大宮の19歳MF種田陽「NCAAの新人賞狙う」。J初、米国大学リーグ挑戦の理由
Jリーグから米国大学リーグNCAAへ。日本サッカー界で初の進路を歩む選手が現れた。J3大宮アルディージャに所属するMF種田陽だ。今春に高校を卒業したばかり。U-17日本代表の経歴を持つ19歳は、ルヴァン杯の岐阜戦で決勝ゴールを決めるなど活躍したが、6月1日開催のJ3第15節、長野戦をもって双方合意の上、契約を解除。種田は、米国NCAAのマーシャル大学へ進学する。今季のトップチーム昇格時点からの既定路線だったというが、前例のない挑戦だ。どのような思いで進路を選択したのか、何を目指すのか、話を聞いた。
―5月19日に米国行きが発表されました。既定路線でしたが、広く知られていたとは言い難く、周囲が驚いた部分もあったのでは?
「クラブの公式ファンブック等で米国の大学へ進む話が紹介されていたと思いますが、知らなかった方もいて、『なんで?』と聞かれるなど反響がありました」
―前例のない挑戦に対する不安は?
「もちろん、日本では考えられないようなことが、海外では起こり得るものだとは思います。でも、失敗を前提に動くと失敗すると思うので、やれるという可能性を信じて、結果を残すという気持ちで挑戦します。元々、自分は、緊張したり、ナーバスになったりするタイプではなくて、いろいろなことに挑戦したい思いを昔から持っているので、本当に、あまり不安は感じていません。だから、まだ誰もやったことがないことに挑戦するのも、良い道かなと考えています」
―高校卒業後の進路は、Jリーグと国内大学の二択で考えていたと思います。米国行きは、どのようにして選択肢に入ったのですか?
「元々、セカンドキャリアのことなども考えて、いきなりプロに進むより、大学に進んで(人生の)視野を広げた方が良いかなと考えている部分があって、トップ昇格を希望するか、大学に進むか迷っていました。そんなときに、エージェントの会社の方から米国の大学という進路を提案されたのですが、サッカーで海外に行くと言えば、欧州というイメージ。米国のサッカーの印象を持っていなかったので、自分が思い描く道から外れることになるのではないかと思いました。でも、海外は好きですし、話だけは聞いてみようと思ったのが、きっかけです。高校3年の夏に、一度、現地でトライアウトを受けたのですが、思ったよりもレベルが高く、環境もすごく良かったので、やってみたいと思いました」
―米国の大学サッカーの環境を、どのように感じたのですか?
「プロに近い環境ですね。最近、マーシャル大のクリス・グラッシー監督に話を聞いたら、30億円くらいかけて新しい専用スタジアムを建設する計画があると言っていて、驚きました。オンラインで紹介してもらったマーシャル大のジムも広くて、アルディージャのクラブハウスのジムの10倍くらいありそうでしたね。そんなに広くなくても良いですけど(笑)。トライアウトのときは、UCLA(カルフォルニア大学ロサンゼルス校)を見学させてもらいましたが、レアル・マドリーがキャンプを行ったというのも納得できるくらいに施設が充実していて綺麗でした。どこも大学自体が大きくて、キャンパス内を車で移動するし、大学が一つの町のような規模。大学内で衣食住のすべてが完結するのではないかと思いました」
―プレー面のレベル等は?
「僕のように海外から来ている選手もいるので、バルセロナのカンテラ(アカデミー)を経験している選手もいて、思っていたよりレベルは高かったです。現地で大学生や社会人との試合に参加しましたが、自分のドリブルは通用しましたし、生かしやすかったです。向こうは、運動能力の高い選手はいるけど、足下の技術は日本の方が高い印象。その点では、自分の特長は生きると思いました。トライアウトの時は、すごく調子が良くて、3試合で8点くらい決めたのですが、その場にスカウトに来ていた全部の大学からオファーをもらえました」
―その中から、2020年のNCAA王者であるマーシャル大を選んだ理由は?
「大学生として勉強もしなければいけません。まだ語学もままならない状況で、あまり学力が高い大学からスタートすると、サッカーが疎かになる可能性があって難しいと考えていました。トランスファーの制度があって、1年で違うカテゴリーの大学に移籍する選手や、学力の違う大学のチームに移籍する選手もいるみたいです。どこでスタートしようか迷っていましたが、日本で米国の関係者が見に来るトライアウトがもう一度あって、そこで別の選手を見に来ていたマーシャル大から声がかかりました。米国に行って、語学など勉強をして知見を広げたいという目的もあるのですが、まずは、サッカーのレベルを重視してマーシャル大を選びました」
―米国の大学リーグから、どのようなステップアップを考えていますか?
「NCAAからドラフトでMLS(メジャーリーグサッカー。米国1部に相当。近年は、アルゼンチン代表のリオネル・メッシや日本代表の主将を務めた吉田麻也らもプレー)に進む選手もいますし、MLS経由で欧州の5大リーグに進んでいる選手もいるようです。世界で活躍する道がないわけではないし、これからどんどん発展する可能性を持っていると感じる部分もあり、挑戦してみようと思っています。もちろん、まずは、マーシャル大学で活躍しないといけません。プロの世界もそうですけど、勝負の世界では結果が一番評価されるので、最初にインパクトを与えられるかどうかは大事。最初が勝負だと思って、しっかりと、自分の存在感を発揮したいです。海外では、日本よりも我の強い選手が多いんじゃないかと思いますけど、負ける気はないです。1年目からNCAAの新人賞を狙います」
―23年末までの時点で、米国の大学へ進むことが内定していたわけですが、渡米までの期間でアマチュア契約を結び、大宮のトップチームでプレーしている状況です。あまり例のない契約だと思いますが?
「原博実フットボール本部長から話をいただいたときは、驚きました。このクラブじゃなかったらあり得ない話じゃないかとも思います。アカデミーに所属していて、カテゴリー昇格の話を断るとなると、クラブで起用されなくなる可能性もあるのでは……と思っていたくらいなので。本当にありがたいというか、つくづく、良いクラブだなと思いました」
―ルヴァン杯ではプロの世界で初得点を挙げるなど、爪痕も残せたのでは?
「米国の大学に行くことが決まっているから、どんな活躍の程度でも問題ないと考えるのは、絶対にやめようと思っていました。練習から全力で臨んで、半年でも先発定着を狙おうと思ってやってきました。1点取っただけではクラブに対する恩返しをしきれないですけど、トーナメント戦でチームを1つ先に進めるゴールを決められたのは、良かったなとは思っています」
―トップチームで過ごした期間で感じた手応え、課題は?
「長所であるドリブルは通用すると感じていますが、ラストのシュートやパスの質、戦術理解、判断とプレーのスピードといった面では、経験を積みながら、もっと高めないといけないと感じています。(杉本)健勇君とか、日本代表を経験しているような選手と一緒にプレーする機会は、初めて。学ぶことが多くて、すごく楽しくて、この期間で一番成長できている実感があります。切り替えの速さや球際の強さで勝つのは前提ということをテツさん(長澤徹監督)からは当たり前のように求められていますし、そこで負けないことへの意識は、自分にとって刺激になっています」
―トップチームでプロの世界に足を踏み入れて半年弱。このまま、ここで……という気持ちになった部分は?
「うん……、そうですね。正直、ジュニア(現U12。種田は小学4年からアルディージャに所属)からずっといて、本当にお世話になっているクラブですし、このクラブを離れるという点は、米国行きを選ぶ過程で、一番悩んだ決断ではありました。でも、やっぱり、海外で自分がどこまでやれるのか、チャレンジしたい気持ちが強かったです。プロの世界に入って、手応えもありましたけど、まだまだだなと感じる部分も多く、別の環境で自分を磨きたいとも思いました」
―6月1日の試合でアルディージャを離れますが、そこからの具体的な予定は?
「6月の初旬からオンラインで準備段階の授業が始まって、7月中旬に渡米予定です。時間が足りないです。正式な入学とNCAAのシーズンインは9月ですが、サッカー部の活動は8月から始まると聞いています。まずは、英語の勉強ですね」
―日本での英語の成績は?
「良い方だとは思いますけど、日本の英語の授業は会話力は関係なくてライティングの問題ばかりじゃないですか。向こうに行ったら、ほとんど意味がないので、大変だなとは思っています。今も英会話の勉強をしていますが、難しくて、壁を感じています(笑)」
―NCAAのシーズンは、9~12月で短いですが、それ以外の期間は?
「シーズンオフは、セミプロとか社会人のチームで活動できるという話を聞いていますが、行ってみないと分からない部分もあります」
―6月からクラブを離れますが、応援してくれているファンやサポーターへの思いは?
「試合の時だけでなく、クラブハウスでの練習も含めて声をかけていただいて、良くしてもらっています。米国の大学に行くことが発表された後も『いつか帰って来て』とか、想像以上に温かく送り出してくれる、ありがたい言葉をもらっています。やっぱり、クラブに恩返しをすることが、サポーターの皆さんへの恩返しにも繋がると思っているので、いつかは、またこのクラブでプレーできたらいいなという思いもあります」
―「海外で大活躍している種田が帰って来るぞ」という形での帰還を期待しています。
「そうですね(笑)。そうなれるように、頑張ります!」
(取材・文 平野貴也)
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―5月19日に米国行きが発表されました。既定路線でしたが、広く知られていたとは言い難く、周囲が驚いた部分もあったのでは?
「クラブの公式ファンブック等で米国の大学へ進む話が紹介されていたと思いますが、知らなかった方もいて、『なんで?』と聞かれるなど反響がありました」
―前例のない挑戦に対する不安は?
「もちろん、日本では考えられないようなことが、海外では起こり得るものだとは思います。でも、失敗を前提に動くと失敗すると思うので、やれるという可能性を信じて、結果を残すという気持ちで挑戦します。元々、自分は、緊張したり、ナーバスになったりするタイプではなくて、いろいろなことに挑戦したい思いを昔から持っているので、本当に、あまり不安は感じていません。だから、まだ誰もやったことがないことに挑戦するのも、良い道かなと考えています」
―高校卒業後の進路は、Jリーグと国内大学の二択で考えていたと思います。米国行きは、どのようにして選択肢に入ったのですか?
「元々、セカンドキャリアのことなども考えて、いきなりプロに進むより、大学に進んで(人生の)視野を広げた方が良いかなと考えている部分があって、トップ昇格を希望するか、大学に進むか迷っていました。そんなときに、エージェントの会社の方から米国の大学という進路を提案されたのですが、サッカーで海外に行くと言えば、欧州というイメージ。米国のサッカーの印象を持っていなかったので、自分が思い描く道から外れることになるのではないかと思いました。でも、海外は好きですし、話だけは聞いてみようと思ったのが、きっかけです。高校3年の夏に、一度、現地でトライアウトを受けたのですが、思ったよりもレベルが高く、環境もすごく良かったので、やってみたいと思いました」
―米国の大学サッカーの環境を、どのように感じたのですか?
「プロに近い環境ですね。最近、マーシャル大のクリス・グラッシー監督に話を聞いたら、30億円くらいかけて新しい専用スタジアムを建設する計画があると言っていて、驚きました。オンラインで紹介してもらったマーシャル大のジムも広くて、アルディージャのクラブハウスのジムの10倍くらいありそうでしたね。そんなに広くなくても良いですけど(笑)。トライアウトのときは、UCLA(カルフォルニア大学ロサンゼルス校)を見学させてもらいましたが、レアル・マドリーがキャンプを行ったというのも納得できるくらいに施設が充実していて綺麗でした。どこも大学自体が大きくて、キャンパス内を車で移動するし、大学が一つの町のような規模。大学内で衣食住のすべてが完結するのではないかと思いました」
―プレー面のレベル等は?
「僕のように海外から来ている選手もいるので、バルセロナのカンテラ(アカデミー)を経験している選手もいて、思っていたよりレベルは高かったです。現地で大学生や社会人との試合に参加しましたが、自分のドリブルは通用しましたし、生かしやすかったです。向こうは、運動能力の高い選手はいるけど、足下の技術は日本の方が高い印象。その点では、自分の特長は生きると思いました。トライアウトの時は、すごく調子が良くて、3試合で8点くらい決めたのですが、その場にスカウトに来ていた全部の大学からオファーをもらえました」
―その中から、2020年のNCAA王者であるマーシャル大を選んだ理由は?
「大学生として勉強もしなければいけません。まだ語学もままならない状況で、あまり学力が高い大学からスタートすると、サッカーが疎かになる可能性があって難しいと考えていました。トランスファーの制度があって、1年で違うカテゴリーの大学に移籍する選手や、学力の違う大学のチームに移籍する選手もいるみたいです。どこでスタートしようか迷っていましたが、日本で米国の関係者が見に来るトライアウトがもう一度あって、そこで別の選手を見に来ていたマーシャル大から声がかかりました。米国に行って、語学など勉強をして知見を広げたいという目的もあるのですが、まずは、サッカーのレベルを重視してマーシャル大を選びました」
―米国の大学リーグから、どのようなステップアップを考えていますか?
「NCAAからドラフトでMLS(メジャーリーグサッカー。米国1部に相当。近年は、アルゼンチン代表のリオネル・メッシや日本代表の主将を務めた吉田麻也らもプレー)に進む選手もいますし、MLS経由で欧州の5大リーグに進んでいる選手もいるようです。世界で活躍する道がないわけではないし、これからどんどん発展する可能性を持っていると感じる部分もあり、挑戦してみようと思っています。もちろん、まずは、マーシャル大学で活躍しないといけません。プロの世界もそうですけど、勝負の世界では結果が一番評価されるので、最初にインパクトを与えられるかどうかは大事。最初が勝負だと思って、しっかりと、自分の存在感を発揮したいです。海外では、日本よりも我の強い選手が多いんじゃないかと思いますけど、負ける気はないです。1年目からNCAAの新人賞を狙います」
―23年末までの時点で、米国の大学へ進むことが内定していたわけですが、渡米までの期間でアマチュア契約を結び、大宮のトップチームでプレーしている状況です。あまり例のない契約だと思いますが?
「原博実フットボール本部長から話をいただいたときは、驚きました。このクラブじゃなかったらあり得ない話じゃないかとも思います。アカデミーに所属していて、カテゴリー昇格の話を断るとなると、クラブで起用されなくなる可能性もあるのでは……と思っていたくらいなので。本当にありがたいというか、つくづく、良いクラブだなと思いました」
―ルヴァン杯ではプロの世界で初得点を挙げるなど、爪痕も残せたのでは?
「米国の大学に行くことが決まっているから、どんな活躍の程度でも問題ないと考えるのは、絶対にやめようと思っていました。練習から全力で臨んで、半年でも先発定着を狙おうと思ってやってきました。1点取っただけではクラブに対する恩返しをしきれないですけど、トーナメント戦でチームを1つ先に進めるゴールを決められたのは、良かったなとは思っています」
―トップチームで過ごした期間で感じた手応え、課題は?
「長所であるドリブルは通用すると感じていますが、ラストのシュートやパスの質、戦術理解、判断とプレーのスピードといった面では、経験を積みながら、もっと高めないといけないと感じています。(杉本)健勇君とか、日本代表を経験しているような選手と一緒にプレーする機会は、初めて。学ぶことが多くて、すごく楽しくて、この期間で一番成長できている実感があります。切り替えの速さや球際の強さで勝つのは前提ということをテツさん(長澤徹監督)からは当たり前のように求められていますし、そこで負けないことへの意識は、自分にとって刺激になっています」
―トップチームでプロの世界に足を踏み入れて半年弱。このまま、ここで……という気持ちになった部分は?
「うん……、そうですね。正直、ジュニア(現U12。種田は小学4年からアルディージャに所属)からずっといて、本当にお世話になっているクラブですし、このクラブを離れるという点は、米国行きを選ぶ過程で、一番悩んだ決断ではありました。でも、やっぱり、海外で自分がどこまでやれるのか、チャレンジしたい気持ちが強かったです。プロの世界に入って、手応えもありましたけど、まだまだだなと感じる部分も多く、別の環境で自分を磨きたいとも思いました」
―6月1日の試合でアルディージャを離れますが、そこからの具体的な予定は?
「6月の初旬からオンラインで準備段階の授業が始まって、7月中旬に渡米予定です。時間が足りないです。正式な入学とNCAAのシーズンインは9月ですが、サッカー部の活動は8月から始まると聞いています。まずは、英語の勉強ですね」
―日本での英語の成績は?
「良い方だとは思いますけど、日本の英語の授業は会話力は関係なくてライティングの問題ばかりじゃないですか。向こうに行ったら、ほとんど意味がないので、大変だなとは思っています。今も英会話の勉強をしていますが、難しくて、壁を感じています(笑)」
―NCAAのシーズンは、9~12月で短いですが、それ以外の期間は?
「シーズンオフは、セミプロとか社会人のチームで活動できるという話を聞いていますが、行ってみないと分からない部分もあります」
―6月からクラブを離れますが、応援してくれているファンやサポーターへの思いは?
「試合の時だけでなく、クラブハウスでの練習も含めて声をかけていただいて、良くしてもらっています。米国の大学に行くことが発表された後も『いつか帰って来て』とか、想像以上に温かく送り出してくれる、ありがたい言葉をもらっています。やっぱり、クラブに恩返しをすることが、サポーターの皆さんへの恩返しにも繋がると思っているので、いつかは、またこのクラブでプレーできたらいいなという思いもあります」
―「海外で大活躍している種田が帰って来るぞ」という形での帰還を期待しています。
「そうですね(笑)。そうなれるように、頑張ります!」
(取材・文 平野貴也)
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