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右足に乗ったみんなの想い。福井商FW中津悠哉はチーム史上初となる全国での1点を奪う!

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チーム史上初となる全国でのゴールを決めた福井商高FW中津悠哉

[8.16 インターハイ2回戦 神村学園高 5-1 福井商高 三国運動公園陸上競技場]

 その瞬間。みんなの想いが、右足に乗った。「得意な形ではないです。いつも練習中ではああいう場面を外していたので、自主練で蹴るようにはしていて、それが今日は結果として出て良かったと思います」。地元開催のインターハイに挑んだ福井商高(福井)のキャプテンにして、ストライカー。FW中津悠哉(3年=あわら市金津中出身)のゴールが、歴史の扉を力強く開いた。

 気付けば4失点を食らっていた。優勝候補の一角と目されている、タレント集団の神村学園高(鹿児島)相手の初戦。「優勝を狙うようなチームと対戦するということで、そこは覚悟していたので、その相手にどのような戦い方で挑んでいくかということを組み合わせが決まってから1か月ちょっと準備してきたんですけれども、まあその上を行かれたなというような感じです」と高木謙治監督も話したように、ことごとくチャンスをゴールに結びつけられていく。

 チャンスがないわけではなかった。15分には中津も力強いドリブルで左サイドを突破し、そのまま枠の左へ外れるシュートまで持ち込んでいる。「もう少しドリブルで相手を剥がせたかなって。遠くから打った時も、もう1歩相手の前に運べたかなっていうのはあります」。得意のドリブルが通用する部分もあったが、ゴールの可能性を漂わせるまでには至らず、4点のビハインドを背負って、ハーフタイムを迎える。

「4点獲られて、正直あの子らの中でも気持ち的に落ちていた部分もあったんですけど、ハーフタイムで言ったのは『このまま終わったら何も残らないぞ』と。『もう4点獲られてしまったことは消せないけど、ここで1点返す、2点返すということがこれからに必ず繋がるし、それをちゃんと残してやらないと、選手権もその後もないよ』というような話をしました」(高木監督)。

 さらに1点を追加され、0-5で迎えた後半16分。福井商に千載一遇の得点機が訪れる。MF伊藤慎也(2年)が丁寧にパスを送ると、中津が相手ディフェンスラインの裏へと抜け出す。

「最初は出てきたキーパーが間に合わないと思ったのかもしれないですけど、1回ポジション取りして、その時にニアが空いていたので、そこに思い切り蹴ったという感じです」。すべてのパワーを右足に込めて、打ち抜いたシュートはゴールネットを鮮やかに揺らす。ようやく奪ったこの1点は、福井商サッカー部にとっても大きな意味を持っていた。

「アレは凄く大きな1点で、我々のチームは全国大会に何度か出させてもらっているんですけど、今まで1点も獲れていなかったので、あの1点はチームにとっても、本当に大きな1点だと思います」(高木監督)。創部以来初めてとなる全国大会でのゴール。歴史に名を刻んだのはやはり「あの1点は応援してくださった人たちへの恩返しという形にもなるかなと思います」と語る、魂を持ったキャプテンだった。

 試合自体は1-5。完敗といっていい内容だ。ゴール直後に膝を痛め、交代を余儀なくされた中津は試合後、この一戦から得たモノをこう語っている。「やっぱり県内では1対1で抜けていた部分とか、決まっているようなシュートでも止められたり、チーム全体として力の差を感じました。今日の試合でもゴール前の球際とかが弱くて失点した部分があったので、そういう部分は練習からしっかり意識しながら、選手権ではミスした部分を直していけるようにやっていきたいです」。

 昨年末にはJ1・湘南ベルマーレへの練習参加も経験。「ボールを受ける場所とか、クロスに入るタイミングとか、球際の強さとかは凄かったですし、雰囲気やサッカーに対する姿勢の部分も学べたので、その時にプロに行きたいという気持ちが強くなりました」。今後は大学進学予定だが、4年間でしっかり力を付けて、プロの世界へ飛び込もうという決意は固い。

 参考にしている選手を尋ねると、意外な答えが返ってきた。「自分はドリブルが得意だと思っていて、1対1のシュートは基本的に決められる自信があるので、自分はメッシをイメージしています。右足のメッシです(笑)」。

 福井商を前線で牽引し続ける、背番号10のキャプテン。『右足のメッシ』こと中津悠哉の名前を、是非覚えておいてほしい。

(取材・文 土屋雅史)
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