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[もうひとつの高校選手権・開幕直前]出場校紹介:東京都立永福学園

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ロングシュートを狙う永福学園・赤須主将(中央)は2大会ぶりの優勝に燃える

「もう1つ、メダルが欲しい」。王座奪回を目指す“ルーツ校”のプライド

 第4回全国知的障害特別支援学校高等部サッカー選手権「もうひとつの高校選手権」が16日に静岡県藤枝総合運動公園サッカー場で開幕する。ゲキサカでは本日から代表10校を紹介する。

 2大会前の全国制覇をピッチで味わった永福学園のFW赤須勝一郎主将は、再びあの歓喜の瞬間を味わうために、静かに闘志を燃やしている。

「優勝した年の全国大会は3試合とも試合に出られたのですが、優勝した直後は全国一のチームになった、という実感がわかなくて……。でも、少し日がたってから実感がわいてきました。その時のメダルは家に飾ってあります。できればもうひとつ、飾りたい。僕は前線のプレーヤーなので点をとってチームを楽にしてあげたいです」

 2大会前はルーキー、今年は主将。赤須の立場も変わり、いるメンバーも違う。

「高校からサッカーをはじめた生徒も多いので、トラップ、パスなど基本的なことを大事にして、試合のプレッシャーの中でもできるように心掛けています。ピッチが広いので、その中で自分がどこにいるかを言えるようになるために、しっかり声を出すことをウォーミングから徹底しています」

 1月のある日の練習場。ピッチ脇にいた末松龍元監督は具体的に声を出して指導する時間より、見守る時間の方が長かった。「ポジショニングも、こちらが指示を与えるのではなく、自分たちでいいポジショニングをとれるようにしてほしい。私が選手たちにすべてを指示できるわけではありませんので」

 中学までは大人から障がい者として守られがちだった生徒たちにあえて主体性を促し、まず自ら考えて行動することを促す。普通高校の生徒以上に指示を理解させることに時間とエネルギーがかかることを承知の上で、あえて「遠回り」の指導に挑むのは、サッカー部とは別の部で起きた、ある苦い教訓が背景にある。2017年8月、ペナルティーを与える形で約10km走ることを命じられた生徒が熱中症をおこし、意識不明の重体に陥り、メディアでも取り上げられた。三谷保・副校長がこうべを垂れてこう明かす。

「ペナルティを与える指導に対し、日本全国からおしかりをいただきました。とにかくヤラセの指導は絶対にやめようと。まずは生徒たちにしっかり理解させた上で指導することを徹底する原点に立ち返りました。ですからサッカー部も、言われたことをやるのではなく、自分たちで考えながらやってほしいんです」

 生徒に自覚を促し、見守る根気が求められる作業だが、生徒達は自発的に集合時間より早めに集まり、みんなで自主練習をする雰囲気が出てきているという。

 東京都で最初にできた特別支援学校就業技術科の“ルーツ校”の永福学園にとって、同じ東京代表の前回王者・志村学園にはライバル心がある。赤須主将が続ける。

「(志村学園には)日本代表に選ばれている石綿洵哉という選手がいますし、そういう相手にこのメンバーで勝てれば、自分たちがやってきたことの自信になります」
 
 赤須は東京都選抜チームで石綿としのぎを削る間柄で、石綿同様、日本代表になれる能力を秘めている。卒業後、調理関係の仕事に就くことが内定している赤須は将来、どれだけ腕を磨いても作ることができない「優勝の味」をもう一度味わいたい、と思っている。

(取材・文 林健太郎)

■学校紹介
 2007年(平成19年)、東京都で最初に創立された就業技術科の設置校。企業就労率は95%、企業就労者の定着率が91%と高い。卒業後の夏休みにOBを集め、仕事場での報告会をグループごとに行い、必要に応じて会社側へ連絡をとり、お互いの課題改善につとめるなど、丁寧にフォローする。
 事務・情報処理、ロジスティクス、ビルクリーニング、食品、福祉の各分野について1年時にはその基礎を全生徒が学習し、学年がすすむにつれて絞り込み、2年の後期から1つの分野を専門的に学ぶ。自分で時間を見て行動がとれるよう、チャイムは始業と終業のときしか鳴らない。授業後の部活動には全員が参加。クラスや授業のコースといった限られた範囲にとどまらず、様々な人とつながることを目的としている。
 数か月前から校内に目安箱を設置。いじめやその他のちょっとしたトラブルがあったとき、なかなか言いだせない生徒でも助けを求められるように置いた。訴えの中身は校長と副校長しか見ることが出来ない。

■校長
伏見明

■サッカー部監督、スタッフ
監督 末松龍元
スタッフ 高野英明、吉葉真暁、下畝地修、内藤慶一、林宏枝

■主将
赤須勝一郎(3年)

■予選成績(関東代表決定戦)
1回戦〇1-0山梨県立高等支援学校桃花台学園
決勝〇8-0茨城県立水戸高等特別支援学校

■過去の全国大会成績
第1回(2015年度)予選敗退
第2回(2016年度)優勝
第3回(2017年度)予選敗退

■出場選手登録一覧
Pos 名 前 学年
GK1丸陽孝(2年)
GK17張パウロ(2年)
DF2土屋友輝(2年)
DF3舩山唯我(2年)
DF4古田圭祐(2年)
DF7古川智洋(1年)
DF15成田考啓(2年)
DF18伊藤華維(2年)
MF5渡辺瑠希斗(3年)
MF6平野祐樹(2年)
MF8西巻悠梧(3年)
MF9松原匠(1年)
MF11福田和真(1年)
MF12酒井恵美(3年)
MF16白山陽向(1年)
FW10赤須勝一郎(3年)★
FW13野里安永(1年)
FW14依田康平(1年)
【注】番号は背番号、★は主将


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