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終盤に見せた意地のゴール。仙台育英FW佐藤遼が残すポジティブな成長の余白

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後半終了間際に意地のゴールを決めた仙台育英高FW佐藤遼(写真協力=『高校サッカー年鑑』)

[8.15 インターハイ1回戦 静岡学園高 3-1 仙台育英高 テクノポート福井総合公園芝生広場]

 終盤に意地を見せて奪ったゴールよりも、前半に生かせなかった決定機逸を悔やむ姿勢は、きっと明日の自分をより伸ばしてくれる。何度でもトライできるストライカーというポジションであれば、なおさらだ。「最後に自分が1点決められましたけど、前半のあの決定機を決められたら、絶対にもっと良い流れになったはずですし、そこはもっと上手くならなければいけないと思いました」。仙台育英高のナンバー9。FW佐藤遼(3年=FC駒沢U-15出身)には、まだまだ成長を書き込む余白がポジティブに残されている。

 明らかに仙台育英の攻撃は、この男の出来に懸かっていた。「9番が上手いという情報はありました」(静岡学園高・川谷凪)「カウンターは非常に鋭かったですし、前半からあの9番には非常に苦しめられましたね」(静岡学園高・川口修監督)。ボールは相手に握られる中でも、佐藤は虎視眈々とチャンスを狙い続ける。

 前半26分。1点のビハインドを背負ったシチュエーションで訪れた絶好の同点機。「自分たちフォワードと(村井)創哉でハメに行って、最後に染野が良い形で取るというところまでは完璧でした」(佐藤)。高い位置でボールを奪い、そのままのトランジションでMF染野優輝(3年)のパスが佐藤へ届く。

「もらった後にちょっと余裕がなくて、キーパーの方を見られずに感覚で蹴ってしまったので、もっと冷静にならないといけないなと思いました。みんなが守ってくれて、やっと取れたチャンスだったので、決めなければいけないと思っていたんですけど……」。決定的なシュートは、静岡学園のGK生嶋健太郎(3年)にファインセーブで阻まれてしまう。

 ただ、その場ではメンタルをすぐに切り替える。「シュートを外した後に、自分が1人で悔しがるのはみんなに失礼だと思ったので、とにかく切り替えることを大事に考えて、次のゴールを狙いに行きました」。悔しかったことは言うまでもないが、次のチャンスに向けて心を整え直す。

 0-3と点差を広げられ、敗色濃厚の後半アディショナルタイム。35+3分のワンシーンにストライカーの矜持を詰め込んだ。途中出場のMF明石海月(3年)がボールを持つと、最善のタイミングを見極めながら、その時を窺う。「ちょうど自分がマークのセンターバックと明石のボールを見られる位置にいたので、センターバックの視線から外れて動きました」。

 相手ディフェンスラインの裏へ明石のパスで抜け出すと、GKとの1対1も冷静に制し、ボールをゴールネットへ流し込む。「無駄に蹴ってもしょうがないと思ったので、『最悪、取られてもいいから丁寧に行こう』と思いました。ファーストタッチをミスせずに、そのあとも冷静に入れられたのは、去年からまた成長した形なんじゃないかなと感じています」。

 これだけでは終わらなかった。35+6分。三たび佐藤にチャンスが到来する。右サイドを単騎で運ぶと、中央を並走していたMF島野怜(3年)がパスを要求していたが、そのまま自分でフィニッシュ。「怜にも『出せ!』とは言われたんですけど、あそこで出してもフォワードじゃないですし、意地でもシュートを打とうとは思っていました」。軌道は枠を外れ、直後にタイムアップのホイッスル。勝敗ということを考えれば、あるいは別の選択もあったかもしれないが、あの局面でシュートを打ち切るあたりに、根っからのストライカー気質があふれ出ていた。

 携えてきた武器を磨くために、自主練にも余念がない。「練習終わりに、コーチにシュート練習をお願いしてやってもらっているんですけど、そのコーチは自分の武器がスピードだとわかってくれていたので、とにかく裏抜けの練習と、裏に抜けてからのファーストタッチの練習をやらせてもらって、自分としてもまずパサーとのタイミングを見て、そのあとセンターバックの視線から外れるということを徹底してやってきました」。この日の得点で結実した形は念頭に置きつつ、さらにゴールを獲る形の幅を広げることが自身の価値を高めていく。

 残された半年強の高校生活への意気込みを尋ねると、「周囲がどうとかそういう問題じゃなくて、自分が個人として1つレベルアップしたいなと思っています」ときっぱり。レベルアップする余地も、さらに突き抜けていくためのポテンシャルも十分。佐藤の“フォワード道”はまだまだここから先へと確実に伸びていくはずだ。

(取材・文 土屋雅史)
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