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後半終了間際に貴重な追加点!追い込まれていた静岡学園FW川谷凪の焦りと安堵と

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FW川谷凪(右端)は自らのゴールに安堵の笑顔!(写真協力=『高校サッカー年鑑』)

[8.15 インターハイ1回戦 静岡学園高 3-1 仙台育英高 テクノポート福井総合公園芝生広場]

 後半33分。チームの10番を背負うMF古川陽介(3年)のシュートが右のポストに当たると、目の前にボールが転がってきた。静岡学園高のスピードスター。「前日から緊張していて、ずっと自分のプレーが出せなくて、もう自分の中では点を決めるしかなかったので」と追い込まれていたFW川谷凪(3年=千里丘FC出身) に、千載一遇の得点機がやってくる……

 川谷は焦っていた。右ウイングでスタメン起用されながら、思うように自分のスピードを生かす場面を作れない。前半23分にはMF玄理吾(3年)のスルーパスに走り込むも、シュートは右サイドネットの外側に。「今日は自分の中でスピードが全然出せなくて、縦は警戒されているのかわからないですけど、自分の中で縦に行く感じじゃなくて、ずっと中、中って切り返しばっかりで、全然シュートも打てなくて、自分の良さが全然出せなかったです……」。

 明らかに緊張していた前半を終え、ハーフタイムを挟むと「後半から緊張はだいぶ良くなりました」とようやく平常心を取り戻しつつあったが、なかなか持ち味は発揮し切れないまま。ただ、川口修監督は手元に多彩な交代カードを有しながら、終盤まで動かない。

 そして、冒頭のシーンが訪れた。古川のシュートがポストに弾かれると、川谷の目の前に押し込むだけのボールが出現する。丁寧に、慎重に、右足で押し出したシュートがゴールネットを揺らすと、安堵の笑顔が思わずこぼれる。「今日の出来はゴールを獲れて、やっとチャラに行くか行かないかぐらいだったので、ギリギリで獲れて良かったと思います」。結果だけを見れば、きっちりゴールで勝利に貢献した形だが、それでも“チャラ”とも言い切れない消化不良感を抱えながら、笑顔で首をかしげる仕草にも、実に川谷らしい明るさとキャラクターの良さが滲み出る。

 個性派が揃うアタッカー陣の中で、スピードという明確な武器のある川谷も、決してポジションが安泰というわけではない。「控えに2年生の高橋(隆大)という選手がいて、ずっとその子とポジションを争っていて、試合に出たタイミングで自分の持ち味を出さないとすぐに代えられてしまいますし、そのあたりは凄くシビアにやっているので、試合では自分のプレーを全部出そうと思っています」。

 以前に自ら「みんなができないことをやらないとここで生き残れないと思うので、普通にテクニックとか技術は全然ないことで、その点ではチームに迷惑を掛けているかもしれないですけど、自分が出せるプレーでチームに貢献できたらいいなと思っています」と口にしていたように、もともとチームにおける自らのキャラクターは十分に把握済み。年代別代表候補にも名前を連ねている“後輩”と切磋琢磨しながら、自らの立ち位置を確立するため、唯一無二の武器を磨き続ける決意は定まっている。

 次戦への意気込みを問うと、いつもの笑顔で力強い言葉が返ってくる。「次は絶対に自分がゴールを決めて、チームを勝たせるので、アシストでも得点でも貢献できるように頑張りたいです」。この男が勢いに乗ってしまえば、そのままチームが上昇気流に乗っていくことは間違いない。ここからシビアな戦いを勝ち抜いていく上でも、静岡学園にとって川谷の爆発は必要不可欠だ。

(取材・文 土屋雅史)
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