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代表戦で9ゴール。「ブラインドサッカー界の澤穂希」菊島の進化を支える2つの特訓

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菊島(左から2人目)は試合後、カタリナ(右)と談笑した

[2.23 さいたま市ノーマライゼーションカップ2019 女子日本代表 10-0 IBSA世界選抜]

ブラインドサッカーの女子選手の強化と世界的普及を目指して開催された国際試合で、日本代表の16歳、菊島宙が離れ業をやってのけた。開始早々から積極果敢にシュートを放ち、前半6分の先制ゴールを皮切りに9分、13分といずれも右足でゴールを決めて、前半だけでハットトリック。後半もフル出場でないにも関わらず6点を奪い、トリプルハットトリックを達成。公式戦1試合のゴール数では昨年9月2日の東日本リーグ・Derrot Saber戦の7ゴールを越え、自身最多を更新してしまった。

「試合前は3点はとりたいと思っていました。自分がいないときにも他の選手がゴールをとれて、うれしかった。(報道陣から3倍ですが、の質問に)ウフフフ、とれました」

 相手の世界選抜は国単独では女子代表チームを作れない8か国13選手がこの試合のために集結。わずか2日間練習しただけの混成チームだった。コミュニケーションがとても大事なこの競技にあって、様々な言語が飛び交い、連携不足に陥ることは否めなかった。2017年、オーストリア・ウィーンで行われた国際試合でも対戦し、この試合でも菊島を厳しくマークし続けたドイツ人のカタリナ・クーンラインはこう評した。

「オーストリアで会った時から素晴らしい選手だと思っていた。まるで(技術も体格も備わった)男子選手のようだわ」

 試合後、肩を抱いて健闘を称えあった菊島も、自身の成長をこう明かす。

「カタリナさんと2017年、オーストリアで戦ったときは、当たられては転んで、転んで、転んで体力を消耗して、というのがありましたが、今回は踏ん張れてプレーを続けられてよかったです。(冴えた切り返しについて)たとえば相手が自分の左にいったら、相手の右足の全体に体重が乗り、そこからすぐに左に動けないので、そこら辺も意識しながら練習をずっとしてきました」

練習の成果。完全に相手の逆をついた。

 2つの特訓がある。毎週木曜日にジムで体幹トレーニングをマンツーマンで指導してもらい、カタリナのように頭2つ高い選手に当たられても簡単には吹き飛ばされない筋力がついた。さらに毎週月曜日は、約半年前から埼玉県サッカー協会として借りている体育館に出向き、父・充さんとシュート技術の向上につとめる。意図的に相手GKを動かして、動いた逆のコースにシュートを打つ練習を繰り返している。菊島は言う。

「代表の背番号10は、プレーが本当にうまい人でチームを勝たせられる人だと思います。(今背番号10の)男子の川村怜さんや今はつけていないかもしれませんが、日本代表の黒田先生(智成、菊島が通う八王子盲学校の教員)みたいな選手になりたい。今日の後半は相手が疲れていたときに点をとれた、というのがありました。次回はプレッシャーが強くても点を入れられるようにしたい」

 その「次回」はまだ何も決まっていない。パラリンピック競技は男子だけで、女子は正式種目に入っていない。ワールドカップもなく、世界と戦う目標が決めづらい中、父・充さんは菊島に「いつかあるパラリンピックのために頑張ろう。そのためにお前が女子のブラインドサッカーを引っ張るんだよ」と鼓舞しているという。ゴールの記録を塗り替え続ける菊島は、「パラリンピックの金メダル」という壮大な目標に向かって、走り続ける。

【女子日本代表選手】(8名)
GK1大作眞智子(埼玉T.Wings)
GK‐本多さかえ(―)★
FP5加賀美和子(buen cambio yokohama)
FP10菊島宙(埼玉T.Wings)
FP9工藤綾乃(Avanzareつくば)
FP8鈴木里佳(コルジャ仙台ブラインドサッカークラブ)
FP7竹内真子(兵庫サムライスターズ)
FP6橋口史織(ラッキーストライカーズ福岡)
【注】★本多はデフフットサル女子日本代表のタイ遠征に帯同したため不参加

(取材・文 林健太郎)

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