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[MOM3467]大成GKバーンズ・アントン(3年)_「オレの日」と確信して好守連発!仲間の想いを背負える守護神は強い

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大成高のGKバーンズ・アントン(左)とGK永田陸はPK戦前にいつもの“儀式”

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[5.30 インターハイ東京都予選二次トーナメント2回戦 大成高 0-0 PK4-2 関東一高]

「バーンズが今日は“シールド”を張ってくれていたので」。豊島裕介監督は独特の表現で、チームの守護神を称える言葉を口にする。確かにこの男がゴール前に張り巡らせている“シールド”を破るのは、至難の業。「今日はアップから超集中できていて、もう『オレの日だな』ってずっと言っていました」。FC町田ゼルビアへの加入が内定している逸材。大成高のGKバーンズ・アントン(3年=FCトリプレッタJY出身)の『オレの日』が、チームを東京8強へ逞しく導いた。

 まず、声がまったく途切れない。延長も合わせた100分間。大成の最後尾からは、ずっとバーンズの声が響き渡っている。「一言でもチームメイトがパッと感覚でわかるような感じで、声を出していますね。そこはだいぶ変わったなと思います。試合のビデオを見返しても、ずっと自分の声が聞こえていたりするので(笑)」。コーチングも、味方への鼓舞も、常に的確なタイミングで、的確な言葉で、発せられているのが印象に残る。

 そして、ゴールなんて奪わせないというオーラを漂わせている。この関東一高戦でも、少なくとも2度に渡って相手アタッカーと1対1になる絶体絶命のピンチがあったが、「1個目のヤツは練習からいつも先に動いたら、ピントさん(ノグチピントエリキソンGKコーチ)に怒られるので、『我慢、我慢』というのはずっと意識してやっていたら止められて、2個目のヤツは浮いていたボールだったので、『あとワンタッチしたら前に出よう』と思って、ちょうどそれが当たってという感じです」と自ら振り返る完璧なセーブで、チームを救う。

 圧巻はPK戦。相手の2人目のキックを、完全に読み切ってストップしてみせる。「今日は勝つなと思って、絶対的な自信がありましたし、タイミングもバッチリだったので、狙い通りでした」。その瞬間。ピッチにバーンズの咆哮が轟き、チームメイトも絶叫する。「もう今日は抜群だったんじゃないでしょうか」と豊島監督。まさに守護神と呼ぶにふさわしい活躍で、チームとともに準々決勝への進出権を力強く勝ち獲った。

 今大会はGK永田陸(3年)とバーンズが交互に起用されている大成。さらに、この日もベンチ入りしていたGK小山飛来(3年)も含め、3人の3年生GKたちはいずれ劣らぬ実力者だが、それぞれがその時にできることへ全力で向き合っている。

「飛来も2年前の関東予選で決定戦まで行っている経験もありますし、永田も去年の選手権予選で決勝まで行っていますし、みんな試合をちゃんと経験しているからこそできることなのかなと思っていて、やっぱり試合に出ている人はベンチから声が欲しいなと思いますし、そういうのをやってくれているのは本当に感謝しかないですね」。この日もベンチからは永田と小山が、常にピッチへ向けて声を掛け続けていた。

 今大会の一次トーナメント初戦は、バーンズがU-18日本代表候補合宿で不在。永田がスタメンに指名される。「普段の試合前にもアイツが出る時は『早く寝ろよ』みたいな感じでLINEを入れたりしますし(笑)、自分が代表候補の合宿に行っていた時の試合は、前日に電話して、試合前にLINEして、緊張を少し和らげるようなことはしました」。その甲斐もあってか、チームも見事に初戦突破を果たした。

 そんな永田との間には、ある“儀式”が行われている。「今年からなんですけど、1回アレをやってからどっちも試合になると調子がいいみたいな感じだったので、続けていますね」。キックオフの前。延長戦の前。PK戦の前。地面を叩き、お互いに手を合わせ、大声で叫ぶ。その後ろでは小山も声を出している。同い年が3人揃ったGK陣の結束は、とにかく固い。

 インターハイには2つの対照的な思い出がある。1つは大成での公式戦デビューとなった、2年前の東京都予選準決勝。帝京高との大一番でスタメンに抜擢されたバーンズは、相手の攻撃を1失点に抑え込み、PK戦の末に勝利。同校初の全国切符獲得の瞬間を、ピッチで経験した。

 もう1つは、先輩たちと臨んだ全国の舞台。初戦の名経大高蔵高(愛知)戦は3本のシュートで2点を奪われ、チームも1-2で惜敗。バーンズの心の中には、忘れ得ない悔しさが刻まれた。

 ただ、良いことも悪いことも、過去は過去と割り切るだけのメンタルが、この男には備わっている。「リベンジの想いも多少ありますけど、過去のことは過去なので、それはもう振り返らずに、今いる選手たちで全力で戦って、もちろん常に一番を目指していきたいと思います」。精悍さを増した表情が、一層引き締まって見えた。

「好きなキーパーはアリソン・ベッカーなんですけど、やっぱり自分が目指しているのはオリバー・カーンみたいなキーパーで、チームを声で勢い付けられるようなキーパーは凄いなと思っているので、そういう存在を目指しています」。

 この17歳のゴールキーパーには、今だから出せる若さあふれるエネルギーと、味方の想いを自らのプレーに投影できるポジティブなメンタルが、絶妙の配分でブレンドされている。アリソン・ベッカーにも、オリバー・カーンにも見えてくる圧倒的な守護神。バーンズ・アントンが大成を再び全国の舞台へ導く可能性は、決して低くない。

(取材・文 土屋雅史)
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