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素質を見い出され、自信も芽生えたルーキーイヤー…京都DF福田心之助がJ1出場2戦目でプロ初ゴールも「責任を感じるゲームだった」

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京都サンガF.C.のDF福田心之助

[5.7 J1第12節 横浜FM 4-1 京都 日産ス]

「2失点目は自分のところで失ってしまって、ああいう失点を招いてしまった。3失点目は自分がヘディングでクリアできていれば防げていた。自分の責任を感じるゲームだった」。プロ初ゴールを決めた大卒ルーキーは試合後、自らが結果を出したことよりも、その後の失点で大敗した現実と向き合っていた。

 明治大から京都サンガF.C.に今季加入したDF福田心之助はこの日、悔しい途中交代となった2月18日の開幕節・鹿島戦(●1-2)以来、2か月半ぶりに先発出場を果たした。その間、ルヴァン杯ではピッチに立っていたものの、J1リーグでは一度も出番なし。ようやく待ち望んでいた出場機会で、横浜FM対策に伴う5-4-1布陣の右ウイングバックを任された。

 立ち上がりは上々だった。積極的な姿勢をいかんなく発揮し、対面のFWエウベルにプレッシャーをかけ続けると、攻撃ではアグレッシブな横浜FM守備陣の裏に照準を合わせた。チームは前半10分にセットプレーで失点したが、福田は前半21分にカットインからのシュートチャンスを創出。DF永戸勝也のブロックに弾かれはしたものの、攻撃参加の機会は自信となった。

「たぶん自分のところでもう一つチャンスが来るだろうなと思っていた」(福田)

 そんな思惑どおり、前半40分にビッグチャンスが訪れた。MF荒木大吾の高弾道のロングフィードが永戸のパスミスを誘い、MF川崎颯太のスルーパスで右サイドを攻め込むと、FW豊川雄太がスライディングで倒された際のこぼれ球に福田が反応。ペナルティエリア際から思い切って左足を振り抜いた。

「あそこは自分のシュートレンジだと思っていたし、練習していた位置でもあった。自信を持って思い切っていくだけだと思った」(福田)

 真っ直ぐな弾道で放たれたシュートはDFエドゥアルドのシュートブロックにも勢いを失わず、そのままゴールネットへ。「あまり得点をする選手ではないし、どちらかというとアシストするほう」という福田にとって、想像以上に早かったプロ初ゴールが決まった。

 チームにとっても大きく勇気づけられる同点ゴール。昨季のJリーグ王者とのアウェーゲームという難しい試合を1-1で折り返すことに成功した。ところが後半は一転、福田のそうした積極果敢な姿勢が、横浜FMの反撃を許すスキとなった。

 開始早々の4分、福田は相手のクリアを中盤中央まで出ていってカットしたが、素早く縦に出したパスが相手の足元へ。逆に自身の裏を使われ、FWエウベルにボールが渡り、カウンター攻撃を許した。その結果、FWヤン・マテウスにフリーでクロスを上げられ、DF麻田将吾のオウンゴールで失点。失点の起点は紛れもなく福田のミスだった。

 前に出ようという気持ちが裏目となってのミス。「前に前にと自分の中で焦っていた。いい形で奪えたなと思ったので、ここで1本つなげればという焦りがあった。それでボールの扱いがおろそかになってしまった。技術の部分でもそうだし、ゲームをどこまで俯瞰的に見られるかという自分の大きな課題が出た」。福田は責任を痛感するしかなかった。

 さらに福田は後半19分、MFマルコス・ジュニオールのクロスをクリアできず、FWヤン・マテウスに背中を取られた結果、3失点目にも関与。同28分にシステムが4-3-3に変更されるのに伴い、ピッチを離れる形となった。試合も1-4で敗戦。その結果が「自分の責任を感じるゲームだった」という言葉につながっていた。

■チョウ・キジェ監督の言葉
 試合後、開幕節以来11試合ぶりの先発起用に踏み切った京都のチョウ・キジェ監督に話を聞くと、福田のパフォーマンスについて次のような答えが返ってきた。

「素晴らしいシュートを入れて、良い部分もたくさん見えたが、やはり彼が乗り越えなければいけない課題も同時にあったと思う。ただ僕は彼を大卒1年目だからとか、出場機会のために出したわけではない。普段の練習を通じて、彼ならタスクを実行して、チームを上に持っていけるという確信があったから出した。その結果、彼のその足りないところは全世界、全国民にある意味で明らかになったところもあると思うが、いい部分もたくさん見えた」

「今日の試合が彼にとってリーグ戦2試合目で、鹿島にやられたところから彼のその経験をどう活かしていくかという点で、もしもっと早くこういう舞台でプレーすることを目標にして積み上げていれば、今日みたいなことは起こらなかったかもしれない。ただ、過去を嘆いていても仕方がない。鹿島の時に感じたもの、今日感じたものを積み上げれば、日本を代表するような選手になってくれるという期待もある。だからこそ、今日のことを、僕も彼も忘れてはいけない」

 そして指揮官は最後に付け加えた。「若いということはミスをする権利があるということではなく、そのミスにまっすぐ向き合って、次にまっすぐ持っていけるパワーを持っているということだと思う。そのことを選手と話しながら積み上げていきたい」。その前向きな“積み上げ”は、試合直後すぐにも行われていたようだ。

 監督会見後、ミックスゾーンに姿を見せた福田は「開幕戦ぶりにJリーグに出させていただいて、開幕戦での悔しさを晴らしたいと思っていたけど、強い気持ちで臨む中でもプレーの判断や基準、レベルをもう一つ上げないとまだまだ戦っていけない」と自身の立ち位置を見つめながら、指揮官から試合後に伝えられた言葉を自ら明かした。

「チョウ監督にも『やれる素質を持っているんだからあとはどう出すかで、出し方のところを考えてプレーを表現しろ』とさっき言われた。自分としてはこの浮き沈みがあったゲームがいい経験になった。でもいい経験で終わらせてはいけない。次にどういう形でチャンスが巡ってくるかわからないけど、この悔しさを晴らせるようにしたい」(福田)

■「自信」との向き合い方
 チョウ監督が会見で発していた「日本を代表するような選手になってくれるという期待もある」という言葉は、福田本人にも日々伝えられているものだという。そしてその言葉は、福田がプロ入りして以降、出場機会が限られている中でも、大きく背中を押すものとなっていた。

「正直、自分の中ではこれまでプロでやっていけるかどうかの自信がなかった。その自信を持てというのを常に言われてきて、最近ようやく徐々に自信を持つことができていた。あとはそれを表現するための練習量と、サッカーのどう取り組むかのところもそう。自分の中でまだまだやれることもあるし、やらないといけない。京都に来てチョウさんと会えたのは自分のサッカー人生にすごく大きな影響力があるし、チョウ監督がそう言ってくれている以上、そこを目指したいと思っている。そこに感謝しながら期待に応えていきたいと思っている」(福田)

 チョウ監督が述べた「もしもっと早くこういう舞台でプレーすることを目標にして積み上げていれば、今日みたいなことは起こらなかったかもしれない」という言葉は、福田がまだ自信を持つことができていなかった時期の姿勢を指していたのかもしれない。そうした働きかけの甲斐もあってか、福田自身は開幕戦を経てリーグ戦の出番から遠ざかっていた期間も、ひたむきにサッカーと向き合うことができていたようだ。

「自分の人生を考えると、ここまでうまく順調にやってきた人生ではなかった。コンサドーレではプロに上がれなかったし、挫折続きの人生のなかで、ああいう形で開幕戦に悔しい思いをして、これも一つ乗り越えないといけない壁だなといい意味で開き直れた」(福田)

「ルヴァン杯で試合感覚を掴んで行って、練習でも白井康介選手という本当に良いお手本がいて、練習でも常に背中を見ながら追い越してやるという強い気持ちを持ち続けていた。そこで自分の中で成長したという実感はあるし、チョウ監督もそれを見てくれていた。腐らずに向上心を持ってやれたことは良かったと思う」(福田)

■日々の取り組み、大学時代からの成長
 福田がその間にこだわっていたのは「サッカーにどれだけ没頭できるか」ということだった。「準備の段階もそうだし、1時間早くクラブハウスに行くとか、終わった後も誰よりもクラブハウスにいるとか、サッカーに対しての取り組み方を見つめ直すこと。そうすることで心の余裕が生まれてきたし、それがプレーに直結してきたのかなと思う」。長いキャリアを見据え、プロ選手として戦う土台を築いてきた。

 またそうした日々の取り組みをしている間には、共にJ1クラブに挑んだ同期の存在も刺激になっていた。

 明治大時代に両サイドバックを組んでいた横浜FCのDF林幸多郎は開幕こそ出遅れたものの、すでに左サイドバックのレギュラーに定着。チームは残留争いに巻き込まれているが、試合を経るごとに攻守の存在感は増すばかりで、福田を一歩リードするような活躍を見せている。

「メンバーを見ても常に出ているし、試合も時間があれば見ているけど、本当に“明治”をそのままやっているイメージ。自分もそうだけど、まずは明治で学んだものを全力で出す、その上でチームに求められることが大事だなと。直接話はしていないけど、本当に良いライバルであって仲間で、自分にとってすごくいい存在になっている」(福田)

 同期の活躍を目の当たりにしながら、自身が立ち返る場所も再確認できる機会となっているようだ。

 横浜FM戦では悔しさも味わった福田だが、大学時代からの成長は確かに感じている。「個人的な話をすると、大学の時にマリノスと練習試合をしたことがあって、何も手も足も出なくて、それくらいのイメージだった。でもこの半年ちょっとだけど、サンガに来てフィジカルもそうだし、サッカー観も考え方も変わった」。その“変化”はプロのメンタリティーを持った選手たちの中で揉まれたことで芽生えたという。

「自信しかないという選手の中に混じってやっていることが自分にとって力になっている。そのおかげで明治では『もし自分がやられたら……』という感情になることもあったけど、いまは今日のメンバーならDF井上(黎生人)選手、GK若原(智哉)選手がいるんだという心の余裕が多少は出てきている。今まで引っ張ってきたぶんの荷は解けてきた部分もあった」

 開幕節の鹿島戦と、この横浜FM戦と、J1リーグ2試合目にして濃密な経験を積んだ福田。これから再び出番から離れることになったとしても、この一戦がメンバー定着への契機となったとしても、この数カ月間の中で取り組んできたことを継続し、ひたむきに上を目指していくつもりだ。

「この時期にマリノスという良い相手と試合ができたのは自分にとってプラスになるし、これからどういうふうに使われることになっても、これまでやってきたことを貫きつつ、チョウ監督が言っていたように『もっと上を目指していける』という自信を持って、そこにどうトライして食らいついてやっていくかだと思う。サンガに来た時から『白井康介を抜く、レギュラーを獲る』という大きな目標のもとで来ている。まずはコンスタントにJリーグに絡めるようにやっていきたいです」

(取材・文 竹内達也)
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