プロ2年目で手繰り寄せたJリーグデビュー戦。岩手GK松山健太が感じた手応えとさらなる成長欲
[2.27 J2第2節 町田 1-0 岩手 Gスタ]
Jリーガーにとって、リーグデビュー戦というのは一度しかやってこない。日常のトレーニングから懸命に自身をアピールしながら、地道に実力を付けていく。それでもその日がいつやってくるのかは、本人にももちろんわからないし、その日が来ないままにキャリアへ幕を引く選手だって、決して少なくない。
「早く感じる気持ちもあるんですけど、長くも感じますし……、意外と長かったですね。もっと早く試合に出たかったので」。
プロ2年目のJリーグデビュー戦。いわてグルージャ盛岡の背番号19。GK松山健太は30年目を迎えたJリーグの歴史に、自らの名前をはっきりと刻み込んだ。
2月27日。J2第2節。今シーズンから初めてJ2へと挑戦している岩手は、ジェフユナイテッド千葉に勝利した開幕戦から1人だけスタメンを変更する。メンバーリストの一番上。GKの欄には昨シーズンの昇格に大きく貢献した野澤大志ブランドンではなく、“松山健太”という名前が記されていた。
「昨年から大卒で入ってきて、正直に言って1年の中でかなりの成長を見せてくれたところがあった部分と、今はGKの中でもクオリティが非常に高い、可能性を感じる選手ということで、松山を選びました」。チームを率いる秋田豊監督は、そのスタメン起用の理由をこう説明する。
「Jリーグで試合に出るのは初めてなので、本人に緊張感や不安はあったと思いますけど、しっかり全員がサポートしつつ戦おうということは、試合前もそうですし、練習からしっかり声を掛けてやれていたので、特に不安はなかったです」と言い切るのはキャプテンの牟田雄祐。チームメイトも本人の想いは十分に汲み取っていた。
ようやく辿り着いたJリーグのピッチ。緊張しないはずがない。だが、百戦錬磨の指揮官や新沼泉GKコーチにとってそんなことはもちろんお見通しだ。「僕が少し緊張していたので、ほぐすような言葉を一言二言戴きました。試合に入ってみれば、もうスイッチが入ってしまっているので、緊張というよりはやるしかないという感じでしたけど、始まる前の方が緊張しましたね」。22人の中で1人だけの赤いユニフォームが、まだまっさらなゴールマウスに立つ。14時3分。キックオフの笛とともに、Jリーグデビュー戦の時計の針がとうとう動き出した。
「もちろん試合の入りとして、自分自身もチームとしてもファーストプレーを大事にしていて、今日はそれがキックだったと思うんですけど、そこの部分は上手く行ったので、試合に入っていけたかなと思います」。開始2分。セットプレーから下げられたボールを前方に大きく蹴り出すと、宮市剛の頭へ正確に届き、最後はブレンネルがシュート。ボールは枠を大きく外れたものの、フィニッシュまで繋がる好フィードで試合に入る。
23分には左サイドを崩され、ドゥドゥが枠へ収めたシュートを冷静にキャッチ。25分と33分にどちらも山口一真が放ったシュートもきっちり凌ぐ。だが、前半終了間際の45+1分。ペナルティエリア内でハンドがあったというジャッジを主審が下し、町田にPKが与えられる。右へ飛んだ松山に対して、平戸太貴が蹴り込んだのはど真ん中。1点のリードを許して、最初の45分間が終了する。
守勢の時間が続く後半も、際どいシュートを打ち込まれる。6分には山口の決定機に「あそこは牟田くんが寄せてくれていて、角度も良い間合いで詰められて、あとはブロックするというか、技術で止められたので、積み重ねたものが出たかなと思います」と確実なセーブを披露すれば、23分には手前で跳ねる山口の鋭いミドルを、的確に外側へと弾き出す。
4分間のアディショナルタイムが経過すると、タイムアップを告げる主審のホイッスルが鳴り響く。「勝ってデビューを飾ってあげたいという想いはありましたけど、なかなか難しい展開になってしまいました」とは牟田。ファイナルスコアは0-1。松山のJリーグ初勝利は次の機会へと持ち越されることになった。
試合後の会見で秋田監督は「非常に良いクオリティを出してくれました。大きなミスもなく、しっかりと試合に入ることもできて、最少失点でチームを、守備を支えてくれたと思っています」と松山のパフォーマンスに一定の評価を与え、本人も「ミドルシュートだったり、決定機となるようなシーンもセーブできたところ、守備陣と連携しながら流れの中の失点がなかったところは良かった点だと思います」と手応えを口にする。
ただ、もちろん課題も抽出している。「今日の試合だけで言えばもっと攻撃のところに関わっていきたいですし、1失点はしているので、そこはまたチーム全体で振り返っていきたいなと思います。限りなく失点をゼロに近づけるために、これからも試合に関わるチャンスがあれば、もっとチームと連携して、守備を安定したものにしていきたいです」。それも試合に出たからこその感覚であることは、あえて言うまでもない。
桃山学院大から岩手に加入した昨シーズンは、土井康平に鈴木智幸という10歳以上も歳の離れたベテランたちと、日々のトレーニングに向き合ってきた。公式戦の出場は天皇杯の1試合だけだったとはいえ、そうやって積み上げた1年間の重要性も改めて実感したようだ。「去年1年間は試合に出られずに、基礎のところ、ポジショニングのところ、細かいところと見直してきましたし、そういうところはすべてではないですけど、今日も出せたかなと思います」。
大卒ルーキーの奥山洋平、桐蒼太もこの日がJリーグデビュー。3人に向けた牟田の言葉が優しく響く。「まだまだここから彼らのサッカー人生は長いので、上手く自分も助けてあげながら、逆に助けてもらいながら、一緒に成長して、そういったところをファン・サポーターの方に見てもらうというのもまた次に繋がりますし、自分たちは、このチームは、J2で動き出したばかりなので、本当にいろいろなことを乗り越えて、全員が強くなればいいかなと思います」。
次節以降の意気込みについて「個人としては大志やアベノブさんだったり、稲葉だったり、キーパー陣と切磋琢磨し合う競争がまた始まると思うので、今日デビューできたからと言って、また次も出られるかはわからないですし、集中して、日々緊張感を持って、良いシーズンにできたらなと思います」と答えた松山に、Jリーグのピッチに立ったことで出てきた“欲”についての質問が飛ぶと、力強い言葉が返ってくる。
「今日は負けているので、今は勝ちたいという欲が一番出ていますし、もっと自分をアピールできる部分もあるので、これからもっと表現していきたいです」。
また1人、楽しみなゴールキーパーがJリーグの舞台に堂々と現れた。
(取材・文 土屋雅史)
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Jリーガーにとって、リーグデビュー戦というのは一度しかやってこない。日常のトレーニングから懸命に自身をアピールしながら、地道に実力を付けていく。それでもその日がいつやってくるのかは、本人にももちろんわからないし、その日が来ないままにキャリアへ幕を引く選手だって、決して少なくない。
「早く感じる気持ちもあるんですけど、長くも感じますし……、意外と長かったですね。もっと早く試合に出たかったので」。
プロ2年目のJリーグデビュー戦。いわてグルージャ盛岡の背番号19。GK松山健太は30年目を迎えたJリーグの歴史に、自らの名前をはっきりと刻み込んだ。
2月27日。J2第2節。今シーズンから初めてJ2へと挑戦している岩手は、ジェフユナイテッド千葉に勝利した開幕戦から1人だけスタメンを変更する。メンバーリストの一番上。GKの欄には昨シーズンの昇格に大きく貢献した野澤大志ブランドンではなく、“松山健太”という名前が記されていた。
「昨年から大卒で入ってきて、正直に言って1年の中でかなりの成長を見せてくれたところがあった部分と、今はGKの中でもクオリティが非常に高い、可能性を感じる選手ということで、松山を選びました」。チームを率いる秋田豊監督は、そのスタメン起用の理由をこう説明する。
「Jリーグで試合に出るのは初めてなので、本人に緊張感や不安はあったと思いますけど、しっかり全員がサポートしつつ戦おうということは、試合前もそうですし、練習からしっかり声を掛けてやれていたので、特に不安はなかったです」と言い切るのはキャプテンの牟田雄祐。チームメイトも本人の想いは十分に汲み取っていた。
ようやく辿り着いたJリーグのピッチ。緊張しないはずがない。だが、百戦錬磨の指揮官や新沼泉GKコーチにとってそんなことはもちろんお見通しだ。「僕が少し緊張していたので、ほぐすような言葉を一言二言戴きました。試合に入ってみれば、もうスイッチが入ってしまっているので、緊張というよりはやるしかないという感じでしたけど、始まる前の方が緊張しましたね」。22人の中で1人だけの赤いユニフォームが、まだまっさらなゴールマウスに立つ。14時3分。キックオフの笛とともに、Jリーグデビュー戦の時計の針がとうとう動き出した。
「もちろん試合の入りとして、自分自身もチームとしてもファーストプレーを大事にしていて、今日はそれがキックだったと思うんですけど、そこの部分は上手く行ったので、試合に入っていけたかなと思います」。開始2分。セットプレーから下げられたボールを前方に大きく蹴り出すと、宮市剛の頭へ正確に届き、最後はブレンネルがシュート。ボールは枠を大きく外れたものの、フィニッシュまで繋がる好フィードで試合に入る。
23分には左サイドを崩され、ドゥドゥが枠へ収めたシュートを冷静にキャッチ。25分と33分にどちらも山口一真が放ったシュートもきっちり凌ぐ。だが、前半終了間際の45+1分。ペナルティエリア内でハンドがあったというジャッジを主審が下し、町田にPKが与えられる。右へ飛んだ松山に対して、平戸太貴が蹴り込んだのはど真ん中。1点のリードを許して、最初の45分間が終了する。
守勢の時間が続く後半も、際どいシュートを打ち込まれる。6分には山口の決定機に「あそこは牟田くんが寄せてくれていて、角度も良い間合いで詰められて、あとはブロックするというか、技術で止められたので、積み重ねたものが出たかなと思います」と確実なセーブを披露すれば、23分には手前で跳ねる山口の鋭いミドルを、的確に外側へと弾き出す。
4分間のアディショナルタイムが経過すると、タイムアップを告げる主審のホイッスルが鳴り響く。「勝ってデビューを飾ってあげたいという想いはありましたけど、なかなか難しい展開になってしまいました」とは牟田。ファイナルスコアは0-1。松山のJリーグ初勝利は次の機会へと持ち越されることになった。
試合後の会見で秋田監督は「非常に良いクオリティを出してくれました。大きなミスもなく、しっかりと試合に入ることもできて、最少失点でチームを、守備を支えてくれたと思っています」と松山のパフォーマンスに一定の評価を与え、本人も「ミドルシュートだったり、決定機となるようなシーンもセーブできたところ、守備陣と連携しながら流れの中の失点がなかったところは良かった点だと思います」と手応えを口にする。
ただ、もちろん課題も抽出している。「今日の試合だけで言えばもっと攻撃のところに関わっていきたいですし、1失点はしているので、そこはまたチーム全体で振り返っていきたいなと思います。限りなく失点をゼロに近づけるために、これからも試合に関わるチャンスがあれば、もっとチームと連携して、守備を安定したものにしていきたいです」。それも試合に出たからこその感覚であることは、あえて言うまでもない。
桃山学院大から岩手に加入した昨シーズンは、土井康平に鈴木智幸という10歳以上も歳の離れたベテランたちと、日々のトレーニングに向き合ってきた。公式戦の出場は天皇杯の1試合だけだったとはいえ、そうやって積み上げた1年間の重要性も改めて実感したようだ。「去年1年間は試合に出られずに、基礎のところ、ポジショニングのところ、細かいところと見直してきましたし、そういうところはすべてではないですけど、今日も出せたかなと思います」。
大卒ルーキーの奥山洋平、桐蒼太もこの日がJリーグデビュー。3人に向けた牟田の言葉が優しく響く。「まだまだここから彼らのサッカー人生は長いので、上手く自分も助けてあげながら、逆に助けてもらいながら、一緒に成長して、そういったところをファン・サポーターの方に見てもらうというのもまた次に繋がりますし、自分たちは、このチームは、J2で動き出したばかりなので、本当にいろいろなことを乗り越えて、全員が強くなればいいかなと思います」。
次節以降の意気込みについて「個人としては大志やアベノブさんだったり、稲葉だったり、キーパー陣と切磋琢磨し合う競争がまた始まると思うので、今日デビューできたからと言って、また次も出られるかはわからないですし、集中して、日々緊張感を持って、良いシーズンにできたらなと思います」と答えた松山に、Jリーグのピッチに立ったことで出てきた“欲”についての質問が飛ぶと、力強い言葉が返ってくる。
「今日は負けているので、今は勝ちたいという欲が一番出ていますし、もっと自分をアピールできる部分もあるので、これからもっと表現していきたいです」。
また1人、楽しみなゴールキーパーがJリーグの舞台に堂々と現れた。
(取材・文 土屋雅史)
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