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[SEVENDAYS FOOTBALLDAY]:“15番”のチャレンジャー(関東一高・重田快)

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関東一高FW重田快。(写真協力=高校サッカー年鑑)

東京のユースサッカーの魅力、注目ポイントや国内外サッカーのトピックなどを紹介するコラム、「SEVENDAYS FOOTBALLDAY」

 まだ得点ボードを見る余裕はあった。スコアは0-0。時計の針は後半30分を過ぎている。「みんなの動きからしてPK戦になったら厳しいかなと思っていたので、ここで取るしかないなと思っていた」重田快に決定的なチャンスが訪れる。「何か落ち着いてましたね」と振り返ったシュートがゴールネットを揺らすと、気付けば“15番”は降りしきる雨の中で声援を送り続けていた応援団の元へ駆け出していた。

 昨シーズンから関東一高のトップチームでプレーしていた重田は、同校にとって全国初出場となった昨年末の高校選手権でも、途中から出場した開幕戦の野洲戦で、唯一のゴールとなったPKを獲得して勝利に貢献。今年2月のT1リーグ開幕戦でも“11番”を付けて2ゴール1アシストを記録するなど、新チームの主軸として活躍が期待されてきたが、ケガもあって3連覇の懸かった総体予選の準々決勝を欠場することになる。

 すると、その試合でトップチーム初ゴールを決めた2年生の池田健太が、準決勝、決勝と3試合連続ゴールを叩き出して、一気に定位置を確保。“18番”のユニフォームを渡され、ベンチから新“11番”の躍動する姿を見守るしかなかった重田は、「『自分がいなくても勝てるんじゃないかな』とか、そういう悔しい気持ちとかいろいろあった」という。

 全国総体を控えた7月10日のT1リーグ・帝京高戦。「結構感覚が戻ってきた感じで、練習でも自分の間合いがわかってきた感じだった」という重田は1ゴール1アシストをマークしたものの、背中に記されていたのは“18番”。本人に番号へのこだわりを聞くと、「“11番”は着けたいですけど、結果を出せば監督が付けさせてくれるかなという気持ちもあるので、本戦までにはという感じです。そこで“11番”を付けるには今日は点が欲しかったので」とのこと。7月20日のT1リーグ・実践学園高戦でも素晴らしいドリブルシュートを決めたが、その日は“15番”のユニフォームを纏っていた。

 自身の望む番号こそ取り戻せていない中でも、トップフォームがよみがえりつつあった重田は、全国総体に挑む17人のメンバー入りを果たす。以前、彼はこう話していた。「去年は3年生に引っ張ってもらって自分たちが気持ち良くできるみたいな感じだったんですけど、まだ自分はキャプテンの(小野)凌弥とかシノ(篠原友哉)に比べたら、去年から出させてもらっているのに中心になれていないと思っているので、もっともっとチームに必要とされる選手になっていかないとという気持ちですね」。もっともっとチームに必要とされる選手になるために。重田にとって勝負の大会が幕を開ける。

 全国総体1回戦。山形中央高戦。スタメンとしてピッチに歩みを進める重田の背中には“15番”が見えた。ただ、本人の中で3週間前まで頭の中にあった番号へのこだわりは、もうほとんどなくなっていたという。「メンバー入りさせてもらったので、そういう気持ちを捨てて、思いっきりやるしかないと思っていた」“15番”は、前半から得意のドリブルで仕掛ける姿勢を披露。小野貴裕監督も「今日の重田はほぼほぼ良かったですよね」と一定の評価を口にする。それでもチームは山形中央のシンプルなアタックに苦しめられ、特に後半は再三のピンチを2年生守護神の北村海チディがその度にファインセーブで凌ぐ展開に。なかなか決定的なチャンスが訪れない中で、冒頭のシーンがやってきた。

 スコアレスで迎えた後半32分。右サイドで小関陽星のパスを受けた山脇樺織は、アーリー気味にクロスを上げる。「時計を見て、30分を超えていたので、『何とかこの5分で入らないかな』と思っていて、自分もサイドハーフだったんですけど、クロスに飛び込もうと内側に入ってきた」重田の足元にボールが転がり込む。「1回トラップして打とうと思ったんですけど、ボールが高くて振れないなと思ったので」左足に持ち変える。周囲の動きもクリアに見えていた。降り抜いた左足に確かな感触が残る。イメージ通りのゴール。その1秒後。もう“15番”は「この雨の中でずっと声を出してくれていたので、決めたら行ってあげようと思っていた」応援団の方向へ全力で走り出していた。

 MVP級の活躍を見せた北村も「やっと決めてくれたかと思いました」と笑った重田のゴールはそのまま決勝点となり、劇的な勝利を収めた関東一は2回戦へと駒を進めることになった。試合後。“15番”という背番号について尋ねられた殊勲のスコアラーはこう話している。「今は逆に『自分は“チャレンジャー”かな』って想いがあって、去年も試合には出ていたんですけど、主力ではなかったですし、今年も自分のチームでもないですし、予選も出ていなかったので、やっぱり1人のチャレンジャーとして、全国は戦うだけだという気持ちです」。選手たちの背番号を決めている小野監督も、2年生から期待していた重田には、さらに一皮剥けて欲しいと切に願っている。そのためには、自らで切り拓かなくてはいけないものも当然あることは言うまでもない。この日のゴールは果たしてそのキッカケになるだろうか。

 2回戦の相手は神村学園高に決まった。「神村も代表に入っている選手や注目されている選手がいますし、そういう所を倒してこそ全国で名前が残ると思うので、勝つことしか考えていないです」と言い切った重田。一皮剥け掛けている“15番”のプレーが、関東一を2年ぶりの全国ベスト16へ、そしてさらにその先へと導く可能性を信じたくなるようなこの日の70分間だった。



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