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謙虚で大胆な点取り屋。青森山田FW名須川真光の控えめな得点王宣言

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青森山田高のトップスコアラー、FW名須川真光(写真協力=『高校サッカー年鑑』)

[8.18 インターハイ3回戦 丸岡高 0-8 青森山田高 テクノポート福井総合公園スタジアム]

 決して大きなことを言うタイプではない。逞しい体格を生かして戦うピッチ上での姿と、朴訥とした雰囲気で言葉を紡いでいくピッチ外での姿は、そのギャップも微笑ましいが、謙虚さの中にストライカーとしての矜持も滲ませる。「自分も今、山田で一番点を獲っていますけど、そこで天狗には絶対ならないで、これからもチームのために働いて、点を獲っていきたいと思います。できれば得点王、獲りたいです」。控えめな得点王宣言。青森山田高のナンバー9。FW名須川真光(3年=ヴェルディSS岩手U-15出身)は虎視眈々と“一番上”を狙っている。

「もうかなり走れる身体になってきていて、いい感じになってきています。自分がボールを収められないと攻撃のリズムも全部崩れてしまうので、自分が攻撃の基点になれるように頑張っていきたいです」。名須川がこう語るのには、理由があった。

 怒涛の開幕7連勝を飾っていた高円宮杯プレミアリーグEASTだったが、第8節の柏レイソルU-18戦にホームで2-3と敗れ、今季初黒星を喫すると、第9節でもやはりホームでFC東京U-18を相手に1-1のドロー。勝ち点を取り逃がした2試合に共通していたのは、ともに名須川が欠場していたことだったのだ。

「名須川がいなかったこともあって、やっぱり1人欠けることの重要性も認識できたし、その時に攻撃のパターンを失ってしまうことも見えたし、リスタートも含めてオプションが減っていくというのは気付けた部分でもありますね」とはチームを率いる黒田剛監督。9番が纏っていた存在感に、チームは失ってみて改めて気付く。

 迎えた今大会。強豪対決として注目を集めた、1回戦の長崎総合科学大附高(長崎)との一戦でも貴重な先制点を叩き出し、チームの勝利に貢献すると、2回戦の初芝橋本高(和歌山)戦でもきっちり1ゴール。攻撃のターゲットとしても、ゴールを重ねる得点源としても、名須川は確かな活躍でチームにおける自らの重要性をアピールしてきた。

 それは3回戦の丸岡高(福井)戦でも同様。まずは前半24分。「『とりあえずゴール前にいようかな』と思っていたら、(渡邊)星来がこっちを見てパスしてくれたので、流し込むだけでした」と振り返ったように、2トップのパートナーでもあるFW渡邊星来(3年)のアシストで、3戦連発となる今大会3点目を記録する。

 さらにMF藤森颯太(3年)の4点目、キャプテンを務めるMF松木玖生(3年)の5点目は、いずれも名須川のシュートがGKに弾かれたところを詰めたゴール。2つの“アシスト未遂”、あるいは“ゴール未遂”は数字にこそ残らないものの、前半で勝負を決めたこの日の試合でも、非常に大きな仕事を果たしたことは言うまでもない。

「前半は『自分が自分が』となり過ぎていて、玖生が横にいたのにシュートを打ってしまって、それは入らなかったんですけど、試合の入りは自分がというのもあっていいと思いながらも、前半はチームで連携するような形でやっていったら、もっと点も入っていたのかなと思います」という発言を受け、それこそストライカーに必要なメンタルなのではと問い掛けると、少し小声でこう返す。

「やっぱり監督が勝ちにこだわっているので、自分でも点が欲しくて周りを使わないと、結構厳しく言われたりもするんですけど、それは自分のメンタル強化だと思っています」。そのぐらいの心構えで、ストライカーはちょうど良い。

「フォワードとしてはいい感じになっていると思うんですけど、2トップになった時にサイドからのクロスにニアへ飛び込んでいくというところで、2人とも触るということが全部できなくて、そういうところもちゃんとできればなと思います」。渡邊とはコミュニケーションを取りつつ、連携も間違いなく深まってきている。点を獲り、点を獲らせる。この高体連最強2トップの出来が、ここからよりシビアになってくる戦いの中で、チームの浮沈を握ってくることは間違いない。

 謙虚で、大胆な点取り屋。大会が終わってみれば、名須川が結果的に日本一と得点王を同時に手にしていることは、十分想像の範疇内で起こり得る未来である。

(取材・文 土屋雅史)
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