VAR車両の手配ミスはなぜ起きたのか…Jリーグが経緯説明、再発防止策も公表
今月7日にデンカビッグスワンスタジアム(新潟市)で行われたJ1第12節のアルビレックス新潟対柏レイソル戦で、「車両の手配ミス」によってビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)システムを実施できなかった問題で、Jリーグは16日、都内のJFAハウスでメディアブリーフィングを行った。原因はスケジュールの確認漏れによるものだったといい、すでに再発防止策を講じていることを伝えた。
窪田慎二執行役員、樋口順也フットボール本部長の説明によると、車両の手配ミスは試合当日の午前7時半ごろに発覚。J1リーグ戦の試合会場ではVAR・AVARを担当する審判員が作業用のバンでビデオ確認を行っているが、通常キックオフ6時間半前までにスタジアムに到着するはずの機材搭載車両が当該時刻になっても到着しなかった。
日本のVARシステムは審判員の割り当てのみ日本サッカー協会(JFA)が行い、その他はJリーグが一括して管理するという仕組み。もっとも、その運用は国際基準に従い、VAR業務を専門に請け負うA社(社名非公表)に業務を委託している。またA社からドライバーを管理するB社(社名非公表)に車両運行が委託され、B社から各ドライバーに運転を依頼するという構造となっている。
今回の問題が起きたのは、B社とドライバーとの間の手配ミス。4月中旬、B社から担当ドライバーに対し、4月29日と5月7日のリーグ戦でのスケジュール確認を行った結果、ドライバーは4月29日の運行を了承したが、B社は5月7日のスケジュール確認も取れたと誤認識した。B社は5月3日、同7日に関する最終確認のメールをドライバーに送信し、そのメールには返信がなかったが、ドライバーへの再確認を行っていなかったという。
その結果、試合当日の早朝に車両がスタジアムに到着せず、トラブルが発覚。その段階でA社からB社に連絡すると、そもそも当該車両は車両拠点の東京から新潟に向かって運行されていなかったことが分かった。その後、A社からJリーグに連絡が入り、新潟対柏戦でのVAR運用に関する協議をスタート。JFAとともに対策を検討したが、ピッチ上での機材確認など試合2時間前までには準備を完了する必要があるため、車両を新たに派遣しても間に合わないとの判断に至り、VARを実施せずに試合を行うことを決めた。
VARを担当するはずだった審判員はJFAからの割り当てを受けて新潟に向かっていたため、協議の中では彼らをペナルティエリア脇の追加副審(AAR)に任命するという案も出た。しかしVARが導入されて以降、世界的にもAARが導入される試合が少なくなっており、専門のトレーニングも行っていなかったため、「AARを導入することで別の混乱をきたしてしまう可能性もあり得る」という判断で採用は見送られたという。
VARを実施せずに行われた試合は0-0のドロー。PKを巡る際どい場面はあったものの映像でも判断が難しく、VARがあれば判定が覆ったと断定できる事象ではないとみられたが、選手・スタッフへの心理的な影響はあったのは間違いない。樋口本部長は当該チームの関係者から「こうしたことを2度と起こしてほしくない」と伝えられたことを明かし、今回の問題点と再発防止策を次のように説明した。
▼問題点
①B社とドライバーのやり取りが1対1になっていたこと。
②管理会社Bとドライバーの確認フロー(日程確認、最終確認への返信等)が曖昧になっていたこと。
③Jリーグ・A社・B社の間での各種確認の徹底が不足していたこと。
④車両の移動開始のタイミングでの報告フローがなかったこと。
▼再発防止策
①B社とドライバーのやり取りにおいて、B社は必ず複数人が確認を行う。
②B社とドライバーの確認フロー(日程確認、最終確認への返信義務)を明確にする。また最終確認への返信についてA社にも確認を行う。
③Jリーグ、A社、B社との間でドライバー、移動スケジュールの確認を週次で実施する。
④車両の移動開始、完了のタイミングで報告を義務付ける。
こうした再発防止策はすでに直後のリーグ戦から開始済み。また車両はJ1リーグの1節試合数よりも1つ多い合計10台で運用しており、札幌、東京、大阪、福岡に拠点を分散して置いているが、遠方にあたる鹿嶋、新潟、名古屋、広島の会場には、これまで以上に前日移動の運用を行うよう働きかけているという。
また抜本的な再発防止策としては、VAR機材搭載車両と審判員を各地に派遣する日本のやり方ではなく、VAR機材と担当審判員を特定の施設に集めるセントラル方式も考えられる。しかし、Jリーグでは「常に検討しているが、各国によって様々な費用や品質が違っている状況。いまの日本でセントラル化するのは少し難しい状況」と樋口本部長。セントラル開催では各会場に専用の直通回線を引く必要があるため、費用面での課題があるようだ。
こうした再発防止策を講じても、VAR機材の不具合や、自然災害や事故などの影響で車両がスタジアムに到着できないケースも想定される。その場合も今回と同様、VARを実施せずに試合を行う方針。またもし試合中に機能が使用できなくなった場合は、ビデオ・マッチ・オフィシャル(VAR担当審判員)が判断し、主審が試合を止めて両チームやスタジアムで周知を行った上で、VARを一時停止して試合を再開する運用となる。
(取材・文 竹内達也)
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窪田慎二執行役員、樋口順也フットボール本部長の説明によると、車両の手配ミスは試合当日の午前7時半ごろに発覚。J1リーグ戦の試合会場ではVAR・AVARを担当する審判員が作業用のバンでビデオ確認を行っているが、通常キックオフ6時間半前までにスタジアムに到着するはずの機材搭載車両が当該時刻になっても到着しなかった。
日本のVARシステムは審判員の割り当てのみ日本サッカー協会(JFA)が行い、その他はJリーグが一括して管理するという仕組み。もっとも、その運用は国際基準に従い、VAR業務を専門に請け負うA社(社名非公表)に業務を委託している。またA社からドライバーを管理するB社(社名非公表)に車両運行が委託され、B社から各ドライバーに運転を依頼するという構造となっている。
今回の問題が起きたのは、B社とドライバーとの間の手配ミス。4月中旬、B社から担当ドライバーに対し、4月29日と5月7日のリーグ戦でのスケジュール確認を行った結果、ドライバーは4月29日の運行を了承したが、B社は5月7日のスケジュール確認も取れたと誤認識した。B社は5月3日、同7日に関する最終確認のメールをドライバーに送信し、そのメールには返信がなかったが、ドライバーへの再確認を行っていなかったという。
その結果、試合当日の早朝に車両がスタジアムに到着せず、トラブルが発覚。その段階でA社からB社に連絡すると、そもそも当該車両は車両拠点の東京から新潟に向かって運行されていなかったことが分かった。その後、A社からJリーグに連絡が入り、新潟対柏戦でのVAR運用に関する協議をスタート。JFAとともに対策を検討したが、ピッチ上での機材確認など試合2時間前までには準備を完了する必要があるため、車両を新たに派遣しても間に合わないとの判断に至り、VARを実施せずに試合を行うことを決めた。
VARを担当するはずだった審判員はJFAからの割り当てを受けて新潟に向かっていたため、協議の中では彼らをペナルティエリア脇の追加副審(AAR)に任命するという案も出た。しかしVARが導入されて以降、世界的にもAARが導入される試合が少なくなっており、専門のトレーニングも行っていなかったため、「AARを導入することで別の混乱をきたしてしまう可能性もあり得る」という判断で採用は見送られたという。
VARを実施せずに行われた試合は0-0のドロー。PKを巡る際どい場面はあったものの映像でも判断が難しく、VARがあれば判定が覆ったと断定できる事象ではないとみられたが、選手・スタッフへの心理的な影響はあったのは間違いない。樋口本部長は当該チームの関係者から「こうしたことを2度と起こしてほしくない」と伝えられたことを明かし、今回の問題点と再発防止策を次のように説明した。
▼問題点
①B社とドライバーのやり取りが1対1になっていたこと。
②管理会社Bとドライバーの確認フロー(日程確認、最終確認への返信等)が曖昧になっていたこと。
③Jリーグ・A社・B社の間での各種確認の徹底が不足していたこと。
④車両の移動開始のタイミングでの報告フローがなかったこと。
▼再発防止策
①B社とドライバーのやり取りにおいて、B社は必ず複数人が確認を行う。
②B社とドライバーの確認フロー(日程確認、最終確認への返信義務)を明確にする。また最終確認への返信についてA社にも確認を行う。
③Jリーグ、A社、B社との間でドライバー、移動スケジュールの確認を週次で実施する。
④車両の移動開始、完了のタイミングで報告を義務付ける。
こうした再発防止策はすでに直後のリーグ戦から開始済み。また車両はJ1リーグの1節試合数よりも1つ多い合計10台で運用しており、札幌、東京、大阪、福岡に拠点を分散して置いているが、遠方にあたる鹿嶋、新潟、名古屋、広島の会場には、これまで以上に前日移動の運用を行うよう働きかけているという。
また抜本的な再発防止策としては、VAR機材搭載車両と審判員を各地に派遣する日本のやり方ではなく、VAR機材と担当審判員を特定の施設に集めるセントラル方式も考えられる。しかし、Jリーグでは「常に検討しているが、各国によって様々な費用や品質が違っている状況。いまの日本でセントラル化するのは少し難しい状況」と樋口本部長。セントラル開催では各会場に専用の直通回線を引く必要があるため、費用面での課題があるようだ。
こうした再発防止策を講じても、VAR機材の不具合や、自然災害や事故などの影響で車両がスタジアムに到着できないケースも想定される。その場合も今回と同様、VARを実施せずに試合を行う方針。またもし試合中に機能が使用できなくなった場合は、ビデオ・マッチ・オフィシャル(VAR担当審判員)が判断し、主審が試合を止めて両チームやスタジアムで周知を行った上で、VARを一時停止して試合を再開する運用となる。
(取材・文 竹内達也)
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