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死力を尽くした7分の後半アディショナルタイム。星稜は粘る岡山学芸館を振り切って4強進出!

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終盤まで死力を尽くしたゲームは星稜高に軍配(写真協力=『高校サッカー年鑑』)

[8.19 インターハイ準々決勝 岡山学芸館高 1-2 星稜高 三国総合運動公園陸上競技場]

 7分が掲示され、一気に雨脚の強まる中で繰り広げられた後半のアディショナルタイムに、双方の意地と執念が凝縮されていた。「やっぱり相手も勢いがあって、怖さはあったんですけど、本当に仲間と自分を信じてやるだけでした」(星稜・中村実月)「最後の最後まで諦めずに戦っている姿勢というのは。本当に逞しくなったなと思いました」(岡山学芸館・高原良明監督)。

 全国4強を巡る420秒の攻防が導いた結末。19日、インターハイは準々決勝が開催。ここまで2度のPK戦も含めて粘り強く勝ち上がってきた岡山学芸館高(岡山)と、徐々に調子を上げてきた星稜高(石川)の一戦は、2-1で星稜が接戦をモノにして、2007年度以来14年ぶりとなるベスト4進出を手繰り寄せた。

 前半はキックオフ直後から吹き始めた風の影響がある中で、風上に立つことになった星稜がいいリズムで立ち上がる。7分にはFW伊藤大雅(3年)の落としから、MF戸川期雄(3年)が叩いたミドルは枠の左へ外れたものの、ファーストシュートを。力のある伊藤とFW山崎陸成(3年)にボールを預けつつ、右の戸川、左のMF前田一勇(3年)とサイドハーフの仕掛けから相手ゴール前を窺うと、26分には山崎が左ポスト直撃のミドルも。攻勢が続く。

 すると、31分にスコアを動かしたのもやはり星稜。左サイドからDF山田凌平(3年)が投げ入れたロングスローに、ニアでDF井上陽向大(3年)がわずかに触ったボールは、GKに当たりながらゴールネットへ滑り込む。公式記録はオウンゴール。「前半は思ったよりもウチのペースでできたのかなという印象はあります」と河合伸幸監督も口にした星稜が、勢いそのままに先制点を奪う。

「前半は風下のところで、なかなかリズムを掴めなかったですね」と高原監督も話した岡山学芸館は、1トップのFW寺脇琉生(3年)、インサイドハーフのMF木村匡吾(2年)と山岡亮太(3年)に良い形でボールが入らず。35+2分に山崎、MF岡田伯斗(3年)と繋ぎ、前田が放った星稜の決定的なシュートを、守護神のGK寺島紳太朗(3年)が弾き出すと、35+5分には千載一遇の同点機。

DF竹川奏(3年)のロングスローから、代わったばかりのMF田中壱晟(3年)を経由して、寺脇が迎えた1対1のビッグチャンスは、星稜のGK山内友登(3年)がファインセーブで文字通りの仁王立ち。星稜の1点リードでハーフタイムに折り返す。

 後半7分。高原監督が動く。「もう本当に点を獲りに行かないといけないというところで、攻撃的に行くぞと」3枚代えを敢行。システムも2トップの下にキャプテンの山岡を配した3-5-2にシフトして、強めたアタックの意識。14分には前線に投入されたFW小野大輝(3年)に、15分にはこちらも途中投入のFW今井拓人(2年)に、相次いでフィニッシュが訪れるも、山内が丁寧なキャッチで危機を回避する。

 25分も右サイドから木村がアーリークロスを上げると、ファーに潜った今井はシュートを打ち切れず。29分に田中の右クロスから、山岡の枠内シュートは山内がキャッチ。30分にも右サイドを今井が運び、山岡のスルーを経て、竹川のシュートは枠の左へ。岡山学芸館はどうしても1点が奪えない。

 1-0のままで突入したアディショナルタイム。第4審判が掲げたボードには“7”の数字。ここから一気に大粒の雨が降り出すと、まるでそれが合図だったかのような激しい攻防の幕が開ける。

 35+2分。左サイドをDF黒田大翔(3年)、MF福島元基(2年)と交代出場の2人で切り崩すと、「疲れてはいたんですけど、チームのために最後まで走ろうと思ってゴール前に走り込んだら、福島が良いボールを上げてくれましたね」と振り返る前田が揺らしたゴールネット。1試合を通してピッチを走り続けてきた男の、貴重な追加点。2-0。土壇場で星稜が突き放す。

 岡山学芸館は折れず。35+3分。今井のドリブルから、MF檀野世那(3年)が狙ったシュートは星稜の右SB石田達己(3年)が身体でブロック。こぼれに頭で詰めた山岡のシュートは山内にキャッチされたが、それでも岡山学芸館は折れず。

 35+5分。右サイドで今井が頭で残すと、檀野のクロスがDFに当たり、こぼれたボールへ懸命に食らい付いた山岡が足先でわずかに触ったシュートは、左ポストの内側を叩いて、ゴールネットへ転がり込む。2-1。残された時間は、あと2分。1点差でもつれ込む最後の120秒。

 35+6分。2つのヘディングで懸命にエリア内へボールを運び、山岡が浮かせたシュートは寺島がキャッチ。35+7分。ハーフウェーライン付近からFKを放り込み、こぼれを叩いたシュートはゴールネットを揺らすも、その前にオフェンスファウルを取っていた主審。右から、左から、とにかく岡山学芸館はボールをゴール前へ注ぎ込む。

「7分は苦しかったですね」(中村)。ようやくタイムアップを告げる笛が吹き鳴らされる。2-1。「最後に苦しい時間帯があったんですけど、それをディフェンス、キーパー含め、メンバー全員で守り切れたというのは良かったと思います」と中村も安堵の表情を浮かべた星稜が、粘る岡山学芸館を振り切って、全国4強を堂々と勝ち獲った。

 お互いに点を奪い合った終盤について、「高校生らしいなと思いました。気持ち負けしちゃうとああなっちゃうんですね。失点を1点だけで収めてくれたので、運もあったのかなと思います」と振り返った星稜の河合監督は、「1人1人の能力で見れば、ウチはそんなに高い選手はいないんですけど、まとまりがあるなあということと、頑張りが利くチームになってきたなと。よく走るようになってきたなと思います」と言葉を続ける。

 キャプテンの中村も今年のチームの特徴を問われ、「自分たちは上手いと思っていないですし、そこに変なプライドもなくて、自分たちのやりたいサッカーをやるために、1人1人がどんな声を出すかとか、どんなプレーをするかとか割り切ってやれているので、そこが今年のチームの良いところだと思います」ときっぱり。自分たちの実力と実際にやれることを見極めて、目の前の最善を選べる選手が揃っているという。

 彼らに残されたのは最大で2試合。それなら、もちろんその2試合とも戦いたい。「どんな相手でも臆することなくやろうという姿勢もあるし、2回戦みたいに先行されて突き放されても諦めないという姿勢があるので、どれだけやってくれるのか楽しみは楽しみです。選手が今大会は本当に頑張っています。僕は先発を決めて送り出すだけなので(笑)」(河合監督)。

 おそらく、この勢いは本物。確かな自信を纏い始めている今の星稜を止めるのは、なかなか困難なミッションだ。

(取材・文 土屋雅史)
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