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鹿島から東京Vで武者修行のDF林尚輝、初先発は“新境地”アンカー役「新しい自分を見つけられるかもしれない」

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東京ヴェルディではアンカーに挑むDF林尚輝

[3.5 J2第3節 東京V 0-0 甲府 味スタ]

 鹿島アントラーズからの期限付き移籍で東京ヴェルディに加入したDF林尚輝が、アンカーのポジションで今季初先発を果たした。「新しい自分を見つけられるかもしれないということで、すごく楽しみでポジティブに感じている」。かつては大学屈指のセンターバックとして名を馳せた24歳。それでも任された役目と真摯に向き合い、J2の舞台で新境地を切り拓こうとしている。

 昨季天皇杯王者のヴァンフォーレ甲府をホームに迎えたJ2第3節。前節の大分戦(●0-1)で途中出場し、中盤の一角で東京Vデビューを果たした林が、さっそく初先発のチャンスを手にした。ミッションは守備に安定感を加えること。「前節の課題がセカンドボールの回収やそこの強度だったので、自分が強度を高めたいという思い」で味の素スタジアムのピッチに立った。

 今季の東京Vは守備時に4-4-2ベースでブロックを構えつつも、プレッシングや攻撃では中盤を3センター気味に組むシステム。林は中盤のアンカー役として新境地に挑んでいるが、初めからうまくいくことばかりではなかった。

 試合序盤は360度の視野でポジション取りが求められる持ち場で、課題が露呈する場面も頻発。前半11分には甲府のプレッシングにハマった状態でボールを受けさせられ、咄嗟に出した縦パスを奪われて相手のカウンターを受けた。またその後はビルドアップになかなか関わることができず、チーム全体の攻撃が停滞。次第に左ウイングのMF梶川諒太のサポートを受けることで、ようやくボールが回り始めた。

 中盤でのプレーは大阪体育大時代以来。プロの公式戦で初めての経験となれば、難しい場面が多く出てくるのは無理もない。林自身も「前半からポゼッションのところでうまくいかない可能性は少なからず考えていた」と振り返りつつ、「相手が2トップで来た時、自分がその間にポジションを取る時の立ち位置だったり、サイドバックにボールが入った時のサポートの仕方だったりはまだまだ経験不足感があった」と真摯に認める。

 もっとも、困難を強いられた中でも冷静さを失うことはなかった。ボールポゼッション時には単にビルドアップから逃れようとするのではなく、周囲の選手がボールを動かしやすい立ち位置をキープ。前半途中から梶川が中盤のフォローに下りてくる場面が増加したのは、林のキャラクターを活かす上での解決策でもあったようだ。

「自分の立ち位置の責任もあって、前半から自分のところにボールが入りづらい感じはあったので、縦に入った後のサポートを意識していた。コシくん(DF山越康平)にも縦に入れるように伝えていた」。あえて相手を引きつけるポジションを取りながら縦へのパスコースを空け、前にボールが入ってからのサポートに専念。その結果、前半途中からの攻勢につながっていた。

 また後半にはさらに改善を続け、林が最終ラインに下りて顔を出す場面が増えた。「最初は落ちないでやろうと話していたけど、後半からはテンポを作るために自分が落ちて、脇とかで引き出してやりたい思いで入った。うまくいった部分もあったし、それでボール回しもスムーズになった」。相手の前線2枚に対し、CB2枚と林でボールを回すことにより、不用意なボールロストはほとんどなくなった。

 そこからはボランチらしい配球も何度か見られた。「前をパッと見た時に出さないほうがいいかなというところで失った部分もあったので、判断を周りとも合わせていかないといけないけど、攻撃のスイッチが入った時の選択はよかった部分もあったと思う。後半はFWにつけるのか、中盤3枚の脇につけるかの判断は良かった」と手応えも得たようだ。

 そうした試行錯誤のプレータイムは後半25分で終了。鹿島時代は長期の負傷離脱が続いていたため、この日は約1年半ぶりとなる公式戦での先発機会とあり、コンディションにも配慮しての采配だった。

 林の感覚としては「90分やれるのかという不安要素はあったと思うけど、まだまだ出られるかなというのはあった」という。それでも十分な出場時間を経験できたことは大きな一歩。「ここからかなというところで代わって残念な気持ちはあるけど、最近は練習試合も含めて出場時間が伸びてきているので、もうそろそろ90分でも大丈夫じゃないかと思う」と前向きな展望も語った。

 このままボランチでのプレーを続けていくのであれば、この日出た課題を一つ一つ突き詰めていくのは不可欠。また持ち前の守備力に関しても「もっと圧倒しないといけない。セカンドボールをもっと拾えたシーンもあったし、取った後のボールをつなげたシーンもあったし、そもそも強く行って取り切るシーンをもっともっと増やせるはず。長所としても今日の試合では許されない。もっとやっていきたい」と満足しているわけではない。

 それでも再びJ1の舞台に返り咲くため、ボランチでのチャレンジを血肉としていく覚悟はできている。また新たなプレーの幅を広げていくにあたって、J2の舞台を最大限活用する心構えもできている。

「戦術的にボールをこう動かして、自分がこう動いて、このタイミングで入るという点ではJ2のクラブはしっかりやっているし、そこがいまの自分に足りない部分。ヴェルディは特にそこが上手いチームだし、自分がそれをできるようになったら、いっそう自分のプレーの幅も広がると思う。CBにも活きると思うので積極的に学ぶ姿勢を見せながらやっていきたい」

 所属元の鹿島ではセンターバックにDF昌子源、DF植田直通という強大な存在が加入してさらに競争が白熱し、守備的なボランチにも新加入MF佐野海舟が台頭。「鹿島の試合はいまも見ているし、鹿島で試合に出るためにもここに来たのが一つ理由でもある」という林にとって、目指すべきはレンタルバックの権利だけでなく、鹿島の基準でも通用するような存在になることだ。

「ここでなんとしても結果を出さないと、あの人たちと肩を並べられない。オーガナイズ、スペースへの入り方、ローテーションの関わり方など、いまのほうが質が高い部分もあると個人的には思っているので、ここでいまの鹿島の人たちにない強みも身につけて戦っていきたい」。覚悟のシーズンが始まった。

(取材・文 竹内達也)
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