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[SEVENDAYS FOOTBALLDAY]:6月の彗星(関東一高・池田健太)

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関東一高FW池田健太。写真は関東大会予選の駒澤大高戦

東京のユースサッカーの魅力、注目ポイントや国内外サッカーのトピックなどを紹介するコラム、「SEVENDAYS FOOTBALLDAY」

 ポツポツと言葉を紡いでいく寡黙なストライカーの声に、ほんの少しではあるが力が籠もった。「“アレ”を決めていたら大会的にもノッて、もっとゴールを決められたんじゃないかと思います」「“アレ”を決めていれば勝てた試合なので、自分のせいで負けたと思っています」。今でも思い出す、真夏に霞んだ2つの“アレ”。池田健太にとって2度目の全国大会は、あの忘れものを取り返しに行く舞台でもある。

 2017年6月。東京の総体予選準々決勝。3年連続での全国出場を目指す関東一高は、同じく前年度の代表校である東海大高輪台高と対峙する。拮抗した展開の中、後半21分に関東一の小野貴裕監督が1枚目のカードとして切ったのは、それまでほとんどトップチームでのプレー経験がなかったという池田。「南米の選手っぽいというか、トレーニングの中で上手い選手ではなくて、ゲームの中で生きるヤツだから、相手にしたら嫌かなって」という指揮官の思惑でピッチに解き放たれると、その16歳が試合を決める。

 スコアレスで迎えた後半37分。エリア内で味方のシュートがこぼれると、「ボールが来るかなぐらいの所に場所を取っていた」池田は誰よりも速く反応し、すかさずプッシュ。「スタンドかベンチのどっちかに行こうと思っていたんですけど、近かったので」走って行ったベンチの前に大きな歓喜の輪が広がる。これがそのまま決勝ゴールとなり、関東一は“3年連続”に王手を懸けた。

 背負っていた番号が20から11に変わり、スタメンに抜擢された準決勝の國學院久我山高戦でも主役の座をかっさらう。前半20分。左からのクロスに一度はヘディングを当て損ねたものの、素早くポジションを取り直した池田に今度は右からクロスが届く。DFともつれながら「『次は決める』って打った」シュートはゴールネットを揺らした。以降は相手の猛攻にさらされながらも、守備陣の奮闘もあって1点を守り切った関東一が勝利を収め、きっちり全国出場権を獲得。さらに、実践学園高との決勝でも得点を叩き出した池田は、準々決勝から数えて3戦連発という離れ業を達成し、一気にチームの主力としての地位を確立してしまう。

 宮城に乗り込んだ全国の晴れ舞台。初戦の山形中央高戦へ先発で送り込まれた池田に、チーム最初の決定機が到来する。前半16分。左サイドへと展開した流れから、グラウンダーのクロスが上がり、良い位置に走り込んだ11番はスライディングシュートを選択。しかし、ボールは枠の上へ逸れていく。後半7分に交替を命じられると、チームは1-0でしぶとく勝利を手繰り寄せたものの、チャンスを掴めなかったストライカーの名前は次戦以降のスターティングリストから消える。

 15年度、16年度と2年続けて敗退を突き付けられた市立船橋高に、“3度目の正直”を誓って挑んだ準々決勝。1点ビハインドの後半23分に投入された池田へ、その2分後にビッグチャンスが訪れる。チームメイトが繋いだボールを至近距離からシュートまで持ち込んだが、相手GKのビッグセーブに阻まれ、チームはそのまま“3度目の返り討ち”に。「アレを決めていたら大会的にもノッて、もっとゴールを決められたんじゃないかと思います」と振り返る山形中央戦の“アレ”と、「アレを決めていれば勝てた試合なので、自分のせいで負けたと思っています」という市立船橋戦の“アレ”。2つの“アレ”を真夏の宮城に残したまま、池田にとって初めての全国大会は苦い記憶を残して弾けた。

 暑い季節が過ぎ去っていくに連れ、6月に突如として煌めいた“彗星”の輝きは少しずつ色褪せ、スタメンはおろか、ベンチメンバーから外れることも増えていく。「あんな試合に出られなかったことは今までなかったので、初めて感じる悔しさでした」という時期を強いられた池田。東京予選を勝ち抜き、駒沢陸上競技場が会場となった高校選手権の開幕戦も、「多少自分でも『メンバーに入れるかな』と思っていた」中で、彼に与えられた役割は20人のメンバーから漏れた選手による入場行進。目の前で負けるチームを眺めることしかできなかった。起伏に富んだ2017年は、思い描いていた未来と乖離したままでその幕が下りていく。

「3年生なので責任を持ってプレーしたい」と意気込む高校最後の1年がやってくる。3月15日。新チーム最初の公式戦はT1(東京都1部)リーグ。帝京高を相手にようやくストライカーの本能が蘇る。前半15分。山脇樺織がディフェンスラインの裏へフィードを落とすと、エリア内で粘って収めた池田は、飛び出したGKをかわして、無人のゴールへボールを流し込む。「なんかみんな呼んでたんで、行った方がいいかなと思って」と照れ笑いを浮かべながら、チームメイトと喜びを分かち合ったゴールは、公式戦で考えれば総体予選の決勝以来となる約9か月ぶりの一撃。1-0でリーグ開幕戦は白星発進。個人としてもチームとしても幸先良いスタートを切った。

 ところが、関東大会予選では初戦の江北高戦こそ2ゴールを決めた池田だったが、そこからのシュートはDFのブロックやクロスバーに嫌われ、得点を挙げることができない。チームは優勝を勝ち獲ったものの、結果に恵まれないフォワードの悩みは深まる。そして6月。都内4連覇に挑む総体予選。関東一の初戦となった準々決勝のピッチにもベンチにも、11番を背負っていたストライカーの姿はない。「普通にベンチ外になっちゃって応援していました」と苦笑する池田。仲間の奮闘する姿に感銘は受けたものの、言うまでもなく悔しさは募る。ちょうど1年前に輝きを放った“彗星”は幻だったのだろうか。

 6月23日。全国への切符を巡る準決勝。東京朝鮮高戦のピッチには、背中に13の数字を付けた池田が試合開始から立っていた。先制を許しながらも追い付く展開の中で、前半38分に“13番”が裏へと走る。「目が合って、『来るな』と思った」場所に小関陽星がスルーパスを通すと、フリーで抜け出した池田はGKとの1対1も冷静に一刺し。これで“総体予選”に限れば4戦連発。前半の内に同点にされるも、後半31分には横山慎也の勝ち越しゴールを演出し、1ゴール1アシストを記録。『6月の彗星』に再び輝きが戻ってくる。

 ゲームは後半アディショナルタイムに東京朝鮮が同点ゴールを奪い、延長戦でも決着は付かず、7人目までもつれ込んだPK戦の末に、関東一が4年連続となる全国へと勝ち上がる。気になったのは延長終了時までプレーした池田が7人目までに登場しなかったこと。そのことを尋ねると「前日練習でPKを外していて、それが原因で蹴らせてもらえなかったんだと思います。まあ『自分が決めて勝てたら』と思っていたんですけど、チームが勝てたのでホッとしました」と少し笑ってみせる。

 決勝の相手は國學院久我山。ここでも池田は先制点の流れに絡むと、前半27分には金子直樹とのワンツーを経て、エリア右から強烈なシュートをニアサイドに叩き込む。「直樹とはやりやすいので、そのままワンツーして抜けて、“バチコン”って(笑) 気持ち良かったです」。まさに“バチコン”という表現がしっくりくる豪快なパワーショット。迷いのないフィニッシュへの意欲が、ゴールと笑顔の点を結んだ。

 後半早々の3点目もポストプレーで基点を創出。終盤に2点を返され、最後は薄氷の勝利となったものの、圧巻の都内4連覇を見事に成し遂げた関東一。その陰には出場した試合では驚異の5戦連発となり、総体予選との好相性を問われて「ちょっと感じますね。理由はわからないですけど(笑)」と語った『6月の彗星』の存在があったことに、疑いの余地はないだろう。

 2度目となる全国大会は、今後の自身を鑑みても今まで以上に勝負のステージになる。「『本選もゴールを量産できたらいいな』と思っていたんですけど、全国と東京では全然レベルが違って、そこでやっと自分が情けないというか、そういう現実を思い知らされました」という過去は1年前のこと。そこからの確かな成長を披露するため、努力を積み重ねてきた。

「今年の目標はみんなで日本一と決めているので、まずは決勝まで行けたらいいなと思います」とチームのことに触れた後、自らの覚悟も口を衝く。「去年は初戦で決めていればトントントンと行けていたのかなと思うんですけど、そうならなかったですし、市船戦でもチャンスを外して負けているので、今年も市船とできたら『リベンジしたいな』と思っていますし、1試合1点というのを目標に、チームに貢献できるように頑張っていきたいです」。

 2年に渡って結果を残し続けてきた総体予選の活躍も、全国での飛躍があってこそより意味を持つことは、誰よりも自分がよくわかっている。『6月の彗星』から『8月の彗星』へ。決して饒舌ではなく、決して迎合することのない寡黙なストライカーが、真夏の三重で6月の殻を破り、1年前に置き忘れてきた2つの“アレ”を払拭する8月を迎えられるか否かは、さらなるステップアップを期す関東一の浮沈を間違いなく握っている。


■執筆者紹介:
土屋雅史
「(株)ジェイ・スポーツに勤務。群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」


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