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[MOM3506]正智深谷FW山口陽生(3年)_“梶谷先輩”の助言も得たノーゴールのストライカーが、40mロングで優勝決定弾!

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正智深谷高のストライカー、FW山口陽生は40mロングで決勝弾!

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[6.23 インターハイ埼玉県予選決勝 正智深谷高 1-0 武南高]

 ストライカーは悩んでいた。チームが勢いに乗って決勝まで勝ち上がっていく中で、自身はゴールを奪えない。だが、この男は、持っていた。「自分はまだこの大会で1点も決められていなかったので、『ここで決めたいな』という想いはありましたし、この試合に懸けていました。この舞台に立ってゴールを決められたのは嬉しいですし、チームとしても結果が出たので良かったと思います」。正智深谷高を全国へと導いた決勝弾はスーペルゴラッソ。FW山口陽生(3年=ACアスミ出身)は、持っていた。

 埼玉の覇権を巡るファイナル。武南高と対峙した一戦は、序盤から正智深谷が相手の攻撃にさらされる展開に。前線で待つ山口にも、なかなか良い形でボールが入ってこない。ただ、一度だけ“予感”はあった。「自分がボールを持って前を向いたら、絶対にキーバーは前に出ていたので、1回目はそれでシュートを打とうとしたんですけど、やっぱりキツいなと感じてやめたんです」。
 
 前半24分。ハーフウェーライン付近で、山口はボールを受けると、素早く前を向く。広がっていたのは、さっきと同じ光景。今度は躊躇しない。「トラップしてすぐ前を向いたらキーパーが出ていたので、打っちゃいました」。距離にして約40メートル。右足から放たれた軌道は、GKの頭上を越えて、そのままゴールネットへ飛び込んでいく。

「『本当に入ったのかな?』と思って、二度見しちゃいました(笑)。バックスピンを掛けて狙う感じで打ちました。イメージ通りです」(山口)。小島時和監督も思わず笑って振り返る。「彼はエースとして見ているんですけど、ここまで1点も獲れていなかったので、練習でも『ハルキの番かな』とは言っていて。見事でしたね。『ここ一番の時に点を獲るのがエースだから、オマエのステージはできたんじゃないか』という話はしたんですけど、良く獲ってくれました」。

 結果的に、このロングシュートからのゴールが決勝点に。「監督からは期待されていて、『次は決めろよ』とずっと言われていたんですけど、期待に応えられていなかったので、今回で応えることができました」。5試合連続での“ウノゼロ”勝利という凄まじい記録の、大トリを飾る最後の1点は、エースの右足から生み出された。

 去年までは「一番下のチームでやっていた」という。2年前のインターハイ予選。正智深谷が昌平高を3-0で下した一戦では、1年生だった山口の居場所はピッチでも、ベンチでもなかった。「ボールボーイです。隣に土のグラウンドがあって、そこで座っていました。ベンチにもみんながいるので全然試合が見えなくて、歓声で『え?入ったの?』みたいな感じでした」。

 2年に進級すると、すぐにコロナ過に見舞われるも、準備は怠っていなかった。「自粛期間に筋トレを頑張りました。あと、自分は地元でサッカーをしている仲間がいっぱいいるので、一緒に毎日ボールを蹴って、コロナが収まって練習できるようになってもいいように、準備はしていました」。少しずつ自分の学年の試合には出番をもらえるようになっていくと、ようやくチャンスが訪れる。

「代が変わって新チームになった時に、“入れ替え戦”みたいなのをやって、そこで金井さん(金井豊コーチ)の目に留まって、そこから試合に出させてもらうことになりました。自分は前からプレスに行けますし、運動量もあるので、そういうダイナミックなプレーが目に留まったのかなと思います」。今は指揮官も認めるエースとして、正智深谷を前線で牽引している。

 “先輩”の指導を仰いだことも、成長に繋がっているという。教育実習で母校に帰ってきた、サガン鳥栖加入内定の梶谷政仁(国士舘大)から、貴重なアドバイスを得ることができた。「裏の抜け出しでも、最初にディフェンスの後ろに立って、二歩下がってから裏に出るみたいな、そういう細かい所までしっかり教えてくださいましたし、ACアスミの先輩でもあるので、とても信用できるなと思いました」。

「あとは、『自分がエースとして決めてやるぞ、という心は絶対に持て』と。『自分で試合を決められるような選手になれ』というのは言われました」。まさにそのアドバイス通り、エースとして、自分で試合を決め切ったストライカーは、“先輩”にこの日の成果を報告する義務がありそうだ。

 決勝でのゴラッソはブレイクの兆し。あるいは山口が、全国のステージで一気に周囲の注目を集めるような活躍をする可能性は、十分あると思っていい。

(取材・文 土屋雅史)
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