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ピッチに響き渡るポジティブな声。星稜DF中村実月は「本田圭佑選手の本を読んで」憧れたチームで日本一を目指す

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星稜高を牽引するキャプテン、DF中村実月(写真協力=『高校サッカー年鑑』)

[8.19 インターハイ準々決勝 岡山学芸館高 1-2 星稜高 三国総合運動公園陸上競技場]

「謙虚に!謙虚に!ひたむきに!」「勝つのはオレらやぞ!やれ!やれ!」

 常にポジティブな声を、その男はピッチに響き渡らせている。たとえその左腕にキャプテンマークを巻いていなかったとしても、最終ラインでチームを束ねる姿を、仲間を鼓舞する姿を見れば、一目でこの男がリーダーだと理解できるはずだ。

「練習の中では厳しい声も必要だと思うんですけど、自分もうまく行かない時はありますし、その時に厳しい言葉とかを掛けられると、次にもう1回100パーセントでできるかと言ったらそうじゃないと思うので、そこは割り切って、マイナスな声が出ないように、プラスの声をみんなで出せるようにすれば、もっといいのかなと思って、自分はそういう声を出すようにしています」。

 センターバックの輩出に定評のある星稜高(石川)が新たに世へ送り出すディフェンスリーダー。DF中村実月(3年=サガン鳥栖U-15出身)の存在感は、とにかく際立っている。

 そもそも彼がいなければ、ここまで勝ち上がることは難しかったと言っていいだろう。1回戦の山辺高(奈良)戦では、後半アディショナルタイムに決勝ゴールを叩き出し、ウノゼロ勝利に貢献。2点を先行された2回戦の札幌大谷(北海道)戦でも、自ら終了間際に同点弾を記録し、追い付いたチームはPK戦を制して、次のラウンドへ。勢いの付いた3回戦でも、センターバックとして徳島市立高(徳島)を無失点に抑え、3-0の快勝を下支えした。

 4強入りを懸けたこの日の準々決勝。ここまで来れば、そう簡単に勝利を掴めるはずがない。前半のうちにオウンゴールで先制したものの、岡山学芸館高(岡山)も後半に入ると、システム変更も含めてアクセルを踏み込む。

 とりわけ、2点目を入れて突き放したかに見えた後半のアディショナルタイムに、1点を返されると、そこからは一方的に押し込まれる。「やっぱり相手も勢いがあって、怖さはあったんですけど、本当に仲間と自分を信じてやるだけでした」という中村も、必死に仲間に声を掛けながら、降りしきる雨の中で相手の猛攻に耐え続ける。

 掲示されたアディショナルタイムは7分。あるいはそれ以上の時間を、リードを保ちながら懸命に凌ぐと、ようやく勝利を告げるタイムアップの笛を聞く。「最後に苦しい時間帯があったんですけど、それをディフェンス、キーパー含め、メンバー全員で守り切れたというのは良かったと思います」(中村)。壮絶な一戦を仲間とともに勝ち切り、ベスト4への挑戦権を手に入れた。

 中村はもちろん、チーム全体として非常に声のよく出る姿勢が印象的。試合前から元気に、楽しげに、ウォーミングアップに取り組む姿勢も好感が持てる。「自分たちは1人1人を見ても上手い選手はいなくて、みんなでやらないと勝てないようなチームなので、キャプテンの自分が引っ張るというのもあるんですけど、1つの勝利に向かって全員が同じ方向を向いてやれているので、そこでうまく声が出ているのかなと思います」。グループが有する良い雰囲気は、確実にピッチへ反映されている。

 中学生時代は今やJクラブの中でも有数の強さを誇る、サガン鳥栖U-15に所属していたが、U-18への昇格が難しくなった時、進路として真っ先に考えたのが、星稜高校だったという。

「小学校の頃に本田圭佑選手の本を読んで、それで星稜を知ったんですけど、そこからずっと『星稜に行きたい』と思っていて、U-18への昇格が保留ということになって、どうなるかわからないという中で、結果的に昇格できなかった時に、もう進路は星稜一本で、『星稜で全国優勝したい』と思って決めました」。

 この日もセンターバックでコンビを組んでいたDF井上陽向大(3年)も、サガン鳥栖U-15出身。「井上も高校はどこに行くか決まっていなかったみたいなので、自分が誘いました」と明かしながら、「中学生の頃のチームメイトと、一緒に全国の舞台に立ってやれるということは凄く嬉しいです」と中村。2人にとっては6年目の集大成。機は熟した。

「全国優勝というのは練習の中から意識してやってきたので、そこを目指してまたあと2試合、良い声を掛けて、みんなで同じ方向を向いて、目標を再確認して、決勝の舞台に行きたいと思います」。

 豊田陽平も、本田圭佑も、鈴木大輔も辿り着いていない夏の日本一。その頂の景色を見るために、中村は次の試合も、その次の試合も、ポジティブな声をピッチに響かせ続ける。

(取材・文 土屋雅史)
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