beacon

桐生一との激闘はPK戦で決着。前橋育英はライバルの想いも背負い、真夏の日本一だけを見据える

このエントリーをはてなブックマークに追加

群馬を制した前橋育英高は、全員で“タイガーポーズ”!

[6.20 インターハイ群馬県予選決勝 前橋育英高 0-0(PK3-1) 桐生一高]

 全国大会出場を懸けた決勝で、両雄が兵刃を交えるのは、実に今回で14回目。常に拮抗したハイレベルな戦いが繰り広げられる『新・群馬クラシコ』は、いつにも増した高い緊張感の中で、どちらも強烈な意地の張り合いを100分間とPK戦で披露してくれた。「やっぱり桐一のことは意識しますし、緊張するというよりは、いつもと違う雰囲気があって、よくコーチに『全国よりも群馬県を勝ち抜く方が厳しい』みたいに言われるんですけど、本当にそう思います」(笠柳翼)。20日、インターハイ群馬県予選決勝、前橋育英高桐生一高の頂上対決は、お互いにチャンスを作り合いながら得点を奪えず、0-0でもつれ込んだPK戦を前橋育英が粘り強く制して、4大会連続17回目のインターハイ出場を決めている。

 ファーストシュートは3分の前橋育英。セットプレーの流れから、DF徳永崇人(3年)のヘディングは枠を襲うも、桐生一のGK竹田大希(3年)がファインセーブ。桐生一も6分には、DF倉上忍(3年)の右CKから、MF小林凌大(3年)のシュートは枠を越えたが、お互いにセットプレーからゴールを窺い合う。

 15分過ぎに動いたのは桐生一。左SHに入っていたエースのFW寶船月斗(3年)と、右SHのFW関根大就(3年)を入れ替え、サイドの推進力に変化を加える。すると、前橋育英の山田耕介監督も「寶船が右に行っても、左に行っても、一真が付くことになっていたので、『どこまでも付いていけ』と話していました」と、右SBのDF岡本一真(3年)と左SBのDF岩立祥汰(3年)の左右を入れ替え、岡本の“寶船封じ”を徹底する。

 それでも、19分には寶船が右サイドを単騎でぶち抜き、強烈なシュートをサイドネットの外側へグサリ。25分にも今度は左サイドを運んだ小林のシュートは、クロスバーにヒット。34分にもキャプテンのMF金沢康太(3年)のパスから、寶船が狙ったシュートは岡本がきっちりブロックしたものの、ほとんど五分に近い展開の中でも、やや桐生一が手数を出して、最初の40分間は終了した。

 やり合う両者。後半7分は前橋育英。左サイドを完全に崩し、岩立のクロスはフリーのFW守屋練太郎(3年)に届くも、左足シュートは枠の上へ。11分も前橋育英。「前半はあまり良いリズムを作らせてもらえなくて、ボールもなかなかもらえない状況だったんですけど、後半からはボールを引き出せるようになりました」と話すU-18日本代表候補のMF笠柳翼(3年)が放ったシュートはバーを叩き、守屋がこぼれを押し込むも、桐生一のCB椋野眞登(3年)が間一髪でブロック。ゴールラインは割らせない。

 20分はスリリングな攻防。笠柳が得意のドリブルでチャンスを生み出し、後半から投入されたFW高足善(2年)とMF若林大翔(3年)が続けてシュートを打ち込むと、どちらも桐生一のディフェンスは複数人で決死のブロック。「最後は本当に1人、2人抜いても全員来るみたいな感じで、本当にプレッシャーが凄かったです」と笠柳も舌を巻く執念で、ピンチを凌ぐ。

 37分は桐生一に絶好の先制機。右から途中出場のMF原嶋飛翔(3年)がロングスローを投げ入れ、ニアでDF丸山琉空(3年)がすらしたボールを、MF浅田陽太(3年)が右足で叩くも、軌道はクロスバーをかすめて枠外へ。40分は前橋育英。笠柳が驚異的な突破で3人を剥がし、中央へ上げたグラウンダーのクロスはFW本間士悠(3年)もわずかに届かず。「決勝は絶対に1点差。『最後の最後まで勝負はわからないよ』という話をしていました」(山田監督)。白熱の80分間ではお互いにゴールは生まれず、前後半10分ずつの延長戦へ突入する。

 前橋育英の決定機は延長前半7分。「キックには自信があります」と語る岩立のFKから、キャプテンのCB桑子流空(3年)が合わせた完璧なヘディングは、竹田が凄まじい反応で掻き出し、詰めた岡本のシュートはDFが何とかブロック。10+3分にもやはり岩立の右FKを、徳永がヘディングで枠へ収めるも、竹田が仁王立ち。続く0-0の均衡。両者ともに体力と神経をすり減らしながら、たった1枚の全国切符を巡って、120パーセントの意地をぶつけ合う。

 桐生一は延長に投入された選手が、体調不良でプレー続行が難しい状況に。既に交代枠を使い切っていたため、10人での戦いを余儀なくされるも、すぐにベンチは4-4-1でワンチャンスを狙う戦い方にシフト。押し切りたい前橋育英は延長後半5分にもMF渡邊亮平(3年)が決定的なシュートを打つも、竹田が気合のビッグセーブ。「桐一のゴール前で身体を張るシュートブロックは凄かったですね。執念を感じました。こういう時は入らないんだろうなって」(山田監督)。100分間を終えて、決着付かず。群馬の覇権の行方はPK戦に委ねられた。

 先攻の桐生一は、1人目が枠を外し、2人目のキックは左ポストを直撃。後攻の前橋育英は、1人目こそ主役級の活躍を続けた竹田のセーブに阻まれたが、2人目は成功。両チームとも3人目はきっちり沈めて、2-1で4人目のキッカーを迎える。

 タイガー軍団の守護神が吠える。桐生一の4人目。「雰囲気とセットの仕方で、右だと思いました」という前橋育英のGK渡部堅蔵(3年)は、読み通りに右へ向かってきたボールに飛び付き、完璧なストップ。雄叫びがフィールドにこだまする。前橋育英4人目は桑子。短い助走から、蹴り込んだボールがゴールネットを揺らして勝負あり。前橋育英がPK戦を粘り強く制して、17度目となる夏の群馬の頂点に立った。

 勝った前橋育英の選手にも、負けた桐生一の選手にも、涙を流す選手が複数いるような、頂上決戦にふさわしい、まさに激闘。今シーズンの直接対決はこれが3回目であり、4月のプリンスリーグ関東第2節では桐生一が1-0で勝利を収め、関東大会予選に当たる5月の県総体決勝では前橋育英が2-1とリベンジ。「毎年毎年3回も4回も対戦して、必ず1点差ですからね」という山田監督の言葉通り、今回も1点を争う好ゲームに。そのレベルは、会場が年始の埼玉スタジアム2002でもおかしくないようなものだった。

「自分たちは宿舎のスリッパを綺麗に並べるとか、そういう所からしっかりやろうとこだわってきました。そういうことをみんなでやれたことが、こういう最後の細かい所を詰めるべき所で、勝てた理由かなと思います」とは笠柳。それは桐生一が、細かい所をおろそかにしてきたということでは、決してない。前橋育英のエースがそこに勝敗の要因を見出すほどに、ピッチの上の両者に差はなかったということだろう。

 山田監督は、いつも通り環境への感謝を口にした。「全国に出られて真剣勝負をやれるということは本当にありがたくて、福井県で開催されることは本当に嬉しいですね。去年はそれがなかったですから。無観客でもやっていただければ『ありがとうございます』と。本当にありがたいですね」。

「結果にはこだわって、日本一を獲ります」(渡部)「自分たちにできるサッカーを表現して、優勝を狙ってやっていきたいです」(岩立)「全国で見ても育英はメンバー的にも良いチームだと思うので、みんなで掲げてきている日本一を目指してやっていきたいと思います」(笠柳)。群馬の覇者は、日本一を目指す義務がある。戴冠を見据える上州のタイガー軍団を、真夏の福井が待っている。

(取材・文 土屋雅史)
▼関連リンク

●【特設】高校総体2021

TOP