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右SBで初先発、幻の初ゴール、後半への修正力…“特別な夜”過ごした19歳の横浜FM山根陸「継続することが大事」

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MF山根陸

[4.8 J1第7節 横浜FM 5-0 横浜FC 日産ス]

 横浜F・マリノスが期待を寄せる19歳の今季初先発機会は、本職のボランチではなく、負傷者続出で手薄となった右サイドバックで巡ってきた。そのうえ舞台は横浜FCとのダービーマッチ。「頭からSBで出るのは緊張感が強かった」。それでもMF山根陸は90分間にわたって安定感あるプレーを続け、5-0の完勝劇に大きく貢献した。

 2月下旬から3月中旬にかけてU-20日本代表の一員としてU20アジア杯に出場していたこともあり、今季のJ1開幕5試合では出番のなかった山根。レギュラー争いからはやや出遅れる形で3月26日のルヴァン杯鳥栖戦、今月1日のJ1第6節C大阪戦で途中出場し、同5日のルヴァン杯札幌戦で今季初先発にしてフル出場を果たすと、中2日で迎えたこの日もスターティングイレブンに名を連ねた。

 託された持ち場はDF小池龍太、DF松原健が負傷のため離脱し、直近の公式戦では特別指定選手のDF吉田真那斗(鹿屋体育大)、明治大卒ルーキーのDF木村卓斗が試されていた右SBのポジション。今季のプレシーズンキャンプでは左SBで長らくテストされていたこともあり、本職ではないながらも準備されていた起用だった。

 そんな山根は前半6分、開始早々にして“満点回答”とも言えるプレーを繰り出した。横浜FMは左サイドのやや内側寄りでDF永戸勝也がボールを受け、右の大外で待っていたMF水沼宏太へのサイドチェンジを通すと、すかさず山根は内側レーンにスプリント。水沼からの折り返しのパスを受け、迷わず右足を振り抜いた。

「あのシーンの前に宏太くんにいい展開でボールが行ったけど、前へのランニングのタイミングが遅れていて、それもあったので早めにスタートを切った。そこでフリーだなと思って宏太くんを呼んだら本当にいいボールをくれて、思い切って振ったらいいところに行ってくれた」。強烈なシュートはゴール左隅に一直線。プロ2年目で初めて味わったゴールの感触に、チームメートとともに喜びを爆発させた。

「ネットに入れた瞬間はマリノスで、日産スタジアムで、しかもダービーで先制点を取ることがすごく嬉しいし、興奮して、なんか変なところに走っちゃって……」

 ところがそこで無情な知らせが届いた。VARの介入の結果、永戸のパスを受けた水沼がオフサイドだったことが判明。山根のプロ初ゴールは幻のものとなったのだ。

 もっとも、その状況下でも冷静な姿勢は崩さなかった。「宏太くんがオフサイドになったけど、監督からもベンチに行った時にここからもう一度締め直せと言われたので、得点は取り消されても締め直そうという思いがあった。それとゴールは一応決めたので、気持ち的にも楽になった」。得点として数字に残すことはできなかったが、心の中にはたしかな手応えが残っているようだ。

 そうした手応えは、SBで出場することが想定された時点から積み上げてきた入念な準備の賜物でもあった。「試合までの時間にいろんな人とコミュニケーションを取って、頭が整理できたので、あとは思い切ってやるだけだなと。それが結果的にうまくいったんじゃないかなと思う」。縦関係を組む水沼に加え、本職の小池・松原からも積極的にアドバイスを求めていたのだという。

「宏太くんとは右サイドを一緒に組むので、宏太くんと自分の距離感だったり、ランニングのタイミング、スペースの入り方は綿密に話した。龍くん(小池)にはクロス対応のアドバイスを聞いたり、いい言葉をいっぱいもらった。逆サイドから上がった時にクリアの場所だったり、最悪自分がクリアできなくても、相手を自由うにさせなければそれもクリアだからと言ってもらった。健くん(松原)からは攻撃の部分でいつもどおりできるからと言ってもらえて落ち着いた」(山根)

 周囲とのコミュニケーションの練度は“幻の得点シーン”以外からも見て取れた。とくに顕著だったのは上手くいかないシーンとの向き合い方だ。この日の前半、横浜FMはビルドアップがうまくいかない時間帯が続き、横浜FCのカウンター攻撃を受ける場面が続発。山根は主に低い位置で組み立ての起点を担い、相手をいなすことまではできていたが、なかなかボールを前進させるには至らなかった。

 その点について山根は「何回か剥がせるシーンもあったし、宏太くんとか(アンデルソン・)ロペスを使いながら前に進めたシーンもあったのでそこはよかったけど、全体のポゼッションが停滞した時に距離感を変えたり、逆サイドにボールがある時に中に入るタイミングだったり、特に宏太くんに中に入れと言われて気づくシーンもあった。そういったところを自分から発することができれば良かった」と課題を口にする。

 とはいえ、課題への取り組みは試合中からしっかりと行っていた。「ハーフタイムに槙くん(畠中槙之輔)からもうちょっと高い位置を取ってもいいよと言われて、一本のパスで局面が変わる立ち位置を意識した。宏太くんも自分たちの距離を近くすればもうちょっとテンポが出ると話していた。全部が全部、前に行くと槙くんが困る部分もあるので、そこは自分の感覚を信じてポジションを取っていた」。事前のコミュニケーションが取れていたからこそ、ハーフタイムの限られた時間でも修正ができたのであろう。

 実際、後半からは山根がより高い位置を取れるようになり、得点シーンの数々でもボールに関与する姿が見られた。また後半途中からはトップ下、ボランチへの配置展開を指示され、1試合の中で3つのポジションも経験。「どこのポジションであれ、任せてもらったからには全力を出し切り、チームのために走ることは変わらない。マリノスのフットボールをする上で、どこのポジションも理解していることが大事」と意識していたとおりのプレーを90分間続けてみせた。

 試合後、ミックスゾーンに姿を現した山根は「今日の結果だけを見ると自信にはなるし、ルヴァンの札幌戦でも90分出て、今回もJリーグで90分間出られて自信になった」と控えめに手応えを口にした。それでもすぐに「ただ、この感触をいい形で継続することが大事」と冷静に語った。

 この日の対戦相手はJ2からの昇格組で、ここまで未勝利が続いている横浜FC。横浜FMはチーム全体のスキルで優位に立っており、本職ではないSBに懸念される1対1のバトルシーンも数えるほどだったこともあり、他のJ1クラブ相手にも今日のパフォーマンスが通用するとは考えていないようだ。

 またそもそも横浜FMはチーム内競争も激しく、このまま右SBのポジションが与えられ続けるかどうかも分からない。まずは「成長していく中でうまくいかないことも出てくると思うので、日々変わらないモチベーションで、監督もおっしゃっているように日々アップデートというか、今日いいプレーをしたからといってポジションがあるわけではないので、日常からしっかりやっていきたい」と意気込んでいる。

 だからこそ当面の間は本職のボランチを中心に、与えられたポジションで好パフォーマンスを続けていく構えだ。

「任されたポジションで出し切ることを意識しているし、(今日は)右SBを任せてもらったのでボランチでやっているリズムを作るところだったり、前でプレーするところは自分の特徴の中で監督にも求められていると思う。ポジションが変わっても自分の特徴は出していかないといけない。ボランチでもし任されたらいつも通り、練習からやっていることを出したい。両立というよりどこで出てもいいように準備しているし、レベルの高い選手と日々競っているので、プレータイムというか試合に出ることが貴重だし、喜びを噛み締めながらプレーしている」

 そうした言葉の数々からも伝わるように、ケヴィン・マスカット監督が「彼にとって特別な夜になった」と評したパフォーマンスにも慢心はない。クラブ期待の19歳は「まだ1試合やっただけ。感触は良かったけど、いざ違うシチュエーションで違う相手とやった時にどうかというのが大事だし、継続することが大事。今日は良かったけどもっともっと成長できると思うし、日々成長していきたいと思う」とさらなるレベルアップを誓い、鮮烈なインパクトを与えた日産スタジアムを後にした。

(取材・文 竹内達也)
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