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“あの1本”を今度は絶対止めるために。帝京GK岸本悠将は冬の全国でのリベンジを誓う

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奮闘及ばず初戦突破は果たせなかった帝京高のGK岸本悠将(写真協力=高校サッカー年鑑)

[8.14 インターハイ1回戦 帝京高 2-2(PK5-6) 米子北高 日東シンコースタジアム丸岡サッカー場]

 70分間の中で、少なく見積もっても3本のファインセーブを披露。PK戦でも6本のキックの内、3本は確かに触っていた。それでも守護神は苦々しい顔で、こう振り返る。「2点も獲って勝てないのは自分のせいなので、『迷惑を掛けてしまったな』という印象ですね。良かった部分はありますけど、勝たなきゃ意味がないと思うので」。10大会ぶりに夏の全国へ出場した帝京高のゲームキャプテン。GK岸本悠将(3年=鹿島アントラーズつくばジュニアユース出身)の奮闘は、勝利という結果に惜しくも結び付かなかった。

「自分は少し緊張していましたけど、みんなも多少はしていたんじゃないですか。プリンスリーグとはやっぱり雰囲気の違いはあったと思います」。インターハイ初戦となった米子北高戦。最後方からピッチを見ていた岸本は、普段より緊張気味のチームメイトを察知しながら、いつも通り的確な指示とチームを鼓舞する声を出し続ける。

 なかなかチャンスらしいチャンスが訪れない中で、前半終了間際に先制したものの、後半開始早々には自身とディフェンダーとの連係ミスもあって、悔しい失点を献上。そこから一気に畳みかけてきた相手の前に、頼もしい守護神がことごとく立ちはだかる。

 後半12分に続けて放たれた決定的なシュートをきっちりと弾き出すと、圧巻は22分のシーン。帝京の右サイドをドリブルで運ばれ、そのまま枠内へ打ち込まれたシュートに、岸本は瞬時に足を出して“ファインキック”で阻止。凄まじい反射神経でチームの危機を救う。35+3分に2度目の同点弾を奪われたシーンも、弾き出せなかったとはいえ、ボールには触っていた。個人としてできることは、ほぼ100パーセントでやり切っていた印象も強い。

 もつれ込んだPK戦でも4人目まで両チームが成功を続ける中で、岸本は責任重大な5人目のキッカーとしてスポットへ向かう。「『蹴りたいヤツ?』っていう話になった時に、日比(威)先生には『1番目行くか?』と言われたんですけど、『1番目はさすがにちょっと…』と言って、順番が決まっていく中で『じゃあ5番目行くわ』と。自信はあったので、コースを狙って蹴りました」。プレッシャーの掛かるキックを、右上スミへ完璧なコントロールで突き刺す。そのキックの質に関係者の集うスタンドからもどよめきが上がっていた。

 “本職”でも、あと一歩までは迫っていた。米子北の2人目、4人目、5人目が蹴ったキックは、いずれもボールに触っていたものの、スリッピーなピッチ状況やボールの重さもあって、弾き切れない。結局シュートストップを見せるには至らず。「PK戦も完全に自分のせいですね。止めていれば終わっていたので」と悔し気な表情を浮かべたが、70分間でのパフォーマンスも含めて、岸本に敗因を求める者はおそらく誰もいないだろう。

 3年間努力を重ねた末に辿り着いた、初めての全国大会。「率直に楽しかったし、もっとみんなで、この舞台でサッカーをやりたかったなという想いは強いですね」と本音を漏らしたゲームキャプテンは、それでも既にしっかりと前を向いていた。

「もうプリンスリーグが直近ですぐあるので、切り替えてプレミアに昇格するためにやっていかないといけないですね。あとは、インターハイに出るだけじゃダメだと思いますし、今回でトーナメントの怖さを知ったので、最後の選手権に向けて、もっと勝利を掴めるようにやっていかないといけないかなと思います」。

 この日、あと少しで止められたかもしれない“あの1本”を今度は絶対止めるため、岸本は残された高校生活に持てるすべてのものを注ぎ込み、冬の全国の舞台でのリベンジを誓う。

(取材・文 土屋雅史)
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