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声援なきJリーグに危機感…野々村チェアマンが熱弁「本来のサッカーではない」「熱量を早く取り戻さないと」

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Jリーグの野々村芳和チェアマン

 Jリーグの野々村芳和チェアマンが17日、オンラインで行われたメディアブリーフィングに出席し、今後の公式試合に段階的に設置することが決まった「声出し応援エリア」「声出し応援席」について説明した。当面の間は全体の観客数を収容人数の50%に絞った上で、声出しエリアの入場人数も3000人、7000人とステップを設けて緩和を進めていく予定だが、100%収容での声出し応援を「いち早く実現したい」という意向も示した。

 Jリーグでは2020年春に始まったコロナ禍以降、感染拡大防止のため、観客数や応援スタイルでさまざまな制限を行ってきた。観客数は当初の2週間こそ無観客だったが、その後は5000人、10000人、収容人数の50%などと徐々に緩和が進み、今季から100%の入場が解禁。一方、応援スタイルの制限は続き、現在も欧州などで日常の光景となった声出し応援は認められていない。

 そうした制限の土台になっているのが、政府が取り決めている基本的対処方針に基づく大規模イベント開催制限だ。Jリーグは現在、安全計画を策定した上でスタジアム収容人数の100%の観客を迎えることができているが、その場合は「大声なし」でのイベント開催が前提。一方、収容率50%であれば「大声あり」の開催も可能だった。すなわち、これまでJリーグは声出し応援を規制することで、100%の観客入場を実現させ、各クラブのチケット収益を回復させてきたといえる。

 それでも今年3月まで北海道コンサドーレ札幌の代表取締役社長を務めていた野々村チェアマンは、昨年から「(声出しか100%収容か)クラブがどちらか選べるような持っていき方をしてほしいというふうにリーグには伝えていた」という。そこで野々村氏はチェアマン就任後、「感染状況も含めて(元の応援スタイルを)いち早く取り戻す準備をしないとダメだなという思いが僕の中では相当強かった」とスポーツ庁や内閣官房コロナ室との議論をスタート。今回の段階的緩和に向けたガイドラインを策定するに至った。

 野々村チェアマンはこの日、メディアブリーフィングの場で「やっぱり経営していかないといけないので、収入というところは避けて通れないところでもあると思うが、一方で本来のフットボールをどう取り戻すかという点の方が中長期的に重要という考え方もある」と指摘。「どっちが重要かではなく、現状のルールで選択できるような条件をいかにリーグとして揃えてあげられるかが重要だと思った。クラブ経営者は悩むところではあると思うが、一つ前に進めるようなものをスポーツ庁含めて前に進められたのは一つ良かったのかなと考えている」と手応えを語った。

 あわせて野々村チェアマンは、サッカーにおける声出し応援の重要性をあらためて強調した。「サッカーを作品として考えたときに、お客様の熱量はピッチのレベルと同様に作品の要素だと思う。作品を見たいから新しいファンが来てくれることも事実あるのがサッカーなので、サッカーとしての売り物を成立させる上でも熱量を早く取り戻さないといけない。コロナ禍でもチームが優勝や昇格をかけてコンペティションをしているわけで、そのクラブ力が試されるのはやっぱりホームゲームでのサポーターの熱量も勝ち負けには相当影響すると実感として持っている。サポーターもそういう思いでゲームに関わってくれている。サポーターが力を発揮できる場をなかなか提供できないのは本来のサッカーではないと思っている」

 一方、4月のブリーフィングでも「声を出したい、元のスタイルでサッカーという作品をより良くしたい人と、コロナは怖いという両方の人が存在していく中で、両者をどうバランスさせて、どうニーズに応えていくかを真ん中に置いて考えないといけないと考えている」と述べていたように、声出し応援に伴う飛沫への恐怖感を持つファン・サポーターがいるのも事実だ。今回の段階的緩和では声出しエリアとそれ以外をゾーニングすることでこのトラブルを回避しているが、ゆくゆくは共存していく必要もある。

「いまの国内の空気感で怖いと思う人がいるのは実感している。ただエビデンスが積み上がっていくと国も含めたウィズコロナの空気感も醸成されていくと思う。それが醸成されてから声出しの応援スタイルを元に戻すより、醸成を促すような役割もスポーツにはなくてはならないと考えた。そんな存在にサッカーがなれればいいなというのと、怖いと思っている方もいるのであれば、その方々に安心できますよという証明もサッカーを通じてしていければ。気持ちが前に進んでいく、そういう空気感になっていくように日本の社会が変わっていくために、サッカーが一つの役割を担えるのが重要なのかなと思っている」

 そう語った野々村チェアマンは、日本国内に向けてサッカーの応援の価値を示していく意欲も見せた。

「もう少し早く本来の姿に戻さないといけないよねということを、より多くの人に思ってもらえるようにしていかないといけないと強く思っている。ただ、まだ日本の国内でそこまでの認識がされていない。今回100年に1回起きた事態ではあるけれど、僕としては応援の大切さは再認識していて、むしろ日本が誇れる部分だと思う。海外の人たちが応援している姿も壮観だが、Jリーグのチャントなどのスタイルはこれはこれで世界のサッカーでも素晴らしいものだと思う。もっと日本の皆さんにも伝えていかないといけないという思いは、いま声が出せないというのも含めて、日本においてサッカーの価値観をまだまだ示せていないという思いはある。ただ日本のコロナの政策の中で、いかにして前に進むかをやってきてはいる。もっと早くからいろんな準備をしていればいいんじゃないと思っていたが、ただ自分がチェアマンになって2か月でようやくここまで進められることができたという見方もある。ただ、もっとサッカーの威力や価値を伝えていかないといけないと思う」

 今後に向けては、100%収容での声出し応援を「いち早く実現したい」と力を込めた野々村チェアマン。そのためにファン・サポーターの協力を求めた。

「実現するために今回いくつかのステップを踏むが、一つ一つのステップの中で、運営する側が声を出すエリアと安全安心を担保するエリアをうまく運営できるかが問われていて、それがすごく大事になる。まだまだサポーターの皆さんには協力していただかなければいけない。声出しエリアと同じようなテンションで、それ以外の人も出したくなると思うが。もう少し我慢していただいて、運営がうまくできることを繰り返しながら進めていきたい。基本的な対処方針の中でそうしないと、より多く広げることはできない」

「国のほうでマスクをしなくてもいいんじゃないかという議論もあるように、これから国の方針でいろんなことが変わっていく可能性はある。自分たちはいまの枠組みでどうやってできるかを必死で考えるが、もっと大枠で国が『もうそろそろいいよね』となることがあるのなら、100%入って声出しをするというのを早く実現できるかもしれない。ただいまはそうでない中で、サッカーの情熱を取り戻すためにベストを尽くそうということでステップを踏まざるを得ない。そこは理解していただきたい」

(取材・文 竹内達也)
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