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全員で繋がる“ジュウシマツ”の逆襲。後半ATに追い付いた米子北がPK戦で帝京撃破!

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PK戦を終えた両チームのキャプテンが健闘を称え合う(写真協力=『高校サッカー年鑑』)

[8.14 インターハイ1回戦 帝京高 2-2(PK5-6) 米子北高 日東シンコースタジアム丸岡サッカー場]

「帝京は憧れのチームですから、試合をするのも凄く楽しみで、歴史もあるチームですし、ウチは歴史がないチームなので、逆に歴史を作れるチャンスはあったと思います。『やっぱり帝京はカッコいいな』なんて思いました。“カナリア対ジュウシマツ”ぐらいの感じだったんじゃないですかね(笑)」。米子北高(鳥取)の中村真吾監督は、安堵の表情を浮かべながらこう言って笑顔を見せた。カナリア軍団を撃破したのは、全員がまとまって戦った勇気ある“ジュウシマツ”たち。14日、インターハイ1回戦で激突した帝京高(東京2)と米子北の一戦は、後半のアディショナルタイムにMF中井唯斗(2年)の劇的なゴールで2-2に追い付いた米子北が、そのままPK戦も制して、2回戦へと勝ち上がった。

 先に攻撃の手数を繰り出したのは米子北。前半5分にプロ注目のMF佐野航大(3年)のクロスから、FW片山颯人(3年)のヘディングはゴール右へ。16分にもDF海老沼慶士(3年)のパスから、FW小橋川海斗(2年)の反転シュートは枠の右へ逸れたものの、2つのフィニッシュシーンを創出する。

 だが、先にスコアを動かしたのは10大会ぶりに夏の全国へ帰ってきた帝京。前半終了間際の35+2分。FW齊藤慈斗(2年)からのパスを受けたMF前野翔平(2年)は左サイドを粘り強く運ぶと、右足一閃。ボールはゴールネットへ突き刺さる。前半1本目の枠内シュートが見事成果に。1-0で帝京がリードして、最初の35分間は終了した。

「ウチは速いサッカーに持ち込みたかったけど、結構時間をうまく使われて、幅の広い感じに持っていかれたというか、全体が間延びした状態になって、距離感が悪くて、連動とか連結ができないまま、厚みのない攻撃でしたね」と前半のチームを振り返った中村監督。だが、既に策は講じていた。前半24分に早くも小橋川に代えて、FW福田秀人(2年)を投入していたのだ。

「本当だともう少し帝京さんも繋ぎたかったと思いますし、攻め込まれてラインが高くなったところに小橋川、みたいなイメージをしていたんですけど、小橋川がどうこうというよりも裏のスペースがなかったから、間で受けるような選手を入れようと思って、福田を入れました」(中村監督)。

 采配的中は後半開始早々の2分。右SB原佳太朗(2年)のフィードに走った福田は、体勢が難しい中でも最後まで諦めずに追い掛けると、やや帝京守備陣の連携が乱れ、目の前にこぼれてきたボールを丁寧にゴールへ流し込む。「しっかりあそこまで諦めずにボールを追い掛けて、“追跡”という部分ができていたからこそ決められたと思いますし、最後までボールを見て、シュートをしっかり落ち着いて決めることができたので良かったです」という9番は、ベンチメンバーの元へ膝から滑り込む。1-1。スコアは振り出しに引き戻された。

 ここからは米子北に続けてチャンス。12分にはMF木村愛斗(3年)のパスから福田、直後にも佐野のパスを受けたMF渡部颯斗(3年)、22分にもドリブルで仕掛けた片山が相次いで枠内にシュートを打ち込むも、ことごとく帝京の守護神を任されたGK岸本悠将(3年)がファインセーブで凌ぐと、次の得点もカナリア軍団に。

 22分。スムーズなボール回しから右サイドでボールを引き出した齊藤が、少し縦に運んでそのままグラウンダーで中央へ。ここで待っていたのは後半から投入されていたMF福地亮介(3年)。東京都予選の準決勝でもチームを全国に導く決勝点を叩き出した男が、このボールを難なくゴールへプッシュ。2-1とまたも帝京が一歩前に出る。

 再びビハインドを追い掛ける展開となった米子北は、27分に3枚替えで勝負に出る。29分には福地に抜け出され、決定的なピンチを迎えるも、これをGK山田陽介(3年)が何とかファインセーブで凌ぐと、ドラマは4分という数字が掲示されたアディショナルタイムに待っていた。

 ほとんどラストプレーの35+4分。3枚替えの1人として投入されていたMF牧野零央(3年)が粘って残すと、やはり後半途中からピッチに解き放たれた中井は左足で素早くシュート。岸本も懸命に食らい付いたものの、ボールは弾き切れずゴールネットへ。土壇場で米子北が追い付き、2回戦進出の行方はPK戦に委ねられる。

 ここでも両雄譲らず。5人目まではお互いに成功が続く。そして6人目。先行・帝京のキックは山田がストップ。後攻の米子北は海老沼がきっちり沈めて勝負あり。「失点をしても、落ち込んだり諦めるのではなくて、最後まで何があるかわからないと、全員で力を合わせて戦えるというのが今年のチームの特徴です」と福田も言い切った米子北が、熱戦をPK戦で制して、次のラウンドへと駒を進めた。

 劇的な同点弾が生まれた最終盤。負けもちらつくような厳しい状況にも、米子北は諦めずにゴールへと迫る姿勢が印象的だった。「最後は結構距離感が良くて、ワンタッチで弾いた所に人がいて、またワンタッチで人がいてという、連動はしてきていたので、『もうちょっと時間があれば』なんて思いながら。でも、彼らも最後まで勝ちを信じてやってくれたので、最後のゴールに繋がったというか、なんかラグビーじゃないですけど、みんなで運んで、最後にフリーになってという形だったので、厚みのある攻撃はできたかなと思いました」という中村監督の言葉にも頷ける、『みんなで運んで』奪った同点弾が、粘り強く勝利を引き寄せる一因となった。

「いやあ、疲れましたね」と苦笑した指揮官は、「これで強くなってほしいなと。勝っても負けても、去年は成長する場がなかったじゃないですか。今回は成長する場があるから、それこそ冬にも繋がるし、来年にも繋がるし、将来にも繋がるし。『勝っても負けても成長しよう』というのは言い続けていたので、最後にそれが勝ちに繋がったことで、『勢いに乗ってくれたらいいな』なんて期待はしていますけどね」と言葉を続けている。

 全員でまとまって勝利を掴み取った米子北。勢いに乗った感のある、勇敢な“ジュウシマツ”たちの躍進は果たしてどこまで。

(取材・文 土屋雅史)
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