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試合中に指揮官とディスカッション…横浜FM渡辺皓太「自然と言っちゃいました」振る舞いでも示した“進化”

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DF酒井宏樹とのデュエルもこなしたMF渡辺皓太(写真左)

[10.29 J1第33節 横浜FM 4-1 浦和 日産ス]

 3年ぶりのJリーグ制覇に王手をかけた浦和レッズ戦の試合後、横浜F・マリノスのMF渡辺皓太は今日までの準備期間を熱く振り返った。「本当に勝つことしか考えてなかったし、今日100%出し切ることを意識して、2週間過ごしてきた」。前々節のG大阪戦(●0-2)、前節の磐田戦(●0-1)とまさかの連敗を経て、半月ぶりの公式戦となったホーム最終戦、背番号6はまさに言葉どおりのパフォーマンスで存在価値を示してみせた。

 まずは前半17分、渡辺はFWアンデルソン・ロペスのポストプレーと見事に連係し、鋭い持ち上がりでボールを前進。勢いに乗った状態でMF水沼宏太にパスを出し、そこからFWエウベルの先制点が生まれた。「相手が前から来てくれたので、前に入れたときにいかに自分たちが前向きでサポートできるか。そこで完全に剥がせたので、あとは前の選手に預けて、前の選手たちのクオリティーで得点してくれた」。強力な3トップに絡むリンクマンとして、連敗中に得られなかった先制点を導いた。

 その後は浦和のカウンターに警戒しなければならない横浜FMだったが、渡辺はかつてウィークポイントだと思われていた守備のデュエルでも魅せた。前半40分過ぎ、こぼれ球を拾ったMF伊藤敦樹に素早く詰めた場面が象徴的だったが、光ったのは攻守の切り替えでの存在感。その姿勢は後半12分に結実し、MF江坂任への猛烈なプレッシングによるボール奪取から、エウベルの3点目につなげてみせた。

 この試合を迎えるにあたって「中盤に入ってきたボールは全部獲ってやろうという気持ちでやっていた」という渡辺。攻撃的なセンスを評価されてキャリアを築いてきた24歳だが、2019年夏の横浜FM加入以降はなかなかレギュラーポジションを確保できず、守備の強度向上は意識的に取り組んできたテーマだった。

「マリノスに来た当初はなかなか多くの試合には出られず、どうしたらいいかを考えた時、自分に足りないものはそういうところかなと。他の選手にできていて自分にできていないところを少しずつ伸ばしていけたらとやってきた」

「それは自分にとって足りないところだったと思うし、そういうところで奪い切れたり、闘えないと信頼してもらえない。このチームは闘うことができないとダメなので、そういったところは今までずっと意識してきて、それが少しずつ出せてきている」

 育成年代からストロングポイントとしてきたオン・ザ・ボールだけでなく、オフ・ザ・ボールでも成長を示した“2ゴール関与”。「前線の選手が前から追って限定してくれるからこそ自分たちが予測しやすいし、僕だけじゃなくてチームとして取れたゴールだったかなと思う」とチームメートへの感謝も忘れなかったが、その表情からは充実した心情も感じ取れた。

 もっとも、この日の渡辺が見せた存在感はそれだけではなかった。もう一つ変貌を感じさせたのが前半42分ごろの場面。エウベルとFWキャスパー・ユンカーが交錯し、プレーがいったん切れた時のことだった。

 両選手が倒れ込んで主審と両チームの選手が心配そうに歩み寄る中、渡辺は一人ピッチの中心から離れ、横浜FMベンチに向かった。給水ボトルを手に息を整えつつも、向き合ったのはケヴィン・マスカット監督。通訳を介して身振り手振りを交えながら、熱心にコミュニケーションをかわしていた。

 渡辺によると、ディスカッションのテーマは浦和のシステム変更について。「2点目を取ったくらいから相手が5-3-2にしてきて、中盤3枚にしてきたので、自分たちの守備の行き方を変えた」。ピッチ内で布陣のミスマッチに気づいた渡辺は、自身が考えた対応策を指揮官とすり合わせに向かったのだという。

「相手がポジションを変えてきたので、最初からやっていた自分たちのゲームプランじゃなくて、もっとこうしたほうがいいといいんじゃないかって。『こうしていいですか』みたいな感じで聞いて、そうしたら向こうもその考えだったので、それを他の選手たちに伝えた」

 横浜FMのボランチには主将のMF喜田拓也も並ぶ中、寡黙なキャラクターの渡辺がこうした振る舞いを見せるのは珍しく思われた。だが、当の渡辺は「こうしたほうがいいと思ったらやっぱり言ったほうがいいと思うし、自然と言っちゃいました」とサラリ。「勝ちたいし、相手もうまくいかないから変えてきているし、それにうまく対応しないと逆転されてしまう。意見が通るかは分からないけど、言うことが大事なのかなと。違ったら監督の言うとおりにしたらいいし、自分はこうしたらいいのかなと思ったから確認した」ときっぱり言い切った。

 こうした振る舞いができるようになったのも、横浜FMに来てからの変化だという。「最近いろいろ試合を見るようになったりして、こういうフォーメーションだったらこうしたらいいのかなみたいなことを考えることが多くなった」。きっかけとなったのは分析スタッフの存在。日々のプレーに関する分析を通じて、新たな感覚をピッチ上に落とし込めるようになったようだ。

「毎試合『上から見てどうでしたか?』と聞くし、『相手がこうだったから、もっとこうしたほうがいいんじゃない?』とか言われて、そういう良いコミュニケーションができているのかなと思う。少しずつ理解はできてきているんじゃないかと思う」。そうした積み重ねを経て「それをピッチ状で感じられたのは成長したところだと思う」という手応えにつながっている。

 連敗から脱出したこの日の勝利により、最終節のヴィッセル神戸戦に自力優勝の権利をつないだ横浜FM。「本当に簡単な試合じゃないし、相手も神戸いい選手が多い中で、でもやるしかない。勝ちだけを考えて今日からいい準備をして絶対に勝ちたい」(渡辺)。プレーでも振る舞いでも進化を遂げつつある24歳は、その中心となってタイトルを掴み取るつもりだ。

(取材・文 竹内達也)
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