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Jリーグに3Dオフサイドライン導入…見る側も注意すべき2つの論点

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デモンストレーションを報道陣に公開

 Jリーグでは今季から、ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)によるオフサイド判定の際に3Dラインテクノロジーが採用される。これまでの2Dラインではピッチの接地面にしかラインを描画できなかったため、判定精度が不十分だったが、今後は上半身も含めた立体的な判定が可能に。一方、判定に要する時間の増加をはじめ、見る側にとって懸念される点がいくつかありそうだ。

 Jリーグのレフェリング関係を管轄する日本サッカー協会(JFA)審判委員会は27日、2023年の第1回メディアブリーフィングを開催。現役審判員がシミュレーターを使い、3Dラインのオペレーションを行う様子を報道陣に公開した。

 昨年度限りでJリーグ担当審判員・国際主審を勇退し、今季からJFA審判マネジャーのJリーグVAR担当を務める佐藤隆治氏は3Dラインの導入に際して「最初はきっと時間がかかる」と説明。3Dライン採用下では、攻撃側がパスをした地点などを示す「ポイント・オブ・コンタクト」や、オフサイドラインを巡って駆け引きする攻守の競技者の部位を慎重に判断する必要があるためだ。

 もっとも判定の所要時間増加は、3Dラインによって実現される正確性と引き換えに生じるデメリット。佐藤氏の「時間をメインに考えると間違いが起きるが、それは誰も望んでいない」という言葉はもっともだ。さらに佐藤氏は「手順をスムーズにすることでチェックの時間は短くできる」とも述べており、習熟による改善にも期待ができる。

 したがって、より大きな注意点は3Dラインによる構造上の問題にありそうだ。一つ目は3Dラインを描画するシステムによる見た目上のわかりにくさである。

▼青チームが赤ライン、赤チームが青ライン?

 3Dオフサイドラインを描くホークアイ社のシステムでは、攻撃側が赤いライン、守備側が青いラインで表現される仕様となっている。赤いラインがゴール側にあればオフサイドだし、青いラインがゴール側ならばオンサイド、また両者が重なった場合はギリギリでもゴールに近いほうが上書きして描かれるようになっており、その色を見れば一目瞭然だ。

 もっとも、ここで問題になりかねないのが、ユニフォームの色やチームカラーとの不一致だ。

 この日、JFA審判マネジャー Jリーグ担当統括の東城穣氏が例に出したのは、青いユニフォームの横浜F・マリノスと赤いユニフォームの浦和レッズが対戦した場合。もし青の横浜FMの攻撃時にオフサイドの疑いがある事象が発生した場合、横浜FMが赤いライン、浦和が青いラインで描写されることになる。

 もし確定判定に使われる画像がテレビ映像などで使用されるのであれば(現状は未確定)、試合を見ているサポーターも混乱しやすい。だが、より深刻な事態をもたらしかねないのは、高度な重圧の中で画面を見つめている審判員が勘違いをした場合。審判員は通常、「赤の10番」などユニフォームと背番号で選手を特定することが少なくないため、色は重要な要素なのである。

 審判委員会側もこの点には留意。VARには「ラインの色が逆で出てしまうことがあるので気をつけるように」と伝達しているという。

 なお、プレミアリーグでは現在、両色の色が重なった場合はオンサイドの判定にする運用を取っているが、Jリーグではコンマ1mmでもゴール寄りにあるラインを確認する(その場合、ゴール寄りのラインの色が上書きされて表示される)運用になるため、そこにも留意しておくことが必要だ。

▼ポイント・オブ・コンタクトが分からない?
 もう一つの懸念点は、攻撃側がパスをした瞬間を示す「ポイント・オブ・コンタクト」がカメラ映像で分からない場合だ。

 JリーグのVARには通常、12台のカメラが使用(うち5台はオフサイドラインテクノロジーにも使用)されているが、相手競技者との重なりやカメラのコマ送りのスピードにより、綺麗にボールを蹴った瞬間が捉えられていない可能性がごくまれにある。その場合、どこにポイント・オブ・コンタクトを見出すかが争点となる。

 東城氏によると、その場合は「ボールに触れた直後」のコマで判定を下すという運用となる。海外でも同様の運用が一般的なため、「それを事実として受け入れてもらうしかない」(東城氏)といい、コンマ1秒を争うようなズレは「システム上、仕方がない」と受け入れるしかないのが現状だ。

 ただ、もしこのようなケースを静止画でフォーカスすると、攻撃側の足からボールがすでに離れているシーンを「ポイント・オブ・コンタクト」とすることになり、混乱を招くことが考えられる。

 実はこの運用はこれまでの2Dラインでも同じ。しかし、2Dラインではわずかな誤差が問われるほどの正確性をそもそも期待できなかったため、大きな問題にはなったことはなかった。それが今回、cm単位まで精密な判定ができる3Dラインが導入されたことにより、新たに議論を呼ぶ可能性が出てきているのだ。

 イングランドのプレミアリーグではこうした誤差に関する議論をぼかすため、攻守の競技者のラインが少しでも重なった場合はオンサイドとするという運用にしている。ただ、Jリーグではわずかな誤差でもデジタルに判定する方針。したがって、こうしたケースはコマ送りの都合上致し方ないとし、寛容な目で見ることが必要になりそうだ。

 こうした運用をフェアなものにしていくためには、シーズンを通して基準がはっきりしていることが重要。今季からVARへの指導を行う佐藤氏は「人によって、試合によって、そしてシーズン途中から変わってしまうとなかなか受け入れられない」と述べつつ、「環境の中でベストを尽くした中、赤い線が出ていた時はオフサイドと判断してシーズンをきちんとする」と方針を明確にした。

 テクノロジーの導入によって正確性が担保される一方、どこまで緻密にしても全てが解決するわけでもないのがサッカーの判定。佐藤氏は「世界大会はVARがあるサッカーであり、競技規則もVARが入ったことで整合性を取っていかないといけない。好き嫌い、いい悪いではなく、関わっていく以上、デジタルな部分は追求していかないといけない」としながらも、「デジタルが全ていいのかというとそうではない」と強調する。

 したがって、JFA審判委員会はまずはフィールド上の判定精度向上を目指すところに優先順位を置いていく構えだ。「現場感、サッカー感、審判感も並行して高めていかないといけない。ただデジタルから目を逸らすわけにはいかない」(佐藤氏)。新たな仕組みが導入される新シーズンに向け、審判関係者も懸命に準備を進めている。

(取材・文 竹内達也)
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