔しさとともに、その幕が上がった。

 昨シーズン途中に大宮へ期限付き移籍でやってきた南は、今シーズンから完全移籍に切り替わっている。「正直、去年来た時点から気持ちはあまり変わっていなくて、去年に関しては『チームを残留させる』という想いだけで半年間頑張りましたし、今年は逆にまたフラットなところから挑戦できるというところで、大宮が自分をまた必要としてくれて、完全移籍で獲ってくれたということに対して、やっぱり凄く感謝していますし、その期待にきっちり応えられるように、とにかく大宮のために戦って頑張りたいなと思います」。覚悟はもう、このエンブレムのユニフォームへ袖を通した瞬間から決まっていた。

 いわゆる“黄金世代”のメインキャスト。まだJリーグで現役を続けている同級生は、小野伸二(北海道コンサドーレ札幌)と遠藤保仁(ジュビロ磐田)だけ。今年で43歳を迎える南から見れば、ルーキーのGK若林学歩は実に25歳も年下。自分の愛息とほとんど変わらないような年齢だ。

「単純に盗めるところというか、勉強になる部分は今の若い選手を見ていてもたくさんありますし、本当にみんなポテンシャルがあって、うらやましいなと感じます。今の若い子というか、20代前後の子たちはあまり年上だからといって気負ってくる感じもないので、全然普通に話しますよ。自分が10代でプロに入った頃は、とにかく上の先輩たちに気を遣う時代だったと思うんですけど、今は逆で、こっちから話しかけないとあまり話してくれなかったりもしますし、だからこそ凄く気を遣って話したりするので、そう考えるとずっと気を遣いっぱなしですね(笑)」。

 新シーズンの開幕戦のカードが発表された時には、思わず運命の悪戯に“疑い”を覚えたようだ。「もう『仕組んだのかな?』って、一番最初にカードを見た時に思いましたけどね(笑)。まさか開幕戦が三ツ沢で、横浜FC相手というのは、『何か意図があるのかな』とはちょっと思いましたけど、自分としては何よりもやりがいのある舞台ですし、こういう形でまた三ツ沢に戻れることはちょっと想像していなかったので。何かそんなに気負った感じは全然なくて、とにかく楽しみです。おそらく横浜FCは強いでしょうし、自分が仕事をする機会もたくさん増えると思いますし、本当にいろいろな意味を含めて楽しみです」。

 7年半に渡って声援を送り続けてくれた横浜FCサポーターへの想いも、彼らしいユーモアでこう語っていた。「普通だったら大ブーイングで迎えられるんでしょうけれども、今はコロナの影響でそれもできないので、拍手して温かく迎えていただけたらと思います」。

 2月19日。ニッパツ三ツ沢球技場。大宮アルディージャのスタメンがアナウンスされる。その一番最初。南の名前が読み上げられると、スタンドからは小さくない拍手が起こっていた。

「ロッカーが逆だったり、アップのゴールが逆だったりというのはまだ違和感がありましたけど、『懐かしいな』と思うほどは、まだ横浜FCを出てから時間が経っていないので、ここにいた時の感覚とあまり変わらなかったですね」。ウォーミングアップでピッチに出てくると、一瞬だけホームのゴール裏に目をやり、すぐさまアウェイのゴール裏へ挨拶に向かう。大宮アルディージャの守護神として、三ツ沢のピッチで戦う準備を整えていく。

 結果はシンプルに悔しいものだった。2-3での敗戦。同点で突入した後半アディショナルタイムにPKを献上し、クレーベの蹴り込んだ方向に南も飛んだものの、ゴールネットは揺れ、ハマブルーのゴール裏は爆発した。

「PK、取りたかったですね。クレーベとは結構PKの練習もやりましたから、クセも知っていましたし、『取れるかな』とは思ってやっていたんですけど、最後の最後まで我慢したのが逆に裏目に出たというか、クレーベはキーパーを見て蹴るので、ちょっと待ち過ぎたかなと。本当にいつもの敗戦以上に悔しかったですね。やられ方もそうですし、相手もそうですし、悔しかったです」。

 さらに悔しかったのは、かわいい“後輩”にもゴールを陥れられたことだ。開幕戦の事前取材の機会に、対戦を楽しみにしている選手を問われた南は、こう答えていた。「齋藤功佑は一緒によくゴハンに行ったりもしましたし、今の横浜FCの選手では彼とやった時間が一番長いのかなと。彼は凄く良い選手ですから、対戦が楽しみです」。

 前半40分。齋藤が左足を振り抜くと、南が守るゴールを鋭い軌道の先にあったボールが貫く。「雄太さんは横浜FCで長い年数を一緒に戦った人ですし、自分もリスペクトしている先輩なので、その人から点を獲れたことは凄く嬉しかったです」とは齋藤。「功佑に獲られたのは悔しいですね。あれを止めないとチームに貢献できないと思うので、本当に悔しいです」。短い言葉に“先輩”の素直な感情が、より濃く滲んだ。

 それでも、日常は続いていく。そんな日々を積み重ねて、今シーズンでプロサッカー選手として過ごす時間は25年目に突入していく。「もちろん想像もしていなかったですし、この年齢までサッカー選手でいるということは目標にすらしていなかったというか、まったく実現できるような目標ではないと思っていたので、若い時の自分にそれを言ったら、おそらく凄くビックリするんじゃないのかなと思います」。

 少し前から、あえて目標は掲げていないという。「もう本当に目の前の1日1日、1試合1試合で結果を残すことが一番の目標なので、それがチームの勝利に繋がって、チームが昇格すれば、それが一番いいことだと思いますけれども、本当に1試合1試合を大切に戦うことが今の自分の一番の目標なので、そこに全力を尽くしたいという気持ちです」

「柏を契約満了になったのが30歳の時で、その時に初めてクビになって、『サッカーができなくなるかもしれない』ということを初めて味わって、そのままオファーがなければ、自分がいくらやりたくてもサッカー選手ではいられなくなるということを凄く実感しましたし、その時に熊本からお話をもらったことで、また自分の現役生活も伸びましたけれども、あの時に本当に行くチームがどこもなければ、その時点でサッカー選手は終わっていました」

「そこからはあまり先のイメージを持っても、そこに到達する前に、目の前の1日1日を頑張っていかないと、サッカー自体も続けられないですし、続けるためには自分のパフォーマンスも維持しないといけないしというところで、考え方が凄く変わったというか、本当に1日1日を凄く大事にするようになりました。いつ自分がサッカー選手じゃなくなるかという瀬戸際は強く感じていたので、『何歳までサッカーやりたいですか?』とかよく聞かれますけど、本当にそんなイメージは全然なくて、もういつサッカー選手が終わってもいいようにというか、後悔がないようにとにかく1日1日、1年1年やっていこうというスタンスで続けてきて、気が付いたら今は42歳になっていたという感じです」。

 目の前でゴールを決められれば、悔しい。目の前のPKを止められなければ、悔しい。目の前の試合に勝てなければ、悔しい。そのエネルギーを力に変え、また今日のトレーニングにすべてをぶつけていく。それはきっと18歳でプロサッカー選手を職業に定めた時から、ずっと変わらない彼の日常だ。

 南雄太の2022年シーズンは、少しの懐かしさと、大きな悔しさとともに、その幕が上がっている。

(取材・文 土屋雅史)

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